作家(アイドル)にとって、もっとも高い志とは?

座談会

「アイドルの可能性を考える 第三十六回」

メンバー
楠木:文芸批評家。趣味で「アイドルの値打ち」を執筆中。
OLE:フリーライター。自他ともに認めるアイドル通。
島:音楽雑誌の編集者。
横森:カメラマン。早川聖来推し。

前回の場からさらに引き続き。以前公開した「『アイドルの値打ち』は誰に向けて書かれているのか」が好評だったようで、今回もそれにならったかたちで進行してもらった。とはいえ、テーマは白紙なので、座談会を名乗ってはいるものの、ほぼ雑談です。

「作家になるための条件の数々」

島:ここからは楠木さん抜きになります。しかし多忙ですね。映画をもう一本、やるようです。
横森:湯浅弘章の後を追うって意気込んでる。
OLE:また勝手なことを言う(笑)。
横森:でもさ、アイドルっていうのは「成長」だからさ、それを眺める側にしたっていつまでも同じところをぐるぐるしてちゃしょうがない。MVの監督だって同じ。湯浅弘章とか柳沢翔みたいにキャリアアップしなきゃ。それは批評家だって変わらないよ。
島:でもAKBグループだけでもまだ半分どころか三分の一も埋まってないですけどね(笑)、『アイドルの値打ち』。どうするつもりなんだろう。
横森:所詮は趣味なんだからさ、いつ終わりにしても良いんだよ。アイドルなんかよりもっともっとおもしろいものに出会ってしまったんじゃないのかな、今の彼の行動力を見るに。
島:とは言っても、『アイドルの値打ち』の読者のこともしっかり考えているようですよ。前々回かな?、楠木さん不在の回の座談会の記事がここ最近では一番読者の反応が多かったみたいで、おなじ趣旨でまたやってくれて良いと、お墨付きをもらっていますので、今回もサイトに関する話題を広げるべく、進行していきます。
横森:前回、それなりに攻めたつもりだったんだけど、おもしろいって言われるだけで、全然ダメージを受けてないんだよね、あの人。
島:楠木さんにダメージを負わせたいんですか(笑)。
横森:負わせたいよね。なんとかして。
OLE:コンプレックスってあるのかな。
横森:コンプレックスかはわからないけど、彼は随分前に同業者から「あいつは批評よりも投資で稼ぐ金のほうが多いから批評家とは呼べない」って批判されたことを今でも根に持っているようではある。「投資で稼いで批評は遊びでやっている、ならず者でも最近は批評家を名乗ることができるらしい」って、中堅の作家に斬られたんだよ。いやあ怖い世界だなあって、見てて思ったよ(笑)。
OLE:一流の皮肉屋と渡り合わなきゃならない職種だからなあ。
横森:オチとしては「田舎の大学で教授やりながら物書いてるような古臭いやつが俺に文句を言っているらしい。本も読めない、物書きとして食うこともできない、情けない奴が」って返してたな。彼が作家として自分が食えていることを誇示するのは、そういうところから来ているんだろうな。
OLE:それはコンプレックスと言うよりもオブセッションだな。

