乃木坂46 ブランコ 評価

のぎざか, 楽曲

ブランコ ミュージックビデオ/乃木坂46LLC

「前へ後ろへ」

楽曲について、

16枚目シングルのアンダー楽曲。センターは寺田蘭世。
アイドルシーンを旺盛に戦う少女たちの群像を描いた楽曲であり、グループアイドルのモノグラフの象徴としてアイドル史に大書されるべき傑作。
「映像」の世界で示されたアイドル像への成りきりこそ乃木坂46というアイドルグループのアイデンティティなのだが、そのアイデンティティの働きかけによってアイドル個人の性格までもが妄執され、アイドルがそれぞれに自我の成立を迎えしてしまうというある種の宿命に対する反動を、センターポジションに立つ寺田蘭世は投げつけている。ブッキッシュな詩に対する彼女の反抗は、皮肉にも”ブランコ”という言葉に内包される”揺り戻し”の暗示として機能し、現代アイドルの闘争によって立ち現れる儚い宿命を描出している。”ボーダー”を渡るために架けられた橋の支柱には、「前へ後ろへ僕らはただ空を泳いだ」という不吉な予言が刻まれており、寺田蘭世は楽観的に橋を渡ることを許されなかった。*1
こうした展開にみるものこそアイドルの物語化であり、他者の語らいによってアイドルの物語が決定されることに反発する寺田が、しかし誰よりもその物語化を押し進めてしまうという倒錯には尽きない興趣がある。

ミュージックビデオについて、

『ブランコ』で書かれた「役」を演じたアイドルたちが、その後、どのような物語を辿ったのか、探究心への希求がしっかりと仕組まれている。目まぐるしく変わる時間の流れの渦に置かれても、鑑賞への行動選択に倦みはなく、ファンを没入させる人間喜劇を達成している。なにかの続編としてではなく、『ブランコ』=本編を再視聴することでアイドルとの成長共有が果たされるため、永い時間の経過に耐える作品と呼べる。
前へ後ろへと揺く「ブランコ」をひとつの仮定法過去と扱い、平行と並行世界を作る、永遠にたどり着かない繰り返しの終わり、覚醒と遊離、大仰に云えばカルマの切断はストーリー性の高さを実現するが、しかし安易なドラマは作っていない。演出されたアイドルのキャラクターの落とし込みに説得力があるのは、つくり手が無邪気な想像力を把持するからである。
今作品の特筆とは、つくり手自身がグループの動きのなかに含まれていると錯覚し、公私的な視点、つまり私情を爆発させている点にある。『ブランコ』で描かれた虚構、そのテレビゲームのような世界の中で動くアイドルには、輪郭を埋めきる実像の感触がある。作詞家・秋元康の詩情に向けた映像作家の解釈が、批評=フィクションの次元にまで押し上げられ、楽曲と並行したもう一つの物語をファンの眼前に差し出すことに成功している。作詞家の世界観に屈服したり従うのではなく、映像作家自身が、いまこれを表現したい、と考えたものを他者に譲ることなく表現した、だから二つの幻想が作り出されたわけである。これは飛びきりの幻想である。私情、つまりは飛躍した妄執による架空の世界である。この無垢な世界観があきらかにするものこそアイドルの素顔へ辿り着こうとする空想、真にアーティスティックなふるまいなのだから、手放しで称賛するほかない。
一方で、架空の世界に描いたメタファとしての力強いストーリー展開が、予言と見間違うように、現実へと働きかけなかった点は看過できない。アーティスティックさ、要するに文学の本質=時代を迎え撃つ、あるいは”来るべきものの側”という観点においては普遍性を欠き、つくり手の資質不足に映る。しかしこの点こそ映像作家が私情を爆発させた揺るぎない根拠であり、立場を忘却しふるまい、現実を無視してアイドルを語ろうと試みるも、結果、次世代アイドルへの期待と歓迎を描いたストーリー展開が無残に破棄されてしまうという、現実に対する作家の敗北は、むしろフィクションの明確化に対する共感を深め、多くのアイドルファンから圧倒的な支持を得たのだから、才能がある、と評するほかない。要するに、映像作家が私情を爆発させグループの青写真を身勝手に描き、それが現実として叶わなかったことで、むしろ映像作家が個人の想像力を頼りに作品づくりをしている、という光景がファンの眼前で証されたわけである。アイドルと共に闘っているように見える、というのはやはり格別な信頼感を獲得するのだろう。
今作をもって、映像作家・伊藤衆人は、常にグループのファンから次回作を期待される存在になったと云えるのではないか。

平成年間を通し、グループアイドルが排出しつづけたミュージックビデオのなかにあって、『ブランコ』は『サイレントマジョリティー』と並び、最高到達点と云えるだろう。

歌詞について、

ミュージックビデオによって示される希望や期待を置き去りにするように、偶然の一致をけして許さない「不吉な予感」の胎動の手触りがたしかにある。”後日の話”としての俯瞰が許されるのならば、その胎動は見事に結実し、詩的責任を果たした、と云えるだろう。作詞家・秋元康の啓蒙は、暗闇を照らす松明のような色をしているが、『ブランコ』においてはその炎に俗悪さが揺らいでおり、企みの深さと矛盾する無防備な姿勢の維持、詩情の暴走は、驚嘆に値する。

 

総合評価 86点

現代のアイドルシーンを象徴する作品

(評価内訳)

楽曲 16点 歌詞 17点

ボーカル 15点 ライブ・映像 20点

情動感染 18点

歌唱メンバー:伊藤かりん伊藤純奈川後陽菜川村真洋斉藤優里斎藤ちはる相楽伊織佐々木琴子鈴木絢音寺田蘭世樋口日奈中田花奈能條愛未山崎怜奈渡辺みり愛和田まあや

作詞:秋元康 作曲:Hiro Hoashi 編曲:Hiro Hoashi

引用:見出し、*1 秋元康 /ブランコ

   

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