日向坂46(けやき坂46) 河田陽菜 評価

河田陽菜(C) Seed & Flower合同会社

「鉄の決意」

その存在を認知すると、その空間に”居る”と知ってしまったら、あらゆる場面において、彼女に意識が釘付けとなってしまう。俯いて、恥じらう仕草に、心を惹きつけられる”何か”がある。観る者の心に、強烈な掻き傷を残すような笑い方をする。彼女の”素顔”は現代を生きる若者の”ニュアンス”を素直に映す。舞台上では、日常の立ち居振る舞いがステージの隅に押しやられ、勇猛な英姿に一変する。その光景を私は以前にも観たことがある。一つの概念、魂が宿屋めぐりをしていることに気が付く。西野七瀬がラジオで流した涙と同じものを河田陽菜はみせる。内向的な少女の眼から涙が溢れ出てしまうまでの時間と、そこに到達するまでの感情の流路が似ている。なぜ、あの場面で涙が溢れたのか、不安で押しつぶされそうになったのか、物語の過程を思い巡らすと、心が揺かされるのである。

ま、私もこれまでアルマゲドン起こるたびに「アホだ~」とか「しょうもない~」とか言いながらも何だかんだでチェックしてた人だけど、実際に地元でそれが起こってみると、シャレにならないってのが判る。
気づくのおせーんだよ。
そうなの。遅いの。人間誰しもそうなんだろうけど、実際に自分の身に起こってみないと酷いこととか嫌なこと判んないの。
人間誰しもそうなんだってのは、しかし言い訳にはなんないぞ!
まったくだ。私は反省する。本気で反省する。私はこの反省を活かして今後を生きていかなくてはならない。それより今、このときを何とか乗り越えなければならない。

(舞城王太郎「阿修羅ガール」)

アイドルになる覚悟、日常を演りきる覚悟、そんなものに縁がなかった少女が、突然、”ひかり”と可能性に満ちた、もうひとつの別の世界への扉を開く鍵を手にする。そこに踏み込む覚悟を、希望を抱いた直後に、重い心の闇を抱えた”昨日の自分”に足を掴まれ、泥沼に引き摺り込まれる。起こってほしくないとつよく想う事象とは、どんな時も、どんな場面でも、その不安は必ず現実となっておとずれる。悔悟の代償として、孤独、絶望、暗闇、これらを経験してしまった人間は、特別な決心を自己の内奥から手繰り寄せることになる。文芸という世界で、虚構というもうひとつの別の世界で、物語を両足で立たせるには、アイドルになりきるには、まず、孤独にならなければいけない。前にも後ろにも道がない状況、隔絶から這い出てきた彼女は、孤独に打ち勝つための度胸を、「鉄の決意」を手に入れたのではないか。河田陽菜がみせる立ち居振る舞いは覚悟と度胸に裏打ちされた日常である。河田陽菜は、すでにアイドルとして、文学的な資質を具えている。だから、彼女はアイドルを演りきれる。

河田陽菜は、「窓をあけて外の匂いを嗅ぐのが好き」と云う。きっと、その匂いのなかに含まれる記憶を探しているのだろう。繁華街の側を車で通過するときに車内に吹き込んでくる飯屋の匂い、駅のホームで電車と共に運ばれてくる匂いたち。これを”季節の記憶”と呼ぶ。匂いや音楽は私たちの季節の記憶を引き出しの奥から引っ張り出すきっかけをつくり出してくれる。この、百年前に生きた人たち、百年後に生きる彼ら彼女、どの時代の人間に話しても共感される感覚を言葉にして伝えられる、伝えようと思い立つ。これは、簡単そうにみえて実は特別な感性が求められる行為である。「日常」がテーマにある現代アイドルにとって、河田陽菜の仕草は”白眉”と云えるだろう。きっと、河田陽菜が発する言葉のひとつひとつを丁寧に洞察するファンはノスタルジックな世界に包まれ、感興に導かれるはずだ。そして、それは、西野七瀬と、彼女のファンが体験した豊穣な物語の追体験となる。

 

総合評価 73点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 14点 ライブ表現 15点

演劇表現 12点 バラエティ 16点

情動感染 16点

けやき坂46 活動期間 2017年~

評価点数の見方