AKB48 仲俣汐里 評判記

AKB48

仲俣汐里(C)オリコンニュース

「『現実』に就職」

仲俣汐里、平成4年生、AKB48の第十期生。
嘘偽りなく賢いひと、と形容すべきだろうか。とはいえそれは、スイス生まれの秀才、と呼ばれ、そのとおりに、アイドル在籍中に「早稲田大学」に合格したり、『AKB48でもわかる経済の教科書』なる経済書を出版するといったキャリア形成から受けるイメージではなく、その自身の存在感ゆえに、前にも後ろにも常に道がある、選択肢が残されている、という状況を約束するための努力、睡眠時間を3時間に削り、アンダーとして劇場の舞台に立ちつつ、受験勉強にも取り組む、という努力を惜しまない彼女の実直さがもたらす印象である。
アイドルとしての物語の長さは3年とけして短くないが、表題作の歌唱メンバーには一度も選抜されていない。AKB48の「選抜」のイスに座す、これはもう飛び抜けた才能と運が求められるものだから、仲俣にはそれがなかった、とするしかないのだが、しかしそれとは別に、皮肉的、悲痛に感じるのは、正真正銘の努力家であることが情報として大々的に明かされたのにもかかわらず、それが仲俣汐里のアイドルとしての人気にまったく貢献しなかった点である。劇場舞台に立ち続け、その裏では勉学に励む、きわめて簡明な青春の相互共有的サクセスストーリーが大衆のこころを一切打たなかった、この点こそ、仲俣の平凡さを裏付けている。

勉強さえできれば、真面目で礼儀正しく、努力を惜しまない性格の持ち主であれば芸能界で成功するのか、といえば、これがそうとも言えないのが、文芸の道理であり、「アイドルと学業の両立」をアイドルの魅力・キャラクターに仕上げてしまった仲俣もまたこの道理に打ち砕かれてしまった一人である、とでも云うべきだろうか。とくに今日における芸能界、アイドルシーンとは、夢見る若者に対し過剰に非凡さを求め、かつ、常識の通用しない場所でしかし常識を強く求めるという、不条理に満ち満ちている。清廉潔白であることが大前提であり、しかしどこか凡人とは遠く離れたひかりをもっていなければならないという、厳しい条件が少女たちに突きつけられている。ただ努力家であったり、人と違うだけでは、もはやファンに認められないのだ。
この、文芸の世界において成功を収める人間の多くに共通する資質とは、おそらく、孤立感、にほかならない。たとえば、大衆と対峙するような非凡さを求められ、かつ孤独に陥らなければならないという意味でならば、小説家や投資家とレゾン・デートルを合致している。ペン一本で食べていく、
個人トレーダーとして食べていく、それを専業とし生活をたてていくならば、成功者になるか、ホームレスになるか、のどちらかしか選択肢をもたない。勝つか負けるか、食うか食われるか、のどちらかであり、そこに中間はない。これは、働きながら小説を書いても意味がない、といった安易な発想ではなく、小説を書くことではじめて生活が成り立つ、という状況を作れない人間は、やはり文芸において衰退しているのだ、という発想である。
想像力、これは孤独の実感がなければ発揮されない類いのものだし、想像力が豊かでないとフィクションを編むことはむずかしい。「グループアイドル」が芸の世界に生きる存在ならば、当然、彼女たちにも「孤独」が求められるし、想像力を把持しない人間の書く物語は、やはり、魅力に乏しい。そして孤独とは説明するまでもなく、前を見ても、後ろを振り返ってみても、道がない、という情況を指す。

こうした感慨、アイドルとしての成功をつかみたいのならば青春のすべてを捧げ、退路を断たなくてはならない、と呼号する、覚悟の要求は、たしかに、前時代的におもえる。しかしこうした紋切り型の要求とは、こと芸能界においてはどれだけ時代が変わっても、減退することはないはずだ。
仲俣汐里に話を戻せば、常に前にも後ろにも道がある、という状況を作る努力をしてしまった彼女の青春の物語を眺めるに、それはまさしく平凡と評するほかにないのだが、演技についてならば、たとえば「マジすか学園2」で作った表現ならば、平均を凌ぐ評価が可能か。アイドルが内に秘めているであろう愚劣な部分が演技を通して表に出てしまったかのような、存在感があった。しかし前述したとおり、仲俣本人の現実的決断力によって、自身のアイドルとしての可能性をひらく前にその幻想の世界から旅立ったため、成長は描かれていない。
「アイドル」としてうだつが上がらないから「アイドル」を諦めた、ではなく、このままここにいても夢が叶いそうにないから「アイドル」を諦める決断を下した。しかもそれは、「アイドル」の先に、ではなく、「アイドル」と同時進行で他に夢の選択肢を持った際の決断、断念のようにおもう。
勘違いしてはならないが、「現実」に就職したから平凡なのではない。平凡だからこそ「現実」に帰還せざるを得なかった。ただそれだけの話である。

 

総合評価 35点

アイドルの水準に達していない人物

(評価内訳)

ビジュアル 6点 ライブ表現 8点

演劇表現 12点 バラエティ 5点

情動感染 4点

AKB48 活動期間 2010年~2013年

 

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