AKB48 福岡聖菜 評価

福岡聖菜 (C)2018 The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL

「ディスタンス」

松井玲奈が福岡聖菜に初めて遭遇した日の、彼女の表情は今でも鮮明に覚えている。作られた一瞬の沈黙は、共時性がノスタルジーを運んで松井の体内を駆けめぐった「証し」になる。心に思い浮かべても崩れることのない福岡聖菜の姿形が、郷愁の訪問を防ぎようのない風にする。それは、邂逅と呼べる。松井玲奈にとっては過去の「喪失」との邂逅であり、福岡聖菜にとっては自身の物語に転換を知らせる「展開」との邂逅である。
「遭遇(再会)」から福岡聖菜が表題曲のメンバーに選抜されるまでに三年の歳月を要した、という点を、どう評価すべきだろうか。デビュー六年目にして初選抜入りを果たす、これは、物語としては質と量、ともに現代アイドルの平均を上回る。福岡聖菜の特徴は、自身が描写する物語をファンに共有させるのではなく、ファンを物語の登場人物としてしまう点にある。彼女はファンに自身の物語の輪郭を描かせていく。彼女が作り出した虚構(もう一つの別の世界)の扉を開いて入る「最初の部屋」。きっと、その中心には書き物机が置いてあり、ファンは「部屋」に出入りする度に、架空の世界で拾い上げた「彼女」のエピソードを、一つひとつ丁寧に書き連ねていくのだろう。とても、時間のかかる作業である。彼女の物語の進行が遅いのは、現代的な共同編集にあるのだろうと想像する。共闘を通じて、無謀だと嘲笑われるような夢を、具体的な目標として吐露する。次の瞬間、世界がそれに呼応し動き出すという事実を、福岡聖菜は理解し実感を獲得したようだ。「実感」はアイドルとしての矜持を育み、「福岡聖菜」の”色”がグループに侵食し、濃密に反映され、歴史に呼応し「象徴」になった未来を、希望を彼女はしっかりと描けている。しかし、私には、その希望が、隘路への入り口にみえてしまう。

『抑えきれない衝動』では、希望や若さを衝動として表現したが、福岡聖菜自身にとっての衝動とは”継受”であるようだ。『悔いはないからこその悔しさ』という彼女の科白に内在する背反性は、倒錯した衝動によって生まれた感情である。(*1)
グループアイドルへの筐体の歴史継承に対する希求が消失し、まったくあたらしい物語の、あたらしい主人公(例えば、矢作萌夏のような人物)の誕生が望まれる趨勢にあって、グループの歴史を継受し、過去の物語との連なりを体現するアイドルになろうと試みる姿勢は、倒錯、アナクロニズムと呼べるだろうか。群像劇=血の継承によってアイドルシーンの存在理由が満たされてきた事実を、現役アイドルが正しく認識したことが、現在のアイドルシーンにあっては(彼女が身を置くグループにあっては)足を掴み、無謀な闘いに映るのだから、悲劇的な倒錯と云えるかもしれない。福岡聖菜の容姿がきわめて逆行的であるのも、倒錯を、儚さを形作る。『ぼくらの勇気 未満都市』において、ヒロインを演じた宝生舞。彼女が演じる「ユーリ」は、冬の到来によって微生物が死滅し、「都市」が救済される寸前に死を迎える。ヒロイン性という観点で、希望の地まで”あと一歩”という距離で橋が崩れ落ちてしまう不条理な儚さを表現した傑作だが、宝生舞との共時性を抱える福岡聖菜もまた、宝生舞的な儚さを描こうとするのだから、「倒錯」によってアイドルの美しい命が断ち切られるのは、避けられない宿命と云えるかもしれない。

『ロミオ&ジュリエット』において、福岡聖菜はジュリエットを演じるにあたり、ロミオの内面を探る必要性を感じ、それを発見するためにロミオを演じる役者の”日常”を観察したという。この視点の所持に、未曾有な、演劇への資質、可能性を感じるが、一方では、「演技に正解はない、でも正解を求めてしまう」と述べており、ここでもまた、彼女は倒錯をみせている。彼女は、役が腑に落ちないまま、舞台に立っている。舞台上のどこに立っていても、憂鬱で警戒的な、思案に暮れた表情をみせてしまう。正解を常に求めるという性向は、正解と”されるもの”に出遭ってしまったとき、それを絶対的な真理とする愚直さを手にしてしまうものである。愚直な前進とは、確実に前へと進んでいるようで、それは錯覚であり、気づけば「隘路の森」の中、前にも後ろにも選択肢がない状況を作り上げてしまう。彼女のアイドルとしての立ち居振る舞いから”倒錯”が生まれるのは、彼女の立っている場所が、すでに森の深部だからなのかもしれない。そこは、他者と、ファンと隔てられた場所である。つまり、「福岡聖菜」がはじめて、孤立感を抱ける「部屋」である。「文芸とは、乱暴にいってしまえば、自分が世界から隔てられていると感じる人間が作り上げる、今ひとつの世界」である、と先人は云う。(*2)その隔たりを自覚し、過去の証として”あたらしい”物語を描くことができるのならば、グループのあり方が群像劇へと回帰する、奇跡との「邂逅」が果たされるかもしれない。松井玲奈が福岡聖菜を見たときに作った笑顔=物語のように。

 

総合評価 63点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 14点 ライブ表現 12点

演劇表現 13点 バラエティ 12点

情動感染 12点

AKB48 活動期間 2013年~

引用:(*1)野木原晃一 「週刊東京ウォーカー」
(*2)福田和也 「乃木希典」

2019/04/19 再評価 大幅にリライトしました
ライブ表現 11→12 バラエティ 11→12

評価点数の見方