島:「作家」を継穂にしますが、『アイドルの値打ち』へ送られてくるお便りを読むに、読者のなかには作家志望の方もそれなりにいるようで、今回は”彼ら”に焦点を当てましょうか。
OLE:俺はあくまでもライターだから、作家ではない3人が、作家のいないところでそういう人たちに向けて「作家」を語れるものなのか。
横森:むしろ現役の編集者視点でのアドバイスのほうが貴重かもよ。島君はもうキャリア十分のプロの編集者なんだからさ。
島:アドバイスですか。しかし具体的な話題がないとちょっと困ってしまいますね。作家になりたい、と漠然とした希望にこたえるなら、やっぱり、大なり小なり賞レースを勝ち抜いてこい、と言うしかないですよね。楠木さんは「作家になるためのハードルは今はもうない」と断言していますが、僕はそうは思いません。最近はSNSで仕事の依頼を受け付けている半端な作家がうじゃうじゃいますが、僕はそういう素人風情には絶対に声がけしません。少なくとも今の僕は。なんか、楽をしているように見えちゃうんですよ。もちろん声がけする方もね。SNSで活動するのはプロになってからでいい。半端者がSNSでピーチクパーチク言ってたって仕方ない。それで活字で食えれば問題ないですが、そうではない人間がほとんどなわけでしょう?作家ごっこしているだけにしか見えないんですよね(笑)。そんな暇があるなら文章を書いて手当り次第出版社に送りつけろ、って。才能があれば、どこかで必ずヒットしますよ。アイドルだってオーディションに合格しなきゃ始まらないわけでしょう?作家も何一つ変わりませんよ。頑張ってプロの眼にかなってくださいとしか、言えない。
横森:俺はまったく逆だと思っていて、SNS、とくにTwitter(現X)なんかは作家としての才能を試すのに絶好の場だと思うようになった。最近はね。小説家にしろ批評家にしろ読者に一文を引用されることが才能の証だと俺は思っていて、翻訳家もそうだけど、結局シノプシスの上手さがそれにつながるんだよ。思わず引用したくなる一行を書けるかどうか、ここが作家としての才能があるかどうか岐路になるはずだから。Twitterほどそれに適したコンテンツはない。とりあえず3年やってみてさ、フォロワーを10万人以上獲得できたら、言葉に魅力がある人間だとわかる。3年やって10万にも届かないようなら、文筆業には向いていないと思って、諦めて他の職業を探せばいい。物書きは言葉で人の心を動かす職業だから、物書きを名乗っていてフォロワーが10万もいない、つぶやいても万単位での反響がない、そんな人間じゃあ、そりゃ食えないでしょうよ。もちろん、作家はSNSから退避すべきだ、って言ってそのとおりSNSでの活動を一切していない楠木君みたいな作家もいるわけだから、あくまでもひとつの方法だとしか言えないんだけど。
島:それ、僕より厳しいこと言ってますよ。僕の立場としては、出版社に認められちゃえば良いんですから。でもたしかに時代を考えれば、Twitterでフォロワーを増やせる人は「言葉」で食えるんでしょうね。
OLE:まあ、言葉に魅力があればフォロワーは確実に増え続けるからね。フォロワーが増えないってのは要は言葉に意識的になれていない、ただ思考を垂れ流してるだけの自己満足で終わっているってことだから。仲間内で反響しあって終わり。要は大衆に響かない=フォローされない、ってことだね。ここは言い訳が効かないだろうね。客観的に見ても、Twitterで才能を試すって考えはアリだね。俺はもうライターで食えるようになってからTwitterを始めたからさ、そのへん突かれたら痛いけど(笑)。
島:意識的にならなければいけないっていうのも、すこし違うのかなと思います。意識的にならずとも、才能さえあれば、フォロワーは勝手に増えるはずですよ。

横森:簡単に言うとだね、朝倉未来を真似しろってことだね。あれだけ言葉に魅力のある人間はいないでしょう。朝倉未来が売れてるのは言葉に魅力があるからだよ。物書き志望の子はさ、プライド捨てて朝倉未来を見習いなさい。現代の志賀直哉だよ、彼は。朝倉未来をバカにできるのは朝倉未来よりフォロワーの多い人間だけだよ。Twitterってのはそういう世界だから。そういう世界だと分かった上で「言葉」で成り上がったのが朝倉未来だからね。とくに作家連中で彼をバカにするのがいたら、恥の上塗りだから、やめておきなさい。「文章」についてああだこうだ言ってるやつのそのつぶやきが100人とか1000人とかさ、その程度の人間の眼にしか触れてないって、それくらい恥ずかしいことはほかにないから(笑)。自分の醜態を自覚しなさい。
OLE:アイドル業界だって朝倉未来にかかっているからな(笑)。
横森:秋元康を継げる人材を探すとなると朝倉未来しかいないからね。
島:彼にとって格闘技というのは、これは不本意かもしれませんが、サブ・ジャンルなんですよね。ユーチューブ、Twitter、なんでもいいですが、言葉を披露する場が彼のメインで、そこに格闘技やアイドルがある。だからものすごく可能性に満ちているように見えるんですね。かなり前に楠木さんが「ブレイキングダウンはアイドルと変わらない」と話していて、なるほどな、と。そうしたら最近、朝倉未来がアイドルをプロデュースするってニュースが飛び込んできて、さすがだなあと、思いましたね。
横森:それって『アイドルの値打ち』もおなじだよね。あのサイトはアイドルのなかに文学があってそれを活用しているわけじゃなくて、まず前提として文学があって、そのなかのサブ・ジャンルとしてアイドルがあって、それを語っているにすぎない。ここが肝心で、世間にいるアイドル批評だとか評論家のみなさんとは畑がそもそも違うということだね。同じテーブルにはつけない。アイドルを真面目に論じている退屈な方々とは、同じテーブルにはつけないんだ、『アイドルの値打ち』は。あくまでもアンダーグラウンドなんだ、あれは。
OLE:確信しているのはさ、読者の多くは小林秀雄だとか、カントだとか、読んでいない、という点で、でもそこは責めない。それはもう仕方ない。ただそれを語ることはやめない。なぜならはじめからそういうジャンルとしてやっているからだね。個人的には、『アイドルの値打ち』における批判のスタイルって「純粋理性批判」だと読んでいるから、であればカントが当たり前の前提になってくる。とにかく、そういうジャンルでやっているので、ついてこれる人だけついてきて下さい、という彼のスタイルはすごく明快で心地いいよね。カントを知ったあとにもう一度読めば、作者がたしかな価値観をもっていることを思い知るから、興奮することになる。だからこそ読者が右肩上がりに増えているんだろう。
横森:『アイドルの値打ち』がある時期からシノプシスに傾倒しはじめたのは、作者が文体としてのアンチノミーに手応えを掴んだからだろうね。新しい編集の子の好みなのかもしれないけど(笑)。

