デビューしたばかりの5期生を順々に眺めていく

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「アイドルの可能性を考える 第九回」

メンバー
楠木:批評家。趣味で「アイドルの値打ち」を執筆中。
OLE:フリーライター。自他ともに認めるアイドル通。
島:音楽雑誌の編集者。
横森:カメラマン。早川聖来推し。

今回の記事は、アイドルについて語る為に集まった座談会ではなく、いつものように4人で演劇や小説について話しているなかでアイドルの話題が出た箇所の抜粋になります。

「アイドル評判記」

楠木:ここ最近は演劇のオーディション審査に呼ばれる機会が多くて、短期間、短時間で少なくはない数の「人間」を眺めました。そこで痛感したことは、これはありきたりですけど、眼前に並んだ応募者を眺めることでその応募者に対する好奇心が湧いて出てくるという情況はきわめて稀なんだなってことです。はじめて審査員をやったときは一人の少女に入れ込んじゃって、この子を絶対に合格させよう、ってそれしか考えていなかったんだけど、馴れてくるとどの子もみんな同じに見えてくる。だから独りよがりな言葉を投げて揺さぶってみたりする。こっちが興味をもつ為にね。すると応募者から岡田利規とか西條義将とか、名前が出てくる。これはちょっと根気がいるなあ、と。
横森:岡田利規のチェルフィッチュはアイドルと縁があるよね。ひとりの人間が複数の人間を演じたり、複数の人間がひとりの人間を演じたり。
楠木:そういえば「アイドルの値打ち」をね、オーディション会場に来ていた劇作家に読んでもらった。そうしたら、これは評判記だね、と一言。それを聞いてすぐに管理人に連絡してサイト内の記事タイトルをすべて変えてもらった。
島:評判記というのは文芸批評の前身ですよね。
楠木:そうですね。僕は浅薄なのでこれは受け売りですけど、当時はそうした文章を書く人間を”あなさがし”と呼んだらしい。アイドルに対する評論家はそれなりにいるのに批評家と呼べるような人間は現在ひとりも見当たらない。そういうなかで好事家として「アイドル批評ブログ」を名乗りアイドルを批評してきたわけですが、あくまでも僕は好事家で、ルバテに憧れるその姿勢を崩したくない。だから、アイドル批評というものをこれから仕事としてやっていくようなしっかりとした人間が現れたときに、そしてそれが大衆にウケたときに、そういえば昔アイドルの評判記のようなことをやっていた人間がいたな、とか、そうした語り口に選ばれたら嬉しいな、と考え興奮してしまったわけです。
横森:アイドル界隈は乃木坂の5期生がもうずっと話題の中心。
楠木:あたらしい読者の入り口という意味で「乃木坂46 5期生 注目度ランキング」とか、4期生のときのように「アイドルの値打ち」の入り口になるような目を引きやすいタイトルを付した記事をまた書きたいね。管理人によると4期生の記事で読者がかなり増えたらしい。
OLE:ちょっと一人ずつ見てみようか。「お見立て会」と名乗るんだから、品定めしても良いでしょう。

・・・5期生楽曲『絶望の一秒前』のミュージックビデオを鑑賞する。

「井上和」

島:センターの井上和さん。人気出そうですよね、彼女。
OLE:「期待通りのセンター」といった感じ。
横森:まあ白石麻衣と言えば白石麻衣だよね。
島:存在感ですか。
横森:それは建前で「商品価値」かな。顔が似てなくても、ずば抜けて美人って点はおなじだからね。
楠木:生駒里奈がいたから白石麻衣が真っ直ぐに育ったわけではないんだよね。白石麻衣がいたから生駒里奈で勝負をかけられたんだ、きっと。
OLE:だとすれば破格だな。
横森:新人とはいえ、しかしダンスが下手だね。
OLE:でもフィジカルはある。むしろ踊りに関してはこの子が一番期待できそうだけどな。
横森:センタータイプではないかな。人気は一番だろうけど。やっぱり白石麻衣だねその辺は。
OLE:白石麻衣はそういう評価からしっかり抜け出たけどね。
横森:どうやっても主役になれないタイプというか、しあわせになれない女、みたいな、雰囲気。そういうのがファンに受けるんじゃないのかな。
OLE:こういう子が手放しで称賛されるのは純粋な「憧れ」があるからだよ。
横森:それこそが建前。こんな美人でも自分とおなじなんだ、っていう共感で人気が出るんだよ。
OLE:「憧れ」ってのはそういう短いレンジの話題を包括した興奮だよ。
楠木:このひとはおそらく、グループに新しく生まれくる価値の守護者のような、そんな役割を将来担うんじゃないかな。だから今はもっと自分を見失うべきですね。

