乃木坂46 27thシングル 個人PV 予告編 ランキング

乃木坂46, 特集

(C)ごめんねFingers crossedジャケット写真

「個人PV ランキング」

乃木坂46の新作『ごめんねFingers crossed』の特典映像「個人PV」の予告編がYouTubeにて公開された。
「個人PV」は乃木坂46の躍進を裏付けるヒットコンテンツであり、グループの歴史のなかで重要な位置を占めている。演劇こそ乃木坂46のアイデンティティと呼べるはずで、映像作品を通してアイドルを物語る、この点にグループの”らしさ”がある。今回は、この”乃木坂らしさ”のひとつに数えられる「個人PV」の予告編に対する批評をランキング形式で作ることにした(『アイドルの値打ち』と銘打ったからには、やはり点数なり順位なりを付け、指標の簡略化を試みなければならないだろう)。映像作品の本編を収めたシングルの発売日が間近に迫っているという事情もあり、駆け足での批評となった。

ランキングの評価基準は、作品そのものの魅力はもちろん、作家の書いた登場人物を演じるアイドルの横顔が、これまでにファンの前で描いた「アイドル」とはまったく異なる容貌に持ち、なおかつ、その根底にファンの個々が妄執するアイドルの空気感のようなものが流れていること、アイドルの他人化が起きていないこと、と定めた。また、予告編と書く以上、本編への希求がなければならないし、「編」を付す以上、それはつまり「予告」そのものが物語としての結構をもっていなければならない。当然この点も考慮した。
これらの評価基準をもとに最高水準に達した過去の作品を挙げるならば、それはたとえば伊藤万理華の『ナイフ』であり、遠藤さくらの『わたしには、なにもない。』になるだろう。
一方では、YouTube上の視聴回数に重きを置き作品の質をはかる、といったファンの声が盛んなようだが、当記事ではあくまでも作品の内容を読み、その質をはかった批評であることはあらかじめ付言しておきたい。

同時公開された全メンバー43人の作品をすべて視聴し、上述した評価基準のもと順位を付けた。


乃木坂46 27thシングル 個人PV 予告編 ランキング 43位~1位

43位 矢久保美緒/念入り
粗雑。アイドルに多様性があることを教えたいのか、隠したいのか、よくわからない。

42位 寺田蘭世/さいごの晩餐
本編への予告のみに徹底している。予告「編」としては楽しめない。

41位 阪口珠美/SKATER’S WALTZ
スケートをする人々、とのことで、そのとおりにブローニュの森を意識した背景の中、色を帯びたアイドルが踊りだす。阪口珠美のダンスに焦点をあてた、ということなのだろうか。ただ、これだけではやはり退屈。

40位 山崎怜奈/山崎怜奈のヘルシーチャレンジ
アイデア不足の感が否めない

39位 伊藤理々杏/ワープ!!!
「僕」だけの世界、「僕」だけの能力への招待状。しかしこれを観ただけでは、これからなにがはじまるのか、期待を抱くことはできなかった。

38位 岩本蓮加/れんたん金魚
金魚を眺めていたら金魚と身体が入れ替わってしまった、というどこにでも転がっているようなお話。

37位 早川聖来/大好きすぎて、聖来ちゃんになっちゃった!
自己愛と変身がテーマ。

36位 弓木奈於/アンガーマネジメント
タイトル通り、「怒り」に対する啓蒙的な作品。

35位 遠藤さくら/言えない。
登場人物の設定を、過去の作品と共有している。ここじゃないどこか、というテーマの模倣も皮肉に響き、アイドルが作り手の思惑のなかで空転している。

34位 樋口日奈/#ちまデート
友人をインタビュアーとして、これまでに語られていなかったであろうアイドルのエピソードを披露している。小坂菜緒の「ひなたの休日」と同様のシチュエーション。

33位 林瑠奈/ABC予想解説してみた
勉強をする人間=成長するアイドル、といったきわめて明快な企図をもった作品。

32位 高山一実/ちゃんとした朝ごはん
「ちゃんとした朝ごはん」を作ることで「私」を取り戻す。こういう成熟した設定をアイドルに落とし込んでしまう倒錯こそ、現在のシーンの病弊だろう、と云ったらやはり笑われるのだろうか。

