AKB48 横山結衣 評判記

「踊子」
横山結衣、平成13年生、AKB48のTeam8のメンバー。
豊かな個性を持った、やつしきったアイドルであり、言うなれば、AKB48のソフィスティケート。
デビュー以来、”なまり”や津軽弁といった方言を崩すことなくアイドルを物語り、処女性の高い純朴な登場人物として、熱心なアイドルファンを魅了してきた。とくに、夢見る少女の故郷との別れを描いた『ふりむくな』を演じてからはその素朴さに一段と磨きがかかり、夢のために青春のすべてを犠牲にする、純潔なアイドルを完成させた。日常の仕草やステージ上での立ち居振る舞いに見過ごすことのできない軽薄さ、浅薄があるが、それも純朴な少女というイメージに還元されてしまえば、アイドルの魅力をいや増す。
横山のアイドルとしての物語の特筆を挙げるとすれば、デビュー以来育んできたこの「純潔」つまりアイドルのアイデンティティを自身の過去の行いによって喪失するという、やつすことそのものが屈託を抱えた過去への帰還であるという、倒錯になるだろうか。
このひとは、とにかくみすぼらしい。けれど、彼女の屈託の抱え方つまりはアイドルの演じ方には前田敦子、島崎遥香をはじめとするAKB48の歴代の主人公を彷彿とさせる反動的沈黙があり、芯の強さを受け取る。しみじみと、勇敢に嘆いているように見える。
今日では、AKB48の横山結衣と言えば”ダンスの上手”であり、また、当然と云えば当然だが、アイドル本人もデビュー当時から踊ること(ストリートダンス、とくにヒップホップ)をアイドルの有効打にしている。だが実際に彼女の踊りがアイドルファンのあいだで広く認められ話題に挙がるようになるまで、デビューから3年以上の月日を要している。ありていに云えば、「成長」が描かれた、ということなのだが、ダンスを支えにする、ではなく、劇場で踊ることを糧にしてアイドルを育み物語ろうとするその姿勢からは、今日、失われてしまったAKBらしさを拾うことができるかもしれない。
それを端的に証すエピソードの一つに『読売テレビ開局60年 ベストヒット歌謡祭2018 センター争奪緊急オーディション』が挙げられるだろうか。宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美の3名が「IZ*ONE」へ参加したことにより空いた選抜のイスをかけた、争奪戦。AKBグループに所属するダンス自慢のアイドルが集結したこのオーディションで審査員から名を告げられたのはSTU48・今村美月、門脇実優菜、AKB48・谷川聖の3名だが、アイドルファンのあいだでもっとも話題になったのは横山結衣の踊りであり、日常的に育んできた特技が大きな舞台の上で回答され可能性が見出されるという意味において、AKB48の伝統を汲んだアイドルであることを証明した。
横山結衣の踊りを一言で統括すれば、独りよがりなダンス、となるだろうか。作詞家・秋元康がノートに記した世界を表現するつもりなど一切なく、自己表現としての手段でしかない、そんな踊りを彼女は作る。幻想的なイメージをもたない、アクチュアルな踊りである。テクニックの追究に溺れ、やがては自己表現からも遠ざかってしまう、という意味では、AKB48の境地をよく表しており、たとえば、横山自身、初めて”選抜メンバー”に選出された『根も葉もRumor』の抱える瑕疵と合致している。ただ、彼女が凡百のアイドルと一線を画すのはそうした「合致」にあるのではなく、その独りよがりなダンスそのものがアイドルの性格を写実したものである、という点だろう。ステージの上で舞うアイドルを眺めればそのアイドルの物語を辿ることができる、より深く知ることができる、という観点において横山結衣の踊りは別格であり、このひとは真に”踊子”なのである。
だが、結局、ブレイクしなかった。
13歳でアイドルの扉をひらき、20歳で表題作の歌唱メンバーに初めて選抜されるというストーリー展開には、グループアイドル的カタルシスがたしかにあるようにおもう。けれど、彼女はその年にアイドルを卒業した。
恋愛スキャンダルを報じられてしまったアイドルに共通するもの、それは「沈黙」である。沈黙とは、ただ黙り込む、という意味だけではなく、耐える、という意味も持つ。恋愛スキャンダルを報じられてしまったアイドルは、なによりも沈黙を貫かなければならない。情報の囲繞に耐えなければならない。しかしそうまでしてアイドルを、日常を演じることに果たしてどれだけの価値があるのだろうか、という問いかけによる行き詰まりは当然あるにしても、大衆に見られているという意識は、往々にして、人を逆走させるものだ。とくに素朴で独りよがりであればあるほど。
総合評価 66点
アイドルとして活力を与える人物
(評価内訳)
ビジュアル 14点 ライブ表現 15点
演劇表現 12点 バラエティ 12点
情動感染 13点
AKB48(Team 8) 活動期間 2014年~2021年