乃木坂46 憂鬱と風船ガム 評判記

「憂鬱と風船ガム」
歌詞、楽曲、ライブ表現について、
14枚目シングル『ハルジオンが咲く頃』のカップリング曲。センターは星野みなみ。
憂鬱から立ち直ろうとする、青春のひとコマを歌っている。「校庭」や「一人きり」といったワードによってお決まりの世界観を作っている点に工夫が足りないと感じるものの、ため息がガムの風船を形作る、という憂鬱のイメージの出し方には舌を巻くものがある。
この、目には見えないもの、を語ろうとするその作詞家の詩情が、アイドルを演じる少女たちに響いたのだろうか、この楽曲を踊るアイドルの表情はどれも瑞々しく、キラキラと光っている。とくに星野みなみのダンス・表情が段違いに素晴らしい。彼女は、ほんとうにダンスが上手い。天才的である。ステージの上でアイドルが踊ることによってそのアイドルの物語を辿ることができるし、なによりも身体の動き一つひとつが静かな愛嬌に満ちていて、とびきりにコケットリーである。今作では、そのアイドル・星野みなみの踊り=魅力がたっぷりと味わえる。幻想の空にヒビを入れてしまったアイドルだが、結局、なんだかんだいって許せてしまう、のだとしたら、やはりそれはステージの上で作られるアイドルの踊りに格別な魅力がそなわっているからだろう。
作詞家・秋元康が編み上げる幼稚な歌謡曲を前にして、それをそのとおりに幼稚だと感じたはずのアイドルが、しかし大人になってしまったあとにその楽曲に触れ、自身がその幼稚な、ありふれたストーリーに沿うように生きてしまった、アイドルを演じてしまったことに気づく。ファンに活力をあたえるために歌い踊っていた楽曲を、今度は当事者として演じなければならない。あるいは、もう演じることができない、という情況に出遭う。これは『青春と気づかないまま』以降、前田敦子、渡辺麻友から平手友梨奈まで、繰り返し描かれてきた光景だが、乃木坂46の星野みなみもまた、その普遍性に囚われたようにみえる。それは秋元康という人間の才能の発見や証だてなどではなく、自分がどうしようもなく凡庸であり通俗に囚われていることの、つまり他の誰よりもグループアイドル然としていることへの発見、証明にほかならない。星野みなみとは、やはりその存在そのものが「アイドル」なのだろうし、それ以外のなにものにもなれないひと、なのだろう。
総合評価 64点
再聴に値する作品
(評価内訳)
楽曲 12点 歌詞 12点
ボーカル 13点 ライブ・映像 15点
情動感染 12点
歌唱メンバー:秋元真夏、生駒里奈、井上小百合、桜井玲香、高山一実、星野みなみ
作詞:秋元康 作曲:HIROTOMO、Dr.Lilcom 編曲:APAZZI