AKB48 失恋、ありがとう 評判記

「失恋、ありがとう」
歌詞、楽曲について、
全体的になげやりで間延びしている。とくに、終盤にかけて投げつけられるしつこさにはあきあきする。しかもこれは楽曲を繰り返し聴く行為によって抱いた倦怠ではなく、たった一度きりの鑑賞においての倦怠である。だが、これは楽曲に付されたタイトルを眺めたとき、ややたじろぐ感触でもある。以前、大江健三郎がガルシア・マルケスを評した際に「『落葉』が一番いい」と云ったが、理由は「読みにくい」であった。仮りに「失恋、ありがとう」におなじような試み、つまり鑑賞行為(失恋)に対して一定の努力を強いる、アイドルファンへの啓蒙があるのだとしたら、このような倦怠にも意味があるわけだ。
ミュージックビデオについて、
16期生の旗手、山内瑞葵をあたらしくセンターポジションに迎えた楽曲のミュージックビデオということで、当然、あたらしい主人公の誕生、その奇跡の瞬間が描かれるのを期待するが、結果を云えば、前時代的な憧憬は描かれていない。山内瑞葵で鮮明に想起するのは、やはり「モニカ、夜明けだ」での表情だ。「モニカ、夜明けだ」で作った彼女の演劇は、提示された作品世界におどろくほど素直に浸透しており、稀有な資質を受け取ったが、今作品においてもそれは健在であり、作り手の示す枠組みからはみ出ない、キュートなアイドルを描いている。なるほど、とおもう場面が多い。現時点で、AKBグループのセンターに立つアイドルとして文句なしの逸材に感じる。スタイルが良いだけでなく、その佇まいには、ある種の堅牢さ、つよさがあり、突出した頼もしさがある。今後に期待せざるをえない存在に映る。
ミュージックビデオそのものについては、ありきたりでつまらない。映し出されるアイドルの多くが作品世界で呼吸しておらず、登場人物に性格を見ない。まったく同じ「顔」で目覚め、まったく同じ「顔」で眠りにつく姿には自己への皮肉すら覗く。つまり、アイドルの成長に対する考察、検証の余地を作らない。あきらかに表現の面で足を引っ張っているアイドルが複数人おり、構成への美意識という一点において、やはり疑問を投じざるをえない。
はたして、3ヶ月後にこの作品を眺めている人間は一体どれだけ存在するのだろうか、あるいは、将来、なにかのきっかけでこの作品に触れた際に、現在の日常生活の感情やにおいを思い描き季節の記憶に浸る、といった光景が起こり得るのだろうか、といった紋切り型の疑問にも遭遇する。
総合評価 45点
何とか歌になっている作品
(評価内訳)
楽曲 7点 歌詞 10点
ボーカル 11点 ライブ・映像 7点
情動感染 10点
歌唱メンバー:岡田奈々、岡部麟、小栗有以、柏木由紀、久保怜音、白間美瑠、須田亜香里、瀧野由美子、田中美久、福岡聖菜、本間日陽、峯岸みなみ、向井地美音、武藤十夢、村山彩希、山内瑞葵、横山由依、吉田朱里
作詞:秋元康 作曲:村上遼 編曲:若田部誠