AKB48 波が伝えるもの 評判記
「ザブーン ザブーンと」
楽曲、歌詞、ミュージックビデオについて、
若手アイドルたちに、センスある歌詞だとおもわれたい、「これ、ちょっとダサイよね」と言われたくない、と願う年長者のプライドのようなものが、採用された語彙のなかに見え隠れしていて、微笑ましい。波の描写が夢や希望のメタファにならず、純粋な活力として映るのは作詞家の自己投影の現れだろうか。
夢や希望とは、それを口に出し表明した次の瞬間から、世界が呼応しはじめ、自身を取り囲む景色がぐるぐると動き出すものである。しかしそれが現実に動き始めてしまったら、自分の手から放れてしまったら、あとは流れに身を任すだけだ、というアイドルの生きるきわめて狭い世界のリアリティー、不条理のようなものを今作『波が伝えるもの』は印している。波の動きに感情が、見知らぬ誰かの想いが詰まっている、と歌う詩情には、この世界には夢や希望が無数にうずまき、出現しては消えているのだ、という強い現実感覚がある。夢に対するある種のアクチュアルにアイドルを直面させている。おそらく、波にのって漂っていた”夢”が、波うち際までたどり着いたとき、その夢の持ち主たちのほとんどは、もうその夢の存在自体を忘れているのだろう、と。そうした情景は、アイドルを演じる少女たちへ積極的に伝えるべき物語なのかもしれない。表現の世界において、ほとんどの夢は時間の経過によって果たされるのに、肝心の「夢」の持ち主がすでにそれを諦めてしまっているケースが圧倒的に多いのだから。
歌唱メンバー:植木南央、本田仁美、豊永阿紀、運上弘菜、下野由貴、加藤夕夏、坂本愛玲菜、大森美優、谷真理佳、村瀬紗英、山田野絵、山内瑞葵、水野愛理、篠崎彩奈、山田菜々美、栗原紗英、馬 嘉伶、上西 怜、石田千穂、大家志津香
作詞 : 秋元 康 作曲・編曲 : 木下めろん