乃木坂46 Tender days 評判記

「Tender days」
楽曲、歌詞について、
10枚目シングル『何度目の青空か?』のカップリング曲。
ステージのセンターに立った生田絵梨花の呼びかけによって色とりどりのメンバーが集合し、アイドルたちが歌い始める。歌唱メンバーを眺めると、今日ではそれだけで郷愁に浸ってしまうが、楽曲そのもののテーマも「ノスタルジー」であり、苦い青春の日々、を歌っている。
作詞家・秋元康の携える得物、それはやはり「青春の反復」だろう。青春を謳歌する、あるいは青春と引き換えにしてアイドルを演じる少女の横顔を眺めつつ、自身も青の時代に還って行く。そこで再発見した物語を歌詞カードに写していく、というのが作詞家・秋元康のルーティンである。
今作『Tender days』のおもしろさは、青春の反復そのものを物語=ショートショートに仕上げて語っている点である。自分がとうの昔に失ってしまったものを、街中ですれ違う若者の横顔に流し見る。過去に還り、その苦い青春の日々が、かけがえのない甘やかな日々であったと気づく。やがて現実へと戻った主人公は、もう一度その日々を取り戻そうとしたのか、当時、喫茶店のマスターがよく流していたバエズの「ドナドナ」をダウンロードして聴いてみる。この、主人公の時間が現実=現在に在ることの表現として「ダウンロード」を用意したところなどは、なかなか力量を感じる。喫茶店のマスターが本を読んでいる光景を、難しい本、と描写するのではなく、難しそうな本、と描写することで主人公の目線をしっかりと活写できている。要するにこれは散文である。過去の出来事、過去の物語を散文として記した後に、ダウンロード、この言葉一つで詩に戻してしまう。作詞家として、面目躍如と云うべきか。
ただ、シチュエーションがあまりにも紋切り型にすぎ、写実味に欠ける。青春の反復を記す際にもっとも重要なもの、それは、これは作詞家の実体験に基づく物語なのだろう、と想像させることである。ただ過去の時代に戻り、当時の流行を再現するだけでは、詩に生彩さが宿る、ということは起き得ない。
総合評価 59点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 11点 歌詞 13点
ボーカル 11点 ライブ・映像 12点
情動感染 12点
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、生駒里奈、桜井玲香、白石麻衣、西野七瀬、橋本奈々未、深川麻衣、松村沙友理
作詞:秋元康 作曲:SoichiroK、Nozomu.S 編曲:Soulife