NGT48 高倉萌香 評判記
「おかっぱちゃん」
高倉萌香、平成13年生、NGT48の第一期生。
おかっぱの黒髪の少女という素朴な風采には、前田敦子の流れを汲む主人公感がたしかにあったかもしれない。事実、メジャーデビューシングルのセンターを飾った中井りかではなく、NGT初のオリジナル楽曲『Maxとき315号』のセンターに立った高倉をグループの初代センターだと呼号するファンの声も少なくない。
高倉自身、周囲の期待を裏切らない、清心なアイドルを描いている。とりわけファンへの感謝の念を常に提示する、まごころのこもった少女であり、”おかっぱちゃん”と呼ばれ、今日のアイドルにはめずらしく老若男女に幅広く愛された。ただ、そうした王道のイメージを、陳腐さや二番煎じ、つまり類型的なイメージに引き下げないだけの力量には欠いた少女であったようで、トップアイドルと呼べる水準には最後まで届かなかった。
この人は、お芝居ができない。嘘を作る、という姿勢に後ろ向きなところがある。
卒業理由を問われ、やりたいことが見つかった、と語る横顔はなかなか清々しいものがあったが、彼女が卒業を決断した動機の核心には、アイドルを演じることの価値の転落、アイドルを演じ作ることがどうしようもなく下らなく感じてしまう自分への決着、があったのではないか。そしてこの点に、成長と同時にアイドルへの憧憬が褪せてしまう健全さに高倉萌香というアイドルの性(さが)が集約されている。たとえば、おかっぱの黒髪の少女という外見がもたらすイメージと、その美点をいついかなる時も損なわずに演じきらなければならない葛藤のなかで目にする、高倉萌香という少女の無垢さを信じて疑わないファンの盲目さ、ファンとアイドルの関係性は、日々大人へと成長していく少女にとって、耐え難い光景に感じられたはずだ。
あるとき、劇場で楽曲紹介をする大事な場面で、高倉は言葉を噛んでしまったことがある。するとその瞬間、客席から笑いが起こった。その笑い声は、アイドルをバカにした笑い声と言うよりも、高倉がこれまでに培ってきたアイドルのキャラクター性への反応であったようにおもう。素朴で不器用な少女がそのイメージどおりにミスをすることの可笑しさに過ぎないが、アイドル本人からしてみれば、もはや侮辱にほかならない。
高い緊張感をもってステージに臨み、失敗してしまった。しくじった、と唇を噛みしめ、すぐさま後悔する、向上心の身についた少女にしてみれば、自分の失敗を面と向かって嘲笑われた経験は、いや、失敗してもそれがあっさりと許容されてしまうどころか、あろうことかそれが自分の演じ作るアイドルの最大の魅力であるという事実・現実は、アイドルであることを断念させるのに、充分ではなかったか。
自分はたしかに成長しているのに、アイドルを眺める人間は、その変化に反応することはけしてない。そうした現実に反抗心を宿すことなど、心の優しいアイドルを一貫して描いてきた少女にできるはずもなかった。『世界の人へ』を前後して、デビュー当時の瑞々しさが翳ってしまった。ハイイログマのような、底の見えない瞳を隠せなくなった。その意味で、高倉萌香は、嘘をつき続けることができない人、という印象を強める。
総合評価 53点
問題なくアイドルと呼べる人物
(評価内訳)
ビジュアル 13点 ライブ表現 12点
演劇表現 4点 バラエティ 11点
情動感染 13点
NGT48 活動期間 2015年~2020年