「一ノ瀬美空」

島:次は一ノ瀬美空さん。
OLE:山下美月にしか見えない(笑)。
楠木:このMVでは一番かな。表情が良い。演技ができるんだな、このひと。
横森:この子はもうキャラがはっきりとしているよね。
OLE:キャラクターをはっきり提示してくれるとファンはそれにもたれ掛かることができるからね。これはキャラクターだから、とアイドル本人が暗に言ってくれるならそれはむしろ安心感につながる。人が嘘に怒るのは、嘘をつかれているかもしれないという不安に対する怯えだよね。裏切られた、という怒りは、まあ、あと付けがほとんどだ。ただその「怯え」を与える人間のほうに魅力を感じる、価値があるって考えてきたのが「アイドル」なんだけど、大島優子がそういうのを割ったんだね。
楠木:そういう意味ではやっぱり僕は山下美月へのイメージと合致させてしまいますね。これは確実に自分ではない何者かだ、という確信のなかでそれを演じることでだんだん屈託が塊になっていって、握りつぶすことができなくなってしまうという。それで”僕は僕を好きになる”、なんて曲を歌わせられる(笑)。
島:どこか”かげり”があるように見えますよね。『絶望の一秒前』のイメージに近いというか。
OLE:そういう感想が自然と出てくるところが肝要だろうね。

「菅原咲月」

島:5期生の中でなら僕は断然菅原さんを推します(笑)。
横森:この子は意思表示がはっきりとしているよね。おもしろいもんでさ、すごく橋本奈々未っぽいよね、そういうところは。
OLE:売れるだろうなあ。
横森:美人でしかも愛嬌たっぷり。
OLE:この子を発掘できている時点で今回のオーディションは成功してるんだよな。審査員に見る目がある。
楠木:「他人のそら似」をテーマにしたオーディションだったとすれば彼女がもっともセミオティックですね。
島:ロマンティックですよね。
楠木:とびきりにナチュラルですね。僕はそれをシリアスだとも感じるけど(笑)。
横森:このMVもそうだけど、ドキュメンタリーを見ても運営が相当気に入ってるのはわかる。
OLE:逸材だからね。ファンを説得させるにはまず自分たちが盛り上がらないと。

「小川彩」

島:前評判どおり小川彩さんも魅力的ですね。
横森:うーん。
OLE:でもなにかひっかかるよね。なんだろうね。素直に「良い」とは言えないようなさ。なにかあるよね、違和感が。
横森:ブレーキを踏むんじゃないの。一番若い子だからなのか、わからないけど。年齢を前に強く踏み込めない、正直な言葉を吐けないってのはあるよ絶対。本当にダメならダメと言えるけど、この子は魅力的ではあるんだよね。だから問題点を挙げるなら慎重にならないと切り返される、みたいな。
OLE:審査員のそれぞれがそうやって悩んでいるうちにトントン拍子で合格してしまったのかもしれないな。
島:単にビジュアルが決め手でしょう、彼女は。
OLE:そこまで良いかな?ビジュアル。
楠木:このMVだと、カメラを見つめるシーンの表情には引かれるものがありますよ。それから、おそらくボーカルも良い。
OLE:不敵だね。笑顔が。
横森:ただ、若いのに新しさがないというか、前途多難に感じる。

「冨里奈央」

島:次は冨里奈央さん。彼女は軸がしっかりとしているように見えますね。
楠木:文句なしに逸材。菅原咲月と並ぶかな。
OLE:こっちはより”通好み”だよね。そういう意味じゃすごくストラテジーなアイドルだよ。
島:3期生の中村麗乃に似ていませんか。
横森:イメージは近いよね。
OLE:優れた人材という意味で?
横森:カノンでありバイプレーヤーであるという意味で(笑)。
OLE:未完の大器ってことなら佐々木琴子の系譜でしょ。
楠木:「他人のそら似」というのは要するにフュージョンを狙っているわけですよね。中西アルノとかね、あれは平手友梨奈とのフュージョンを狙っているわけです。過去と現在を高水準で一致させてより高い次元に押し上げよう、と。でも5期生のなかでは冨里奈央だけフュージョンがないんですよね。冨里奈央なら単体でも勝負できるという確信が作り手の内にあるんじゃないか、と想像させるくらいに独立した魅力をそなえているように感じる。なによりも、万能感があるでしょう、彼女。
OLE:可憐だね。

