乃木坂46 僕のこと、知ってる? 評判記

のぎざか, 楽曲

(C) 2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会

「記憶喪失」

歌詞、楽曲について、

乃木坂46の24枚目シングルのカップリング曲。
自己像の捩じれ、存在理由の揺らぎ、自我を喪失し「迷子」になりながら成熟を獲得しようと試みる、ひとりの「僕」を描く。アイドルシーンの収斂、自己啓発の洗練、と安易には云い切れない、楽曲がそなえるその”世界感”は広大であり、虚構に対する批評空間、その余地は膨大であり、果てしない。音楽的魅力・表現に溢れ、音が鳴り止むその時まで、倦み、落胆を投げあたえる場面を一つも持たない。
詩に触れてしまった鑑賞者に、アイドルファンに、抑えきれず独自の批評=フィクションを育ませるような、強い希求力を把持している。たとえば、”ここではないどこかへ”、という、作詞家・秋元康のクリシェが今作において倦みを一切作らないのは、私情の物語化によった詩が編まれたからではないか、想像の翼を広げることが可能である。
作詞家の私情のリアリティに”特筆”がある、と云うべきか、穏やかで澄んだ響きのなかに強烈なアイロニーが込められており、作家生来の俗悪さとイノセンスの止揚があぶり出す空想のリアリティは凄まじいの一言。作家のアイデンティティの成立が楽曲の詩的世界の成り立ちと響きあっており、シーンの「傍観者」といった立場を意識的に振る舞う秋元康自身もまた、グループアイドルの作り出す、成長共有、このコンテンツに否応なく囚われていることを証している。僕のこと、知ってる?、この科白は、会いたかった、に替わる、今日のアイドルシーンを映すイコンになるのではないか。現代でアイドルを演じる少女の内奥を現代日本人の映し鏡と扱い精緻に写実する自意識の過剰さ、自我の肥大に文学のひかりを見る。*1

現代でアイドル(もうひとりの自分)を演じる行為とは、架空の世界に産み落とされた”もうひとりの自分”を育てながら、仮想と現実を行き交い、「本当」の自分のアイデンティティの確立を試みる、そして、それをひとつの物語としてファンに語る所業である。興味深いのは『僕のこと、知ってる?』の”世界感”においては、アイドル=「僕」が架空の世界をさまよい歩くうちに、それが現実世界での自我の喪失に、ピアノマン的な「迷子」の仮装へと完全にすり替えられている点である。
アイドルになり、そのアイドルのアイデンティティを探求することで、アイドルになる前の本当の自分を見失ってしまう。喪失体験の通過によって成熟を獲得しようと「迷子」になる……、アイドルとしては爛熟期にあたる物語からも、『僕のこと、知ってる?』ともっとも響きあ
うグループアイドルは白石麻衣と云えるだろう(しかもそれは、『シンクロニシティ』を演じ踊った白石麻衣のことである)。この歌詞を書かせた原動力に彼女の作った虚構から放たれる寂寥があるのは間違いない。「僕のこと知ってる?」、この問いかけは、名前や顔への誰何ではなく、本質的な徴の消滅、つまり本当の自分を一体誰が知っているのか、という陳腐な自問自答であるのは云うまでもない。アイドルを演じ暮らす日常の時間が、アイドルに成る前の日常の記憶を凌ぎつつある段階で遭遇する憂鬱と嘆き、「僕」のことを知らない街で、「僕」のことを知らない「誰か」なら、きっと本当の自分を教えてくれるはずだ、という無垢な妄執と感傷、これらをあざ笑うかのように、「僕」は「街に貼られたポスター」=過去にうつし出された自分自身から「足跡」を発見する。フィクションの類型に収まろうとする、悲喜劇的な倒錯に満ちた結末に見えるが、しかし、たしかに希望に溢れている
平成が終わり、令和が始まった現在、このタイミングで、圧倒的な美を誇り、圧倒的な人気を獲得した白石麻衣の写実、つまり私小説的な物語を想わせる楽曲の提示を”はじめて”実現し、それをグループアイドル史の成熟に重ね合わせることに成功したのだから、会心の作と呼ぶほかない。*2

 

総合評価 83点

現代のアイドルシーンを象徴する作品

(評価内訳)

楽曲 17点 歌詞 20点

ボーカル 16点 ライブ・映像 14点

情動感染 16点

引用:*1*2 秋元康/僕のこと、知ってる?

歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、伊藤理々杏、井上小百合、岩本蓮加、梅澤美波、大園桃子、北野日奈子、久保史緒里、齋藤飛鳥、阪口珠美、桜井玲香、佐藤楓、白石麻衣、新内眞衣、鈴木絢音、高山一実、星野みなみ、堀未央奈、松村沙友理、与田祐希、渡辺みり愛

作詞: 秋元康 作曲:中村泰輔 編曲:中村泰輔

 

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