SKE48 森紗雪 評判記

SKE48

森紗雪 (C) ウォーカープラス

「命がけでジャンプして!」

森紗雪、平成8年生、SKE48の第一期生。
2008年、SKE48のオープニングメンバーとして、11歳でアイドルの扉をひらく。翌2009年、12歳で正規メンバーへと昇格し、最年少昇格記録を打ち立て、”勇者を目指す夢見る少女”の一人に、正式に名を連ねたが、間を置かず、学業専念を理由に研究生へ降格後、卒業する。
アイドルの物語を読めば、生彩に欠けるが、森は、鑑賞者に人生の時を遡らせるような、処女性のたかいルックスの持ち主であり、物語の平板さ、物足りなさ、そのアイドルの輪郭の曖昧さに反し、アイドルを演じる少女の持つ可能性、という一点において抜き出た印象を残している。
また、森は、アイドルがファンにとってきわめて身近な存在であることをポップに歌った名作『ウィンブルドンへ連れて行って』のオリジナルメンバーの一人(森紗雪、高井つき奈、矢神久美のユニット)であり、オリジナルメンバー卒業後、『ウィンブルドンへ連れて行って』のユニット編成を考えることがファンにとってひとつの愉しみ=アイドル批評になっていることからも、森紗雪には特別な存在感があるようにおもう。
ある楽曲に魅了されたファンが、その楽曲の成り立ちを探り、楽曲を演じたかつてのアイドルの横顔をなぞるとき、そこに学び見出すのは、グループの歴史だけでなく、グループアイドル特有の連なり、言わば”系譜”ではないか。系譜を作るアイドルは、強い。グループの歴史の上にあたらしいアイドルが誕生・登場すればするほど、その瑞々しい少女の横顔のどこかに、かつての登場人物の面影が宿り、ファンは過去を想い、郷愁に浸ったり、過去を知らないファンはあらためて過去を知ろうと行動する。”彼女”は、言葉どおり、記憶に残りつづける、わけである。森紗雪というアイドルには、この”系譜”がある。
たとえば、森がなにものかの源流とされることを裏付けるものこそ、ほかならない、森のファンの行動と言動である。森のファンが、”彼女”を失ったあと、次の”推し”を探し求める際に準備したのが「森紗雪」というフィルターであり、彼女に深入りしてしまったファンは、後日、「森紗雪」の横顔をフィルターにして他の多くのアイドルを見て語り、次の本命アイドルを探す旅に出て行った。であれば、当然、彼らの内には、常に眼前で踊るアイドルの横顔に森紗雪の面影が愛着していたはず。
こうしたストーリー展開、アイドルとファンの後日談は、今日のアイドルシーンではごくありふれた光景におもえるかもしれない。であれば、森は、AKB48から連なるアイドルシーンの黎明期の登場人物という点に支えられるにしろ、一つのパラダイムをつくった、あるいは、必然的に導き出したアイドル、と呼べるかもしれない。膨大な、ありとあらゆる可能性を秘めた未完成の少女が、未完成のままシーンから姿を消したことで、ファンの内でその少女は完成されたアイドルとして漂いつづける、という光景を映し出すには、やはり、非凡な才をもった少女の、アイドルの夭折が描かれなければならないのだろう。
やや物足りない、平板なアイドルの物語に終わった森紗雪も、このような射程に立つならば、それは、再読に値する物語である、と評価できるのではないか。

もちろん、こうした感慨、アイドル観は森本人からすれば、まったくの無縁、ではある。森紗雪というアイドル個人の視点を穿ち、なぜ早々にアイドル=夢を破断したのか、と想像するならば、AKB48からはじまったグループアイドルの持つ魅力、その不気味さを目の当たりにして、臆病風に吹かれてしまったのではないか。
『ウィンブルドンへ連れて行って』や『バンジー宣言』が顕著だが、当時の、プロデューサー兼作詞家・秋元康が編み上げる、森紗雪や高井つき奈などの若手アイドルに差し出す詩的世界には、アイドルを応援する人間に「命がけ」の覚悟を求める、といった構図が散見する。
アイドルがファンに向け、アイドルを”推す”行為への覚悟の要求をうたった楽曲を歌い、踊るならば、当然、そのステージを眺めた、覚悟を求められたファン、彼らがそこで発見するもの、教えられるものとは、”アイドルを応援する行為とは並大抵のことではないぞ”、という作り手からの明確な意思、啓蒙なのだが、そうした啓蒙に曝されるのはファンだけではない。啓蒙の代弁者あるいは表現者となり、楽曲を演じ歌い踊るアイドルもまた、笑顔を振り撒きながらファンへ献身を過剰に求めるその行為によって、それがそのまま作り手から自身に宛て、発せられたメッセージなのではないか、と覚り、愕然とするのではないか。この挟撃に耐えられる少女はすくない。部活動感覚でアイドルの世界に足を踏み入れてしまった無垢な少女が、非凡な才を具えていたばかりに容易にアイドルの扉がひらけてしまった少女が、アイドルとファンの作る、一筋縄では行かない、不気味な交歓を目の当たりにして、その「恐怖を愛に変え」ろと迫られたとき、躊躇せずに現実の世界へと逃げ出すカードをきるのは、誰にも責めることのできない成り行きと云えるだろう。*1

 

総合評価 60点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 12点

演劇表現 8点 バラエティ 13点

情動感染 14点

SKE48 活動期間 2008年~2010年

引用:見出し、*1 秋元康 / バンジー宣言

2022/05/16  加筆、修正しました

 

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