STU48 思い出せる恋をしよう 評判記

「思い出せる恋をしよう」
歌詞、楽曲について、
5thシングル。センターポジションで踊るのは瀧野由美子。
デビューから5作品連続でセンターに立つ瀧野由美子、彼女の”不動のセンター感”がたしかなものになりつつある一方、楽曲の内で世代交代への胎動を明確に描いてもおり、グループが端境期にあることを伝えている。
今作では「季節の記憶」をテーマに置き、グループの”イロ”に逆らわず、なおかつ、これまでのアイドルとの”思い出”が、あたらしいアイドルの登場によって毀されてしまうのではないか、という不安もうまくフォローしている。この点は、工夫されている、と云えるかもしれない。ただし、ノスタルジーへの解釈がやや前のめりにすぎるとも感じる。”思い出せる”という表現に誤解がある。本来、ノスタルジーとは能動的なものであってはならないはずだ。つよい目的を持って”過去にかえる”、しかし、そこで偶会する風景や匂いによって思い出すのは、いつでも思い出せる物語の細部、ではなく、いつの間にか忘れていた物語だった。しかもそれが自己の内でかけがえのないものであったという事実にその日”はじめて”気付かされる。これが本物のノスタルジーではないだろうか。「思い出せる恋をしよう」に書かれた詩情は、このような感傷とは逆を向いており、ポジティブにノスタルジーへの準備をする、これが形容の矛盾に映る。それは、ミュージックビデオで描かれたドラマ(”とっておきの恋”をした場所にかえり、郷愁に浸り、思い出と決別をして次の一歩を踏み出そうとする前向きな設定を作った、映像作家の詩に対する解釈)が裏付けてもいる。
ミュージックビデオについて、
現在を生きる1期生とドラフト3期生、彼女たちの青の時代を2期生が演じている。つまり、グループの”次世代”に位置する2期生を「未成熟」と捉えつつも過去の証として描いている。現在とは、当然、過去に支えられたものだ。だがこのミュージックビデオでは、その関係に逆転が生じている。「未来」である2期生が過去にジャンプし、「過去」である1期生(ドラフト3期生)の若き日々を演じている。構図そのものはたしかにおもしろい。おもしろいが、映し出される現在と過去の一致を目撃しても、特別な感興は得られない。ただおなじシーンを交互に差し込んだだけで、そのシンクロにどのような意味があるのか、疑問。あるいは、作り手自身、説明できないのではないか。
過去の表題曲のミュージックビデオと比較すれば、アイドルを演じる少女の素顔の発見への材料となりえる、本格的なドラマを作ろうと試みた点、アイドルそれぞれが演劇に意識的になっている点は好印象。とくに表情が良いとおもったのは、1期生では岩田陽菜、2期生では小島愛子。
総合評価 48点
何とか歌になっている作品
(評価内訳)
楽曲 11点 歌詞 9点
ボーカル 13点 ライブ・映像 8点
情動感染 7点
歌唱メンバー(Mix ver):石田千穂・石田みなみ・今村美月・岩田陽菜・大谷満理奈・岡田奈々・沖 侑果・甲斐心愛・門脇実優菜・榊 美優・信濃宙花・瀧野由美子・田中皓子・谷口茉妃菜・中村 舞・兵頭 葵・福田朱里・峯吉愛梨沙・森下舞羽・矢野帆夏・薮下 楓
歌唱メンバー(2期研究生):池田裕楽・今泉美利愛・内海里音・尾崎世里花・川又あん奈・川又優菜・工藤理子・小島愛子・迫 姫華・清水紗良・鈴木彩夏・高雄さやか・田口玲佳・田中美帆・田村菜月・中廣弥生・原田清花・南 有梨菜・宗雪里香・吉崎凜子・吉田彩良・立仙百佳・渡辺菜月
作詞:秋元 康 作曲:木下めろん 編曲:野中“まさ”雄一