無垢なアイドル、という倒錯の魅力をもつ丹生明里

座談会, 日向坂46(けやき坂46)

(C)月と星が踊るMidnight ミュージックビデオ

「アイドルの可能性を考える 第十三回 丹生明里 編」

メンバー
楠木:批評家。趣味で「アイドルの値打ち」を執筆中。
OLE:フリーライター。自他ともに認めるアイドル通。
島:音楽雑誌の編集者。
横森:カメラマン。早川聖来推し。

今回は、日向坂46、とくに2期生の丹生明里について、話題にあがった場面を抜粋した。新曲の『月と星が踊るMidnight』、また4期生オーディションについても、多少触れた。

「『月と星が踊るMidnight』のミュージックビデオを観た感想」

OLE:AKBと比べるとやっぱり坂道はミュージックビデオの質が良いなあ。日向坂はこの路線が正解だな。
横森:きれいな映像だね。アーティスト写真もかなり良いよ今回。欅坂と日向坂のハイブリッドっての言っているわけでしょこのアー写は。映像もデシマみたいなコントラストだよね。
OLE:ハイブリッドというか緑と青のアンビバレントじゃないかな。
楠木:最近めちゃくちゃ忙しくて、正直、まだ一回しか見れていない(笑)。介入があったでしょ、ドル円。円安へのスピード調整ならね、そこまで大きな話題じゃないんだけど、これECBが参加するとなるとトレンド反転させようって意図になるから話題性がかなり高くなる。つまり大きなチャンスが転がっているということだね。スキャルつまり投機というのは、ラテン語が語源ですけど、これは、チャンスを見極める、という意味なので……。とにかく最近は相場が面白くて仕方ない。でもまあMVって似顔絵なんかと一緒で最初に抱いたぼんやりとしたイメージが対象ともっとも距離が近かったりもするんだけど。
島:全体的に良く出来ているように感じますけど、気になったのは、センターの齊藤京子さん。表情が嘘くさいというか古臭いというか。
横森:リップシンクが不得手なんだろうね。
OLE:口ずさむだけでいいところを、しっかりと歌っているフリをしちゃうからでしょ。要は芝居が下手。
横森:デッドパンが強さに変換されちゃうみたいなところに魅力があったのにね。
島:自然体で、常に演技しているように見える人がいざ感情の起伏を描こうとするとこうやって失敗することが多いですよね。
横森:怒ったり泣いたりするのは簡単なんだよ。むずかしいのは、なぜ怒ったり泣いたりしたのか、観客が考え込むようなさ、答えを持たせるような表情を作ることだよ。
楠木:与田祐希がまさにそれを今実現していると思うんだけど。僕は。
OLE:現役アイドルで演技が上手い子を探るとなるとやっぱり乃木坂の中から見出すことになるんだよね。久保史緒里とか中村麗乃とかさ。
島:ミュージックビデオの良し悪しって、結局「演技」ですからね。
楠木:「演じる」とき、その注意の打ち込みは、ふたつに大別できるはずです。ひとつは、自分ではない何者か、を作り上げること。あるいは自分の日常をなぞったもの、日常を再現すること。いずれにせよ「何者か」を作る、これが一つ。もうひとつは、なにかを表現しようとすることですね。演技を作るとき、この、なにかを表現しようと試みる人、がほとんどだとおもいます。そうした注意があるとき、当然と云えば当然ですが、非日常つまり日常の所作ではありえない振る舞いが出てくる。多くの場合それが俗に言う、棒演技、と呼ばれるたぐいのものになるわけですね。他者に向けて自分の胸の内にある”なにか”を伝えようとする、つまり表現しようとすると、人は身振り手振りが大げさになる。これはもちろん文章も同じです。

「なぜ無垢=丹生明里に引かれるのか」

楠木:まあでも「日向坂46」を眺めるときどうしても僕は小坂菜緒に目を向けてしまうので、『月と星が踊るMidnight』という作品に対する感想をほとんど持っていないんだけど(笑)。齊藤京子がどうだったとか、まったく「印象」を持っていない。実際に感想文を書いてみたんだけど、管理人にダメ出しされて、サイト掲載にまでは至りませんでした(笑)。
横森:センターに立っても目立てないって、ある意味序列闘争が一番厳しいグループだね。
島:でもその条件は欅坂も同じですよね。平手友梨奈っていうスターがいた。じゃあ他のメンバーはどうかというと、スターではないにしろ、トップアイドルの水準で、人気・知名度を示している。
横森:長濱ねる、渡邉理佐、渡辺梨加、小林由依、あとは今泉佑唯か。一辺倒ではないね。実はバランスが取れてる。それぞれ個性がある。

