乃木坂46 ありがちな恋愛 評判記

「愛よりも大切な夢を見つけたのなら 現実はいつだって退屈なものだ」
歌詞、楽曲について、
乃木坂46の4thアルバム『今が思い出になるまで』のリード曲。白石麻衣と齋藤飛鳥のダブルセンター作品。
作曲に杉山勝彦を迎えた際の作詞家・秋元康の応答、構え、詩情の内にみる描写には一貫したモチーフがあり、今作においてもそれは顕著である。夢というある種の非日常と、現実としての日常、このふたつの間合いに向けるバランスの一貫さ、あるいは構図の練り上げが、『サヨナラの意味』で語りきれなかったものとしての物語を形づくり、アイドルを演じる少女の視線へ降りた際にうまれる、あたりまえの日常とあたりまえの夢を喪失する人間の儚さを教えてくれる。
ひとつの恋愛において、ある決断を迫られたとき、家族や友人、仕事といった現実として切り捨てることが絶対にできないものを前にして、結局それらを選択する、つまりあっさりと捨てられ裏切られる「愛」は、おそらく「愛」とは呼ばない。現実のすべてを代償にした、もっともかけがえのないものとして握られるのが「愛」であり、あたりまえの日常のさきにみる、あたりまえの「夢」である。しかしそれを凌ぐもの、それすら退屈なものにしてしまう希求こそほんとうの「夢」なのだ、と『ありがちな恋愛』では歌っている。
いつかかならず思い出になってしまうもの、あとからふり返った際に感傷に浸れるもの、後悔を笑い話にして語れるもの、つまりこのごくあたりまえの青春を打ち捨てる、なにものに対しても等価には置かれずむしろ比較を絶した価値をもつのが「夢」であり、「アイドル」であり、それを、それだけを青春の犠牲と表現するべきなのだろう。
しかし、そうまでして手に入れる「夢」の暮らしとはほんとうに「愛」よりも大切なものなのだろうか?という問いかけは、この先どれだけ”彼女”がきらびやかな世界で成功を収めたとしても、どれだけ富や名声を獲得したとしても深いところで消滅しないままでいるのではないか。結局、どうしたって物語の主人公は空虚に耐えず団地の窓を見上げてしまうのではないか。
総合評価 73点
現在のアイドル楽曲として優れた作品
(評価内訳)
楽曲 16点 歌詞 15点
ボーカル 15点 ライブ・映像 13点
情動感染 14点
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、伊藤理々杏、井上小百合、梅澤美波、大園桃子、齋藤飛鳥、斉藤優里、桜井玲香、佐藤楓、白石麻衣、新内眞衣、高山一実、星野みなみ、堀未央奈、松村沙友理、山下美月、与田祐希
作詞:秋元康 作曲:杉山勝彦 編曲:野中“まさ”雄一
引用:見出し、秋元康/ありがちな恋愛