NGT48 安藤千伽奈 評判記
「ツインズ」
安藤千伽奈、平成13年生、NGT48のドラフト3期生。
アイドルとしての輪郭・物語をほとんど持たないが、一部の熱烈なファンから支持を集めている。好悪がはっきりとわかれるアイドル、と表現すべきだろうか。ただ、凡百のアイドルよろしく彼女もまた耽美に取り憑かれてしまったようで、熱烈なファンを獲得した当時の瑞々しさ、溌剌さを現在の「安藤千伽奈」から見出すことは困難におもう。少女の頃の面影、これがまったく見えないアイドルである。
このひとは、ダンスを得物とするアイドル、らしい。たしかに、ステージ上で踊る安藤の横顔には、SKE48ひいてはSTU48的とも云うべき、踊ることへの自負がうかがえる。それなりに完成されているように見える。ダンスを軸にしたアイドルの存在感、これは平均を凌ぐものがあるようだ。NGT48は踊りが良いアイドルグループだから、そうした集合体のなかにあって、ダンスに注目される、ダンスを売りにする、これはやはり順位闘争の場において有利な立場を築くのだろうと想像する。とはいえ、その肝心の踊りを評価するならば、テクニック、表現力、いずれも小ぶりで、たとえば門脇実優菜のような批評への原動力は望むべくもなく、踊ることによってアイドルを物語ろうとする意志、スリリングさといった話題からは遠く離れており、ダンス経験(地下アイドルとしての経験)を持つからそれなりに踊れるアイドル、といった印象から抜け出ない。表現ではなくテクニックの追究に走り零落する、凡庸な、類型的なグループアイドル、と見るべきだろう。
事実、安藤は、オーディション時に多少なりとも話題を作り注目を浴びたが、それが最後、グループ加入後はきわめて話題性に乏しい、平板なアイドルに終始している。アイドルの魅力の乏しさを浮き彫りにしている。
「ドラフト制度」の功罪には、グループの歴史に対するレジティマシーの毀損がまず挙げられ(たとえばNGT48の場合、第2期生が誕生する前にドラフト3期生が誕生するという、数字上、奇妙な状況を作っている)、次に、もし自分が応援するグループにこのアイドルが加入していたら、という尽きないアナザーストーリーへの希求がある。つまりは、自分が応援するアイドルグループとは別のグループから指名を受けた、言わば赤の他人のアイドルでありながらも、しかしファンは、その赤の他人に対しそれなりに関心を持ち続けることを可能とし、そのアイドルの物語に進展があれば、その話題に積極的に参加しやすい、という状況に置かれる。
ドラフト3期に名を連ねる安藤千伽奈も、当然こうした境遇を与えられた少女の一人なのだが、彼女の場合、デビューしてからこれまでに、異なるグループのファンのあいだで話題にされるという経験をまったくもたない。やはり、魅力に乏しいアイドルだ、と云うほかにない。
このアイドルは、日常を演じるという点できわめて浅薄に見える。
日常生活においてはお芝居をする必要などない、アイドルを作るのはステージの上に限る、という強い意識を持っているならば文句なしだが、このひとの場合はどうだろうか、日常においてもお芝居をしなければならないと心がけつつ、しかしそういった意識を持っているという情況で満足してしまうのか、結局、日常の演技、これがまったく見えてこない。提示される「アイドル」に一切のケレンがなく、たとえば、眼前に立つ「アイドル」がいつかは失われてしまうことへの、予感つまり儚さのようなものをひとつも描き出さない。要は、美しくない、ということである。
なによりも、幸運にもあの「絶望」と情報的に無縁であった少女が、絶望の後もそのとおり無縁をつらぬくというのは、グループの歴史、物語から径庭した振る舞いに見え、過去からなにも学んでいないのではないか、と落胆させられる点、つまり「成長」がなおざりにされているように見える点に、このアイドルのキズがあるようにおもう。たとえば、自己の立ち居振る舞い、日常の仕草を眺めたファンが何を思うのか、どう感じるのか、どう傷つくのか、配慮に欠けているように見える。アモール、この甘美な響きからとにかく遠ざかった存在であり、儚さ、可憐さ、雄々しさ、いずれも乏しい。強いて言えば、感情をむき出しにする瞬間もあるにはあるようで、それなりに情動のあるアイドル、という見方もできる。だがむしろそれがアイドルの「顔」を硬直させ、ビジュアルを損なっているように感じる。日常の機微に意識的になり、日常の些細な出来事のなかに奇跡を見出し物語を作る、という姿勢をとれなければ、やはりアイドルに物語性が付すことはないし、当然、アイドルとして飛翔することもできないだろう。
総合評価 40点
辛うじてアイドルになっている人物
（評価内訳）
ビジュアル 6点 ライブ表現 10点
演劇表現 7点 バラエティ 9点
情動感染 8点
NGT48 活動期間 2018年～2023年