31位 北川悠理/空飛ぶ少女
空=空想のイメージから北川悠理の輪郭がつかみとれる。だが、これまでに抱いたアイドルへのイメージから脱するものがない。

30位 向井葉月/ババベラビギナー
アイスの路上販売に挑戦するらしい。自虐的にみえるのはなぜだろう。

29位 松尾美佑/月が綺麗ですね
浴衣、線香花火、月といった情緒あふれる設定を下敷きに、なにやらスリリングな展開を予感させている。

28位 秋元真夏/A DAY IN THE LIFE OF MANATSU
アイドルが得意の手料理を披露している。可もなく不可もなく、といった印象。

27位 田村真佑/Record of the Dead
今を生きる、というメッセージをアイドルにかさねている。針を落とされたのは、田中ヤコブの『今は今を生きるとき』とのこと。

26位 新内眞衣/テイク・ア・タクシー
タクシーに乗ることで目に見える世界が一変する……、どこかで見たような設定だが、予告編としてはそれなりの結構がある。

25位 黒見明香/脳内会議
不得手なものを、そのままアイドルのキャラクターにしてしまおうと開き直っているようにみえる。あきらめるのはまだ早いのでは。ただ、作品としてみればなかなか愉快に感じるから、判断に躊躇が生まれるアイドルなのだろう。

24位 久保史緒里/春、ふたり
この1分間の映像だけでも久保史緒里の演劇が味わえる。だが裏を返せば、それは提示された予告から物語の本編を想像するのではなく久保史緒里そのものへの視点に過ぎない。まず久保史緒里の演技があり、次に物語がある、という情況に陥っているわけである。こうした視点への希求こそ久保史緒里の本領であり瑕疵なのだろう。

23位 掛橋沙耶香/マチアワセ
少しずつ遠のいていくアイドルとそれを許容しつづけるファン、といった構図なのだろうか。なによりも、アイドルがキュートに撮れている。

22位 筒井あやめ/エリート社員 筒井あやめ
最年少なのにしっかり者、この固定されたイメージを逆手に取ったのだろう。たしかに、筒井あやめを他者に向け語ろうとするとき、しっかり者、というイメージを利用したくなる気持ちは痛いほど理解できる。ほんとうは年齢相応の素顔を持っているのではないか、探究心が出るし、言い当てたくなるのだろう。ただこうした誰にでも思いつく安直なアイデアは一晩寝かせるべき。

21位 佐藤璃果/リカの法則
世の中にある法則の数々をアイドルに引用することで、アイドル自身の法則=アイデンティティを作ろうとする意欲作。本編への期待感がたしかにある。

20位 佐藤楓/楓が鬼
「鬼ごっこ」がテーマ。予告編だが、きちんと物語が出来ている。設定もしっかりとしている。ただ、アイドルの特徴の活かし方がやや安直か。

19位 清宮レイ/わたしのラクガキおじさん
自分の写し絵でもある笑顔を持たない「おじさん」を笑わせようとする、少女の奮闘の劇。

18位 吉田綾乃クリスティー/わたしをさがして
忘れてしまった自分を探す、自我の模索劇をコミカルに描いている。やはり、名前に対し、アイドル自身おもうところがあるのだろうか。

17位 大園桃子/ももことまめぞうと
猫の視点を借りてアイドルの日常と素顔を探る、独白体の映像。

16位 柴田柚菜/柴田さん間違ってますよ。
濃溝の水音と焚き火の前で朗読するという人工的に作り上げた非日常感の後ろに本物の非日常が現れるといった不気味な世界観をみせている。予告編を観た限りでは、鈴木絢音の「ちいさなことをひとつ」と同様のテーマを持っている。

