NGT48 Maxとき315号 評判記

「美しいあの街」
楽曲について、
カップリング楽曲(AKB48の『君はメロディー』に収録)ではあるものの、グループ初のオリジナル楽曲であり、ファンだけでなくアイドル自身からも「原点」とされている。また楽曲そのものに対する評価も高く、今作品をもってグループの最高傑作だと唱えるファンは多い。よってこの『Maxとき315号』でセンターポジションに立った高倉萌香をNGT48の初代センターだと呼号するファンの声も少なくない。弱々しく頼りない黒髪の”おかっぱ”少女がステージの中央に立ち、歌い踊りはじめる……、これはいかにもといった印象で、従来の慣行に、いつの間にか漠然と抱いていたグループアイドルのジャンルらしさなるものに従いすぎていると感じてしまうものの、やはり「古典」と表現されるだけあり、高倉萌香を軸に回転する少女たちの群像とそれを背景にして鳴る音楽には強い郷愁がそなわっている。アイドルを演じる少女たちは、まだなにものにもぶつかっていない。
AKB48から連なるグループアイドルシーンをあらたて眺めてみると、「原点」になった一つの歌がそのままグループのフラグシップになる、という展開を描いたアイドルグループは、実は少ない。NGT48を除けば、AKB48の『会いたかった』と欅坂46の『サイレントマジョリティー』くらいだろうか。
「原点」がフラグシップになる、これにはまず楽曲のクオリティが問われ、さらには、アイドルをプロデュースする作詞家・秋元康がアイドルを演じる少女たちを啓蒙する際に、みずからがそこに提示した詩的世界がある種の寄す処として機能するのかどうか、この点が重要になるのだろうと想像する。裏を返せば、「原点」のフラグシップ化とは、楽曲の魅力の深さゆえに、その後の少女たちの物語が画一化され、ファンがその楽曲に強い郷愁をいだき続けてしまうリスクを持つ、と云えるかもしれない。NGT48の場合、あたらしい「センター」をめまぐるしく誕生させるという施策をとるも、結果、グループが「絶望」に直撃し、その「絶望」を前にしたファンは、”あの頃はよかった”、とリクエストアワーで1位を獲得し飛翔を描いたこの『Maxとき315号』に帰郷し、失ったものの大切さに思いを募らせるのだから、やはり皮肉的に映るわけである。
歌詞について、
川端康成の『雪国』の書き出しをそのままグループの物語の書き出しに引くという作詞家・秋元康のクリシェに対する無頓着さ、あるいは偏執、開き直りには呆れ返るばかり。度胸があるのか、鈍感なのか。いずれにせよ、帰郷に伴う郷愁を見出させることでその進行方向とは逆に進む未来への希望を手繰り寄せる、といった遠景を、アイドルに嫁するという表現を用いてアイドルを演じることになった少女の横顔に重ねているが、うまくいっていない。それは結局、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という一文から抱いたイメージに、アイデアに固執し、足を引っ張られているからである。*1
総合評価 57点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 15点 歌詞 7点
ボーカル 9点 ライブ・映像 11点
情動感染 15点
引用:見出し、秋元康 / Maxとき315号
*1 川端康成 / 雪国
歌唱メンバー:大滝友梨亜、荻野由佳、小熊倫実、加藤美南、角ゆりあ、北原里英、日下部愛菜、佐藤杏樹、菅原りこ、清司麗菜、高倉萌香、髙橋真生、太野彩香、中井りか、中村歩加、奈良未遥、西潟茉莉奈、西村菜那子、長谷川玲奈、本間日陽、水澤彩佳、宮島亜弥、村雲颯香、山口真帆、山田野絵
作詞:秋元康 作曲:松本一也 編曲:松本一也