島:サブ・ジャンルをもつというのは、小説家も批評家もどちらも重要ですよね。もちろんライターも。文学賞を獲ってから音楽を語る。これも戦略としては正しいんですよ。物書きとして。
OLE:うん。
横森:批評家ってのは長いレンジで物事を捉えることができないとやっていけないからね。たとえば楠木君が大園桃子を高く評価することは福田和也が石原慎太郎を高く評価したことと本質は同じだよね。石原慎太郎を評価したことが福田和也の弱点に挙げられているけれど、そう考えるのは才能のないやつらだけでさ、石原慎太郎への眼力を備えるような人間だからこそ、江藤淳に認められたんだよ、福田和也は。要は、物事を狭い視野でしか捉えられない人間には批評家は務まらないってことだ。最近なら八木仁愛にしても同じことだね。批評家として食おうって心意気のある奴はさ、八木仁愛を旬にして積極的に文章を起こしてさ、投げつけてると思うよ。そこにチャレンジ精神が湧かない、想像力が届かないのは、まあ向いていないかもな。大園桃子に当時の最高点をつけたことが『アイドルの値打ち』のブレイクのきっかけ、作者のセンスのあらわれだから。
島:でもそれって、実際に作家として食えるようになってからじゃないと理解できないことですよ(笑)。まだまだ食えてない人たちにそれを言っても仕様がない。
OLE:説明しないとわからない人間は、説明してもわからない、ってやつね。この前『アイドルの値打ち』の管理人にサイトのデータを見せてもらったんだけどさ、大園桃子の記事は計***万くらいアクセスがあるんだよね。中国の乃木坂ファンのあいだでも話題になったことがあるらしい。凄いのは、継続的にアクセスされているって点でさ、同じ人間が何度も記事を読みにサイトにアクセスしていることが見て取れる。記事が書かれてからもう5年だよ。凄いことだよこれは。羨ましいね、そこまで読者に親しまれているって。普通はさ、ウェブサイトの記事の寿命なんて長くて半年だよ。短いのは一週間ももたないから。見習わなきゃね。
島:これは楠木さん本人が言っていることでもありますが、やっぱり世界観がしっかり作れているということなんでしょうね。一握りの人間だけに共感される文章の世界が。

横森:『アイドルの値打ち』にしても「僕が見たかった青空」にしてもオールドスクールなわけでしょう。西野七瀬にゾラのナナを引くということは、楠木かなえはフォシュリーということなんで、そういうレンジを作っている時点で、”僕青”の八木仁愛に高い点数を付けることはさ、俺、予感してた。これ、後付じゃないからね(笑)。八木仁愛の記事が一般公開されるのがいつなのか、俺にはわからないけど、かなりおもしろい批評になっているから、お楽しみに。まあ、100年後に、今のアイドルシーンを振り返る人間がいるとすれば、その人にとっては乃木坂だとか欅坂だとか関係なくて、『アイドルの値打ち』のマネをすれば、ノスタルジーがどこにあるのかってだけだから。批評ってのはそういうレンジを作らなきゃだめなんだね。
OLE:それってヒット曲問題に通底するものがあるね。
島:ヒット曲は、だれよりも長く生き続けますからね。
OLE:そのとおり。ヒット曲を作り手や多くのアイドルが欲しがるのは、金が稼げるからじゃなくて、自分が死んだあとも残るからなんだよな。
島:作家になりたいと考えるなら、結局、そういう志が必要なんですよ。というか、それがすべてです。それだけがあればいい。あとはどうとでもなりますよ。

 

2024/03/18  楠木かなえ
*2024/03/26 規約上の問題で一部伏せ字にしました