乃木坂46 大園桃子 評判記
「架空の魔物」
大園桃子、平成11年生、乃木坂46の第三期生であり、9代目センター。
神童と呼んでしまったら、嗤われるだろうか。自分とは別の、もうひとりの自分を演じ作ることが「アイドル」を立ち上がらせることになる、という暗黙の了解を抜け出たその姿、自他問わず、自己を偽る人間のことを忌避する悪逆に満ちたその横顔は、アイドルのあり方そのものを問い直させる。現実のなかに唐突に、しかし当然のように姿かたちを現す非現実の存在、架空の魔物ごとき存在を「アイドル」と真に呼ぶならば、大園桃子ほどこの形容辞の似合う人物はいないだろう。シーンの常識の外に立ち、大衆の思惑から外れ、異端児でありつづけることが、むしろ「アイドル」であることを裏付ける。レゾン・デートルを確立する。大園桃子が天才たる所以である。
アイドルの扉をひらいた後もアイドルになる以前の自分を守ろうとする悪逆さ、カメラの前で、ステージの上で、笑うことだけでなく不安をきしみ現すことにも一切の躊躇を生まない感性の自由奔放さ、日常の些細な場面でも余人には到底選ぶことのできない道に立とうとするその果敢さ、異端性において、大園桃子その人が特別な存在に感じられる、つまり「アイドル」の出現を目の当たりにする、つまり、奇蹟を実感する。この「奇蹟」がなぜ「アイドル」に結ばれるのかと云えば、大園桃子という人の有り様とは、本来的に奇行なのではなく、大衆のだれもが忘れてしまったかつての自分なのであり、それを教えるという点において、彼女は「アイドル」なのである。なにものかに影響されることはあっても、なにものかに左右されることはありえない、騙されることはあっても、操られることはありえない、否定のできない正しさをもったそのイノセンスは、これまでのアイドルシーンから決定的に隔絶するものであるが、しかし時代に囚われない何か、長い時間の経過にたえ得る「可能性」を宿している。
ファンの言いなりに動き、ファンの操り人形になることでしか「アイドル」を立ち上がらせることができないと確信する少女であふれ返る現在のシーンにあって、大園の存在感はいや増すばかりである。それはたとえば、用いる言葉・文章の緊張感、刺戟の強さにおいても明らかである。季節が移り変わる瞬間を、大切な人との宿命的な別れへと通いあわせ、人生の岐路を想い、ノスタルジーに高い価値を見出していく彼女の言葉・文章は、澄み切った手記に触れたような心地に浸らせる。アイドルの言葉を前向きに捉えようとするファンのこころを、常に動揺させるのだ。
この大園桃子の横顔は、現代アイドルつまりグループアイドルの性格を変質させた、アイドルのあり方そのものを転覆させた張本人として、やがて多くのアイドルファンに想起され、アイドル史に銘記されることだろう。
総合評価 91点
アイドル史に銘記されるべき人物
（評価内訳）
ビジュアル 18点 ライブ表現 18点
演劇表現 18点 バラエティ 18点
情動感染 19点
乃木坂46 活動期間 2016年～