「奥田いろは」

島:奥田いろはさん。
楠木:このひとはファンのアーティスティックな趣向にもっとも応答する存在でしょう。
OLE:YUIだよね。歌声が。
楠木:「他人のそら似」、これは似ているところが「顔」じゃなくてもかまわないわけですね。作り手の郷愁をつついたんでしょう、きっと。
横森:苦戦するだろうけど、こっちが興味をもてるかどうか、ってだけなような気もする。
OLE:この子の場合は絶対にキャラは作らないほうが良いね。
横森:売れようとして破綻するタイプだよね。
OLE:宮澤成良っていたでしょ1期に。あの子、痛々しかったけど、なんか思い出すなあ。
楠木:秋元康が書くアイドルソングってアイドルにしか表現できないものが多いんだけど、そのアイドルソングをしっかりと歌えるアイドルって実はあまり居ないんですね。たとえば生田絵梨花、歌は上手いけどアイドルソングを歌うとなると実力を存分に発揮できない。あとは、池田裕楽とか、久保史緒里とかね。歌唱表現力と歌唱技術の拮抗した歌い手って山本彩くらいだろうけど、奥田いろはには山本的な魅力があるようにおもいますね。そういう意味では可能性を感じますよ、このひとは。

「中西アルノ」

島:中西アルノさん。次世代筆頭、新たなセンターです。
楠木:僕はこのひとを推したいな。もうすでに「神秘」だからね。たしかに風に吹かれてる。
OLE:オーディションで尾崎豊を歌ったっていうのはまさに文壇的お受験だよね。奥泉光が審査員をやっている芥川賞では奥泉光的な結構を備えた小説しか選ばれないっていうさ、賞を狙うには審査員の好みを勉強して攻略すればいい。中西アルノは見事に攻略したわけだよね。
島:そういった企図って物事が進むうちに運営陣内でも混乱していって、一体どこからこの企みはスタートしたんだ、って何がなんだかさっぱりわからなくなるんですよ(笑)。
楠木:役名:平手友梨奈、主演:中西アルノ、といういわば非現実としての平手友梨奈とのフュージョンを狙った。たとえば、青空を眺めていて衝動的な思いつきで10月のプールに飛び込んだ、つまり、アイドルから卒業した、という平手友梨奈の物語がある一方で、おなじように青空を眺め衝動的に10月のプールに、そこが冷たいとわかっているプールに飛び込んだ=アイドルになった少女がいる、という物語を書いたわけです。それならば、当然、中西アルノは平手友梨奈のように踊れたり笑えたりしなくてもいいわけですね。作為、無作為、これはわからないけれど、サンボリックとして平手友梨奈を演じているのだから、そこにはどうやっても中西アルノというひとの個人としての記号つまり魅力が出てくる。
OLE:それを聞くと、アンファン・テリブルであるのは久保史緒里ではなく中西アルノになるんじゃないか。
楠木:久保史緒里というのはアイドル観の彫琢としてのアンファン・テリブルですよね、きっと。能動的なものではなく、受動的なものですね。一方で中西アルノというのはアンファン・テリブルを演じろと命じられた存在ですね。これは「神秘」でしょう。
横森:すごく観念的というか、小林秀雄的にきこえる(笑)。なんでそれが「神秘」になるの。
楠木:本人のまったく意図しない、関与できない、手の届かない場所で「中西アルノ」が「アイドル」として語られていくから。
OLE:この子を眺めるには平手友梨奈という分厚い壁があるんだけど、それはこっちが勝手に用意した壁なんだよな実は。ほんとうは、感じたことを正直に表に出せばいいだけなんだ。そういう意味じゃすごく真っ当なアイドルだよ、この子。ファンに思考経験を与えてる。
楠木:そのとおりですね。ほんとうはどうなんだよ、って。中西アルノが表に出てきてなにか言葉を発するとき、好奇心を抑えられるアイドルファンはいるのか、ってことですね。なぜそういう好奇心がわいて出てくるのか、考えれば一目瞭然で、それは彼女がすでに「神秘」だからです。神秘、これはなにも大自然のなかでのみ偶会する奇跡ではない。むしろ自分とおなじ生身の人間の内に、平凡だと思い込んだ人間の内に、なにか認めたくはないもの、受け入れたくはないと誓ってしまうものが立ち現れたのならば、それは言葉どおり「神秘」なんですね。だれかがある人間を天才だと称揚する。それを眺め、そんなわけがあるか、と嘲笑う。この時点でそのひとにとってその”ある人間”は神秘的な存在になってしまった可能性が高い。
OLE:まあ要するに平手友梨奈=中西アルノが天才なのかどうか、という問いかけだよねこれは。
楠木:おもしろいのは、平手友梨奈や大園桃子のことを天才だと鼻息を荒くして説明する人間ではどれだけ言葉を尽くしても彼女が天才であることの説得力を出せず、彼女たちを天才だと称揚する人間の声を前にしてそれを嘲笑い、絶対に認めたくないとこころに誓った人間の感情こそが平手友梨奈や大園桃子が天才であることを証明してしまうという点ですね。
島:中西アルノ本人を意識してこのMVを眺めてみれば、表情が澄んでいて魅力ありますよ。迫力もある。
横森:新人でこの表情が出せるってのはたしかに驚くね。

