乃木坂46 君が扇いでくれた 評判記

「君が扇いでくれた」
歌詞について、
甘酸っぱい思い出を描いている、という紋切り型な形容しか用意できないほどに普遍的な詩を書いている。しかし写実的でもある。恋愛はいくつになってもできるが、青の時代にしか体験できない恋愛ももちろんある。大人になってしまったらもう二度と経験することのない微風。もうけして手にすることのできない物語だからこそリグレットの先に郷愁をみるのだろう。
今作のように、教室の中で描かれる青春から郷愁を描出する、これが作詞家・秋元康の得物なのだろう。しかし今作に限って云えば、「君の風に気づかなかった」、この理由を「遅すぎた」「異性の意識」と設定してしまう作詞家のお決まりのパターンにがっかりさせられる。たとえば、おなじような詩情に『今、話したい誰かがいる』を挙げられる。『今、話したい誰かがいる』においては、小道具への異常なこだわりがあり、ブランコやシーソー、リンゴやコーラなどの小道具に頼ることで登場人物の無垢を許可したが、今作においては小道具へのこだわりを破棄してしまったのか、自家撞着が起きている。あるいは、写実とフィクションの融和がうまくいっていない。クリアファイルや下敷きで扇ぐといった写実的でありながら、なおかつ想像力に支えられてもいる描写、それを呼吸させるためのフィクションをうまく構築できていない。「君が扇いでくれた」で用意されたクリアファイルや下敷きといった小道具が描出するのは成熟に迫った群青であるはずだ。しかし、楽曲の後半で唐突に「遅すぎた」「異性の意識」と置いてしまう。これではまるで、青の時代に抱えた生硬へのなごりや郷愁ではなく、幼児の無垢さ純粋さへの憧れに映ってしまう。*1
ボーカル、ライブ表現について、
今作品を構成するアンダーメンバーに対し、「最弱」とアイドル自身が自己評価を下したらしい。だが、あらためて俯瞰するまでもなく、歌唱メンバーの構成は優れており、バランスが良い。とくに川村真洋、斎藤ちはる、能條愛未は油が乗り、成熟への兆しをみるため、楽曲と響き合っている、と感じる。そこに渡辺みり愛をはじめ、相楽伊織、佐々木琴子、鈴木絢音と個性的なメンバーが加わるのだから、表題曲では触れられない特別なイロがある。
総合評価 68点
再聴に値する作品
(評価内訳)
楽曲 14点 歌詞 12点
ボーカル 15点 ライブ・映像 14点
情動感染 13点
引用:*1 秋元康/君が扇いでくれた
歌唱メンバー:伊藤かりん、伊藤純奈、川後陽菜、川村真洋、斎藤ちはる、相楽伊織、佐々木琴子、鈴木絢音、能條愛未、山崎怜奈、渡辺みり愛、和田まあや
作詞:秋元康 作曲:中山聡、足立優 編曲:野中”まさ”雄一