乃木坂46 空扉 評価

乃木坂46, 楽曲

乃木坂46 『空扉』ミュージックビデオ(C)乃木坂46LLC

「別の世界へ」

歌詞、楽曲について、

センターポジションに立つのは梅澤美波。
まず、タイトルが良い。小説と同様、歌にとってもタイトルは重要だ。『空扉』は「空扉」というタイトルが作られた段階で一定の成功を約束された作品と云えるだろう。なによりも、提示された詩的世界が、安易で直截的な表現に逃げておらず、アイドルの虚構を躍動的に描いている点に表現者の拘り、資質を感じる。『海、渡り鳥、扉、冒険、勇気、別の世界』と、空想の世界(ファンタジー)を想起させる工具にも溢れており、楽曲のテーマから希求される世界観を放棄していない。ファンが抱くであろう期待感にしっかりと応答している。

『空扉』が面白いのは、主人公が、私たちが暮らす現実の世界から空想の世界への扉(夢や希望を叶えるための扉)を開き、飛び立つといった、夢をつかむためのありきたりな物語を描いていない点だ。一見すると、今作のミュージックビデオを担当した映像作家が解釈したように、夢を追いかける若者への活力となる詩情、といった紋切り型な啓蒙に感じる。しかし、楽曲を演じるアイドルの姿形を通過した際に立ち現れるのは、アイドルになることそのものが夢になり、しかもその夢をすでに叶えてしまった少女、”彼女”に対し、ほんとうの夢を探す旅に出ろ、と云う作詞家・秋元康からの啓蒙である。つまり、この楽曲で描かれる景色とは、アイドルを演じる少女が作り上げるフィクション、そのもうひとつの別の世界の内側で起こる出来事のみである。楽曲に記された「僕」とは、アイドルを演じる少女が作り上げた幻想の世界の中で暮らす「アイドル」であり、アイドルの意識下に構築された箱庭世界を走り回る登場人物の横顔、と云えるだろう。
『空扉』の主人公が暮らす、ここではないもうひとつの別の世界。架空の世界に産み落とされた「僕」は、子供の頃から空の向こう側、私たちが暮らすこちら側、現実の世界をつよく意識している。つまり、現実側のアイドルの個人的体験が、無意識に「僕」の潜在意識に働きかけ、「僕」の内に、なにか宿命的なものが「胎動」している、ということだ。「僕」は今いる世界からの脱出を渇望する。おそらく、彼の暮らす世界では、「空扉」に触れること、つまり「夢」をみること、それは心地の良い幻想世界の上空にヒビを入れる行為と見做され、禁忌(掟破り)となっている。だからこそ、「僕」は宿命的に現実の世界へ旅立とうと決意する。夢と現の行き交いが”ワクワクする冒険”だと気づいてしまう。
グループアイドルにとって、あるいは現代人にとって、フィクションと現実の交錯はアイデンティティの確立過程にほかならない。空想の世界に産み落とされた「僕」が成長し、やがて「空扉」に手を掛ける。それをグループアイドルの「卒業」と喩えるのはあまりにも安易かもしれない。だが、アイドルを鏡にし、成長を試みる私たちファンは、虚構の中で暮らす「僕」の存在を、ある種のオブセッションとして認識する必要に迫られているのだとおもう。『空扉』の詩的世界を提示した作詞家から、ほんとうの夢をつかむために「空扉」を開こうと試みる「僕」の背中を押してやれ、と覚悟を求められているのだ。
また、現実の世界においてアイドルという自分とは別の何者かを演じている人間が、この『空扉』を歌うことは劇中劇のような没入を可能にしており、その観点からも興味の尽きない楽曲と云える。

映像作品について、

アイドルに対する思い込み、熱量が空回りしている。アイドルの現在を鮮明に描写する、この一点において力量不足と感じる。裏を返せば、それは結局、豊穣な物語を抱え込む演者を前に、作りて自身が新鮮なフィクションの構築に失敗した、ということだ。平板なストーリーを描き、アイドルの性格を露骨に説明してしまっており、フィクションとは呼ぶには躊躇する映像を作っている。アイドルの性格をファンに伝えたいならば、やはり濃密なウソの通路を歩かせる必要があるだろう。
また、安易さをきらったのか、知らないが、ファンタジーの魅力にあふれる楽曲に、おなじくファンタジーの描写を得意とする映像作家を起用しながら、幻想を表現するのにもっとも適した映像というコンテンツにファンタジーを準備しなかった点は、看過できないあやまちに映る。もったいない、と感じる。

アイドルの演技については、生田絵梨花が素晴らしい。舞台のみならず、映像作品においても突出した演技力をもつことを証し、他を圧倒する存在感を発揮している。

 

総合評価 70点

現在のアイドル楽曲として優れた作品

(評価内訳)

楽曲 15点 歌詞 16点

ボーカル 15点 ライブ・映像 10点

情動感染 14点

歌唱メンバー:梅澤美波、高山一実、斉藤優里、鈴木絢音星野みなみ、新内眞衣、井上小百合秋元真夏衛藤美彩西野七瀬白石麻衣松村沙友理生田絵梨花大園桃子与田祐希、梅澤美波、山下美月、岩本蓮加

作詞: 秋元康 作曲:FURUTA/Dr.Lilcom 編曲:Dr.Lilcom

 

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