AKB48 岡崎ちなみ 評判記

AKB48

岡崎ちなみ (C)DREAMING MONSTERオフィシャルブログ

「夢の続きをもう一度」

岡﨑ちなみ、平成4年生、AKB48の第十一期生。
アイドルとして、なかなかバランス感覚に優れたひと、に見える。アンダーグラウンドの気品にあふれ、ビジュアルも良い。切れ長の目、流麗な佇まい、抑揚を欠く仕草、たとえばエミール・ゾラの書く小説の登場人物のような、寒さに傷めつけられた人間特有の剣呑さ、不機嫌さを教えるビジュアルの持ち主であり、その独り歩きしたイメージは、岡崎ちなみを物語の主人公ではなく、物語の主人公に選ばれた登場人物を脅かし不安をあたえる、ともすれば主人公の成長をうながす役割をもった登場人物として、強く想起させる。このひとは、けして主役にはなれない、誰かの、なにかの一番にはなれない苦渋や屈託を抱え込むひと=アイドルに見える(私の知己によれば、乃木坂46の白石麻衣こそ、このようなイメージをもったアイドルの代表格と呼べるらしいのだが、実際に岡﨑ちなみを眺め想うのは、そのビジュアル、その横顔に重なるのは欅坂46の志田愛佳ではないか)。
とはいえ、AKB48の一員としてデビューしてから、わずか3ヶ月、ファンの前にはじめてその姿を見せた日から約2週間でグループを去った、という彼女の経歴をそうしたイメージの裏付けとして掲げようというのではない。彼女に向けこのような描写、このような感慨を準備できるのは、岡崎ちなみがAKB48を去った後も間断なく幻想の世界に出入りし「夢の続き」を描き続けているからであり、アイドルを演じることへの熱誠に並ではないものを感じ取り、AKB48・メンバーとしてもっていた可能性の広さを見出してしまうからである。

AKB48を卒業後、『ねがいごと』『かわいい娘には旅させ隊』『DREAMING MONSTER』、とアイドルグループの物語に参加し続け、さらには劇団『Miss女子会』に参加するなど、そのステージの規模はともかく、演じることへの個人の熱量を情報としてしっかりと残している。その略歴を眺め、読み、浮かび上がってくるのは、文芸の世界に、都会のなかでもっともひかりの眩しい場所の虜になった少女の後ろ姿であり、他人を喜ばすことに無上の喜びを感じる一方で、女優に憧れる女性特有の、貪婪な慾情、その自覚に悩まされる一人の女性の物語である。あるいは、やれたけどやらなかったこと、やりたいけどやれなかったこと、やれたかもしれないけれど一歩届かなかったこと、といった人生における仮定、つまりアナザーストーリーの存在を常に意識し、それに振り回され、不眠に陥り、憂鬱におそわれる、夢追い人の物語である。
自分ではないなにものかを、つまりアイドルを演じる日常から離れ、本来の日常=現実に帰還する。しかし、やり残したことがまだある、まだやれることがあるかもしれない、自分にはまだ可能性がある、というモノローグに衝き動かされるようにして、もう一度架空の世界へ踏み込む。その度に、グループアイドルの醜態を、闘争を毎日のように目撃し、また自らも晒し続けるのだろうし、新しい「夢」を手にする際には、毎回、そこは以前よりも過酷な境遇である場合がほとんど、ではないか。自身の可能性の幅を押し広げるというよりも、自分の可能性がどこに落ちているのか、希望の一切を捨てきれずに探しつづけ、引き返すことができない、両壁の狭い通路にどんどん入り込んでいく、という点にこのひとの、いや、何度でも「夢」をつかもうと、アイドルを演じようと行動する少女たちの魅力がある、と云えるだろうか。
彼女たちの行動力が通俗的に見えれば見えるほど、それを眺める者をして、自己との身近さ、なじみ深さを感受したことの徴であり、自己の内において否応なく「アイドル」が育まれていくわけである。夢を叶えるために「アイドル」がある、これはもちろんのこと、「夢」を叶えようともだえる姿そのものが「アイドル」である、という情況を彼女たちは、岡﨑ちなみは作り出し、ファンに教えてくれる。

アイドルとして活力を与える人物、これは、ひとつの時代を代表するトップアイドルグループ(たとえば、現在ならば乃木坂46)の選抜メンバーの水準に達する、高い資質=可能性をそなえたアイドルだ、と言い換えることができるだろう。平成と令和の境界線を踏み越えてもなおマイクを強く握りしめ、ライブステージに立ち、唄い、踊り続けてきた岡崎の横顔にはそれを説得させる力が宿っているはずだ。

 

総合評価 61点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 13点

演劇表現 10点 バラエティ 12点

情動感染 13点

AKB48 活動期間 2010年~2010年

 

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