NGT48 加藤美南評判記

「NGTの未来を照らした」

加藤美南、平成11年生、NGT48の第一期生。
自分だけの世界をもった田舎育ちのお嬢様、といった出で立ちのアイドルで、気位が高かった。
NGT48のメジャー・デビューを直前に控えたなか、AKB名義のシングル『翼はいらない』において歌唱メンバーに選抜される。さらには同作品のカップリング曲でセンターを務めるなど、NGTを背負うエースとして、名乗りを上げる。だが結局、表題作のセンターには一度も立つことなくアイドルの物語に幕を閉じている。
「山口真帆暴行被害事件」にともなう数々の騒動の渦中、大衆の感情を逆撫でする言葉をSNS上で発信し、そのペナルティとして、研究生への降格処分を受けた。アイドルとしてのキャリアの挫折は、その余波、ということになるのだろうか。ただ加藤美南のセンターへの当為そのものを問うならば、事件以前からすでに「主人公」としての気運を著しく欠いており、正直、アイドルの内に冴えたところがなく平板であった。
むしろ加藤美南というアイドルに代えがたい魅力が宿ったのは、事件以後、である。
世間一般とは隔絶した、恵まれた境遇に育ち、子供の頃からの憧れであったグループアイドルにもなれた。順風満帆としか言えない人生を送ってきたその少女が、境遇に育まれたであろう尊大さを発揮し、自ら窮地に陥った。センター候補、チーム・キャプテンという立場から一転、研究生の身となり、若手メンバーに混ざり歌い踊るという辛酸を嘗めることになった。これまで誰も教えてくれなかった常識、この世の中には口に出してはいけない言葉があることを、どんな言葉も時と場所を選び使わなければならないということを、時として感情を抑えなければならない場面があることを、「アイドル」という常識の通用しない世界で学ぶことになった。
特筆すべきなのは、そうしたストーリー展開、自らの過ちによってアイドルとして失敗してしまった少女が、大衆から卵を投げつけられるなか、もう一度立ち上がり前を向こうと奮闘する物語＝ビルドゥングスロマンもさることながら、アイドルの扉を開いたばかりの、右も左もまだわからない少女たちと共に歌い踊ることで、その純粋さ無垢さにほだされ、生まれてはじめて魂の束縛を経験した点にあるだろう。
これまでは、なにものにも縛られることなく自由奔放に生きてきたであろう人物が、夢と希望にあふれた少女たちのなかに異物となって立ったことで、「アイドル」に捕らわれてしまった。この少女たちのために一体なにができるのか、考え行動するようになった加藤美南のその憧憬は、かつてライバルであった中井りかが「山口真帆暴行被害事件」以後に示し始めたノブレス・オブリージュと通い合うものであり、奇しくもNGTの黎明期を支えた二人のアイドルがそれぞれ異なる場所でグループの未来を照らそうとするそのドラマチックな姿からは、これまでのアイドルからは与えられなかった視点、アイドルの後ろ姿から生きる上で大事なものを教えられる、という無垢な視点がえぐり出される。ある一人の少女を眺め、自分はこのアイドルから一体なにを教わったのか、考えることが、はたしてこれまでに一度としてあっただろうか。
その意味においては、加藤美南の物語が後進に与えた影響は計り知れない。正規メンバーへの復帰と同時に卒業を発表した加藤のその横顔、背中を眺め、多くの若手メンバーが涙した。