AKB48 夕陽を見ているか? 評判記

「自分のこと、誉めてあげようよ。君は君らしく生きている」
歌詞、楽曲、ミュージックビデオについて、
AKB48の6枚目シングル。センターに立つのは前田敦子、小嶋陽菜の2名。
AKB48のコアなファンたちにつよく抱きしめられており、この楽曲をAKB48の最高傑作と呼ぶ声も少なくない。たしかに、記憶の中を季節の風として漂っているだけでなく、楽曲に保存されたアイドルの姿形は今なお鮮明な輝きを放ち、ごまかしのないノスタルジーを完成させている。現実と仮想の不分明化によって、アイドルの素顔が描かれることへの自信と確信の裏返しとしての「劇中劇」を作っており、アイドルを演じる少女の内に仮想での記憶が物語として積み上げられていく…、そのような憧憬を握りしめた作り手の存在がうかがえる。
なによりもメンバー構成に美意識を感じる。少人数のアイドルに視点を絞る決意をしたのは、おそらく、本物の群像の成立を意識したからだろう。20人以上の「選抜」を作るのを当たり前とする、矜持を欠如した昨今のシーンと比較すれば、楽曲制作、創作活動に対するたしかな美意識を受取る。
だが、郷愁というテーマゆえか、楽曲の質の高さ、作り手の熱量に反し、大衆から新鮮な評価を浴びることは叶わなかったようだ。
結果的に、『夕陽を見ているか?』の失敗は作詞家・秋元康のオブセッションとなったらしい。水の枯れた井戸に落ちた経験を持つ少年が煙突掃除夫になるように、『夕陽を見ているか?』は作詞家にとって忘れがたい家郷として呼吸しつづけているようだ。だが、『Green Flash』を転換点とし、近年ならば『サイレントマジョリティー』『二人セゾン』『暗闇』『全力グローイングアップ』の成功など、アイドルを抱擁すると同時に郷愁をテーマに扱う楽曲を偏執的に提示しつづける結果になったのだから、『夕陽を見ているか?』における作詞家の挫折経験は、多くのアイドルファンにとって幸福な出来事と呼べるだろう。
総合評価 70点
現在のアイドル楽曲として優れた作品
(評価内訳)
楽曲 14点 歌詞 14点
ボーカル 13点 ライブ・映像 14点
情動感染 15点
歌唱メンバー:板野友美、大島優子、小野恵令奈、河西智美、小嶋陽菜、高橋みなみ、前田敦子、峯岸みなみ、宮澤佐江、渡辺麻友
作詞:秋元康 作曲:岡田実音 編曲:高島智明