乃木坂46 全部 夢のまま 評判記

「全部 夢のまま」
楽曲について、
27枚目シングル『ごめんねFingers crossed』のカップリング曲。与田祐希センター作品。
スマートフォンアプリ『乃木坂46リズムフェスティバル』とのコラボソング、とのことでミュージックビデオ公開前に別撮りでオリジナルの全体ライブ映像がファンに向け公開された。この試みは良いと思った。楽曲鑑賞、アイドル鑑賞のどちらの観点でも実りある時間が提供されている。慣習化されることを願う。
歌詞、楽曲、ライブ表現について、
青春を反復し、過去の恋愛を繰り返し問いつづけ、それを叙述する生活によって、作詞家・秋元康の詩情が避けようなく成熟してきた。青春の鮮度が損なわれていくのと引き換えに、個人的体験の範囲内には収まらない妄想の爆発のようなものがたしかに出てきた。今作品では、その成熟さと乃木坂46の大人っぽさ、色っぽさがうまくかけあわされていて、スポットライトの下で踊るアイドルが日常からかけ離れ、幻想的で、段違いにうつくしく感じる。また、この詩情には大園桃子への写実があるようにも感じる。作詞家だけでなく、ファンにも妄想の飛躍を強いる魅力がある、ということなのだろう。つまりこれは現在の乃木坂46だけが表現を可能とする稀有な歌謡曲であり、正真正銘の傑作と呼べる。
このクオリティレベルの楽曲をカップリング曲として提示する、あるいは、カップリング曲を表題曲のようにみせてしまえるところが乃木坂46の凄さ、魅力なのだ。
前述したとおり、今作品はライブパフォーマンスが素晴らしい。深い満足を与えてくれる。アイドルの個々が演劇をもって楽曲の備える綺羅びやかな世界観を表現しており、グループの境地がよく表れている。アイドルの表情に能動性があり、どれだけ眺めても飽きないし、毎回あたらしい発見がある。田村真佑の笑顔、仕草がやっぱり格別に良いし、生田絵梨花、齋藤飛鳥に関してはもはや気品すら感じる。賀喜遥香も良い。表情に「泡沫」がある。アイドルのそれぞれが間奏の際に作る表情の差異、楽曲に対する解釈の多様性に注目してみるとおもしろいのではないか。なによりも、こうした群雄に囲まれてもなお与田祐希の存在感は揺らがないのだから、今作品を機に彼女の「センター」としての可能性を作り手だけでなくファンもまたあらためて見つめ直すのではないか。
「鑑賞」に応えきるという意味では、近年ならば『青春の馬』『絶望の後で』のライブパフォーマンスに比肩する魅力を湛えている。
ミュージックビデオについて、
楽曲の持つ綺羅びやかさはそのままに、丁寧に表現できている。しかし詩情に対する解釈に安直なところがあり、やや図式的か。アイドルに強い演技要求がなされていないようにも見える。
総合評価 77点
現在のアイドル楽曲として優れた作品
(評価内訳)
楽曲 15点 歌詞 16点
ボーカル 15点 ライブ・映像 16点
情動感染 15点
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、岩本蓮加、梅澤美波、遠藤さくら、大園桃子、賀喜遥香、久保史緒里、齋藤飛鳥、新内眞衣、清宮レイ、高山一実、田村真佑、筒井あやめ、星野みなみ、松村沙友理、山下美月、与田祐希
作詞:秋元康 作曲: you-me 編曲:佐々木裕