「五百城茉央」

OLE:大園桃子の名前が出たけど、俺はこの子、大園桃子っぽさがあるな、とおもった。
横森:デビュー当時の大和田南那にも似てる。見たままで言えば、洗練とは無縁なイメージ。ただ、推せるのかどうかって考えると、推せないかな。これは小川彩と一緒で。
OLE:素朴に見える、見えるけど、実は隙きがないというか、語れるところがあまりないというか。
島:まだまだ情報が少ないから仕方ないですよ。こればっかりは。
OLE:そういうことじゃないんだけどなあ。自分のなかで堆積していくものがない。理由はわからないけど。
楠木:でも彼女はきっと「成長」をもっとも期待される登場人物ですよね。
横森:そこがスポイルされちゃってるとしたら致命的だ。
OLE:ハッとするものがないんだろうな。
横森:ビジュアルが良いからね、なんと言っても大和田南那はAKBで歴代ナンバーワンのビジュアルだったわけだから、それを土台にして退屈さとか憂鬱さとかそういう素朴なイメージを裏切らない素顔が出てきたら一変するかもね。

「岡本姫奈」

島:最後、岡本姫奈さん。
OLE:前評判を無視することはしないけど、それでも評判を無視してもいいくらい優れたものを持ってるよ、この子。このMVのなかでは一番踊りが良い。考えていることが動作に出てる。
楠木:僕は逆に評判を耳にしてこれは推そうって思っちゃったけど(笑)。一番自分に近い「人間」だよね。これ、おそらくだれでも内心を襲うことじゃないのかな。彼女は自分と一番近い人間なんだ、って。僕は、自分がいかに愚劣で、どうしようもない、救いようもない人間だってことを誰よりも知っているからね。なら推すしかないよね。夢に乗ってやろうじゃないか、と。自分の汚さを無視して、さらにそれを教えてくれるアイドルも黙殺する、最初からいなかったことにする、なんて、そこまで僕は卑劣じゃない。
横森:(笑)
島:私情抜きで見ても、独特な雰囲気はもっていますよね。    
OLE:うん。この子も逸材の一人だよ。
楠木:アイドルの「仕草」がもう映像に出ていますよね。素顔がこぼれている、と換言すべきかもしれないけれど。肝心なのは、これまでに共有された情報がすべて真実であったりそこに真実を歪める嘘が紛れ込んでいたり、とか、そうした混迷によって少女自身の素顔が丸裸にされてしまった、と考えるのは大きな誤りだという点ですね。彼女がひとりで部屋のなかで生活している姿が、彼女の知らないところで全世界に向けて中継されたのならば話は別だけれど、現在共有されてしまった情報というのは、彼女が演じたひとつの役、にすぎないわけです。それを眺めて彼女のことをすべて知った気になる、というのは幼稚なんですね。自分もかつては同じ役を演じてしまったことがある、という共感に控えるべきなんです。
横森:とはいえ、これからアイドルとして笑えるかどうか。
楠木:丹生明里とか顕著だけど、アンコンシャスによってアイドルを物語るみたいな状況にシーンは倒れ込んでしまったんだね、きっと。まず幻想があってそこから現実を垣間見る、といった。それはそれでとびきりに魅力的なんだけど、岡本姫奈のような登場人物がしっかりとアイドルを演れるシーン、まず現実があってそこからなんとかして幻想的イメージをひねり出す、そんなシーンが用意されないというのは健全ではないと考えるんだけどな。そういう観点に遭遇させられるという点では、このひともまたアンファン・テリブルと呼べるでしょう。あるいは、頭上で大きく揺さぶられたダモクレスの剣。

2022/03/23  楠木