OLE:いや、欅坂の場合は誰も平手友梨奈の前に立ってないからね。日向坂は小坂菜緒の前に立たされてしまうからなあ。
楠木:平手友梨奈が休業したときにローテーションを組んで、『アンビバレント』のセンターを前評判の高いメンバーに代替させて、実験をしましたよね。それで結局、本当は平手友梨奈よりも踊れるのに、という前評判=可能性がことごとく潰されてしまった。蓋を開けてみたら、大したことなかった。可能性というのは可能性のままにしておいたほうが心地が良い場合が多い。日向坂でも似たようなことが起きているんですね、きっと。
OLE:こればっかりは持って生まれた才能の勝負だから。
横森:そもそもそうやって平手友梨奈と小坂菜緒を並べて語ることに違和感があるけど。小坂菜緒も平手友梨奈の後ろで踊っていたアイドルの一人だから。
OLE:そう考えるとちょっと計り知れないグループだったんだな、欅坂46って。
楠木:平手友梨奈と小坂菜緒だと、僕は小坂菜緒の方が引かれるところが多いように思う。「アイドル」の内に日常がまったく見えないというか、日常が見えないアイドルは沢山いるんだけど、そういうひとって大体が日常を隠しているだけで、凡庸なんだね。小坂菜緒の場合、そもそも日常を持っていないように感じる。しかし日常を持たない人間なんていないはずだから、不思議なんだね。不気味、とも云えるけど。見た目、イメージ通り、大人しくて、従順なのかもしれないし、粗暴で、ワガママかもしれない。あるいはその両方を持ち合わせているかも。こういうひとは、ファンの想像力を試すし、ファンの想像力のなかで生き生きとするんじゃないかな。本人の意思とは無関係に。
OLE:逆に言うと、平手友梨奈は良くも悪くも内面を露出させるアイドルだった。
島:アイドルのことを知った気になれますよね。

楠木:不気味さの魅力といえば、もう一人。倒錯の魅力、とも表現できるけど。丹生明里も才能があると思う。久しぶりに見たけどやっぱり無垢ですよ、彼女。アーティスト写真もそのとおり、うつくしく撮れている。さて、”みなさんは「夢」にアイドルが出てきたことはありますか”。寝て見る夢に、です。才能のあるアイドル、換言すれば、魅力あるアイドルって、結局、夢に出てくるはずなんですよね。アイドルからの働きかけの有無とは別に、アイドルに対する妄執があれば出てくるはずなんです、夢に。もちろん、妄執を抱かせるという点に、アイドルの働きかけ、があるのですが。夢というのは自分の都合を無視したものである場合がほとんどですよね。往々にして、そこに現れる登場人物は、意図しない人物、になるのではないか。夢の世界に出てきて欲しいと切望するような人物は基本的にはその世界に登場しない。夢の世界に現れた人物に好意を抱いてしまうのは、その物語の甘やかさはもちろん、思いがけない人物の登場によって、醒めたときに、自分はあの人のことをいつの間にか強く想っていたのか、と錯覚したり自覚したりするからだとおもいます。しかしそうした夢、現実では起き得ない物語を体験できる飛びきりに幸福な時間であるはずの夢が、夢=非現実つまり現実逃避という思い込み刷り込みのせいか、うしろめたさに変わってしまう人が多い。長時間睡眠をしたあとに、時間を無駄にしてしまった、とネガティブになる人が多いように見える。しかし、たとえばネコが夢を見るとして、ネコは現実と睡眠時に見る夢を区別できませんよねきっと。であればネコは夢を見ることに、長時間眠ることに、うしろめたさなんか一つも持たないわけです。つまり何が言いたいかというと、そういう情況を「無垢」と表現できるんじゃないか。だから、純粋無垢な人、またそう生きている人に引かれてしまうんだね。夢を見ることが、知らない自分の発見につながったり、他者の魅力の発見になったりするという、空想的幻想的であり実りがある時間だと確信しているのにもかかわらず、そこにうしろめたさを感じてしまう、感じさせる社会があるなかで、しかしそういったうしろめたさを一切持たないであろう人がいる。そう見えるアイドルがいる。アイドル=ウソを作る職業であるのに、無垢なひと、がいる。だから同業者は嫉妬してしまうし、ファンは引かれてしまうんだね。

「4期生オーディション」

横森:これさ、みんな同じ顔に見えるのはPVの構成に問題があるんだと思うよ。それともあえて同じ構成にして同じような表情を撮って統一感を演出してるのかね。
OLE:日向坂っぽいって思わせるためにやってるんだとしたら功を奏してるな。何気に日向坂46初の正統オーディションなんだよな。1期2期は「ひらがなけやき」だし、3期は合同だし、で。
島:気になるメンバーはいましたか?
横森:みんな同じ顔に見える(笑)。
OLE:統一感って意味じゃ「少女歌劇団ミモザーヌ」っぽいよね。とにかく、乃木坂の5期を見れば分かる通り、このグループではどういった子が売れるのか、ファンに受けるのか、用意周到、考えて採用しているようだから、日向坂の4期生も、アイドルとして売れるのは、って視点じゃなくて、日向坂で売れるのは、って視点を絶対に持っているでしょ。
楠木:そういうのを強く打ち出しすぎですよね、最近。ファンの評価とアイドルの魅力はまったく関係ないのに、ファン評価がそのままアイドルの評価になってしまっている。ファンが評価しなければアイドルが呼吸できない、みたいな。アイドルを評価するファンの声を吸収して作り手がアイドルを組み立て始めていて、すごくつまらない。批評の批評はつまらないからね(笑)。応募者を、アイドルを演じるであろう少女だけを、見て、夢を、フィクションを編むべきですね。まあ、緑と青、ですか、そうしたアンビバレントにあるのは2期生までなので、このグループはこれからどんどん青に染まっていくんでしょう。4期生だって、4期生だけで『青春の馬』を演じるときがかならず来るわけですから。


2022/09/27  楠木かなえ