15位 渡辺みり愛/Spring Train
だれも居ない電車内で舞い踊るという、幻想的解放感のなかで「アイドルの卒業」を詩的に表現している。

14位 星野みなみ/星野みなみのとにかくかわいいかるた
「可愛いの天才」を思う存分に味わえる。

13位 金川紗耶/ランナーズ ハイ
アイドルのシルエットにまず目が引かれる。作品については、日常の中に突然青いうさぎが現れ、それから逃げているのか、あるいは、ともに走っているのか、わからないが、そのうさぎは現実の世界から架空の世界へと渡ってきた存在、ということなのだろうか。もしそうならば、なかなか踏み込んでいるように感じる。

12位 中村麗乃/兄、不在。
「兄」との再会の期待を裏切る得体の知れないなにかと遭遇した際の驚き、怒りといった感情の表現を、そのまま「予告」として機能させている。このひとはやはり演技ができる。

11位 松村沙友理/このタイミングで必殺技さゆりんごパンチを完成させたいねん
卒業を前にしたアイドルが、アイドルとしてやり残したことの中から「原点」を選んだ、というストーリー展開は松村沙友理らしさにあふれる。

10位 賀喜遥香/BGMR
本編並みのボリュームがある。歌いはじめる前のモノローグのなかに「巨人」や「ゾンビ」といった流行りの終末設定が出現し、フィクションへの憧憬を持つ賀喜遥香の面影が作品世界にしっかりと落とし込まれている。

9位 齋藤飛鳥/ラブ・ストーリーは凸電に
劇中劇を避けると表明しつつ、現実と仮想を混淆させているところは齋藤飛鳥のミスティフィカシオンをよく再現できている。

8位 山下美月/わがまま
存在理由としてのジェンダーに対する問いかけをコミカルに描いた、アイロニーに満ちあふれた物語の予告編。タイトルにどのように帰結するのか、期待。

7位 和田まあや/血液型
「O型」以外の人間が徐々に消されていく、「O型」に支配された世界、というユーモラスな設定を作っている。ユーモラスでありながら、どこか暗い雰囲気があり、それが和田まあやの空気感、ストーリー展開とうまく合致している。和田まあやの血液型は、もちろん「O型」。

6位 北野日奈子/ワタシがアイドルでいられる時間
ドキュメンタリーをあくまでもフィクションの内側で作ろうとする心がけは、グループアイドルっぽくあり、北野日奈子らしい。

5位 梅澤美波/梅色
ラップを歌っているけれど、ダサく映っていない。洒落ている。これは、実はなかなかむずかしい。作り手、演者、共にセンスがあるということなのだろう。

4位 与田祐希/ヨダユキ 
力作。この「監督」には才能がある。アイドルの特徴を捉え、さらにあたらしい横顔を見せることに成功している。アイドルがしっかりと作品世界のなかで運動し呼吸できているのは、作り手による写実があるからだ。

3位 生田絵梨花/仁義なきいくちゃん?おしおきの巻?
おもしろい。これだけで物語として十分に楽しめる。やりたいことを自由に全力で楽しんでやっている。こうしたイメージを持ってしまうのは、やはりアイドルの表現力が並ではないからだろう。

2位 鈴木絢音/ちいさなことをひとつ
これもおもしろい。非日常だとおもった静かな日常が唐突に転覆し、本物の非日常への入り口が眼前に広がる。まさしく悲喜劇である。演じるアイドルのイメージにピタリとかさなり、かつあたらしい展開を予感させる。

1位 伊藤純奈/東京の女の子。
雑多な現実のなかで、そこに居続ける理由を衝動的に失い、また衝動的に得る、等身大の「東京の女の子」から、夢を追いかける若者に向ける大人の郷愁を相対的に、情熱的に描き出している。


あとがき
あらためて説明するまでもなく、これらはあくまでも「予告編」を鑑賞した批評であり、「本編」公開後、またたく間に色褪せる文章である。本編公開後に「予告編」を批評する、という倒錯した状況を避けるため、駆け足での批評になり、文章が垂れ流し気味であることは容赦願いたい。
あえて「予告編」を批評する動機としては、個人的には「個人PV」は「予告編」にこそ醍醐味がある
と考えるからである。本編視聴後に、その冗長さに落胆する、という経験を持つファンは私だけではないだろう。

2021/06/05 楠木