乃木坂46 最後のTight Hug 評判記

「最後のTight Hug」
楽曲、歌詞について、
乃木坂46・初ベストアルバム『Time flies』のリード曲であり、生田絵梨花のラストセンター楽曲。
「希望」の系譜に連なる作品。君=アイドルとの邂逅を描いた『君の名は希望』、その「君」との別れを克明に歌った『サヨナラの意味』の、後日の物語。過去の恋人の結婚というイベントをアイドルとの決別に喩え、絶対に食い止めることができないその人生のストーリー展開を前にして、その避けようのない行き止まり=現実を前にして、過去を悔やみ自身の本音を見つける、再び暗転しつつある情況のなかでしかし希望を見出そうとする、「僕」の成長の物語。
今作品において特筆すべきは、やはり、アイドルの卒業を物語のカタストロフにするのではなく、さらにそのあとの物語、”サヨナラのあと”を描いている点だろう。凡庸な書き手であれば、アイドルとの別れを一度克明に描いてしまったならば、次は、あたらしいアイドルとの出逢い、を書いてしまうだろう。作詞家・秋元康が非凡に映るのは、アイドルとの別れを描いたあとに、さらにその別れのあとの物語を記すという定形を脱するところにある、というよりも、その”サヨナラのあと”の物語を編み上げることで、もう絶対に引き返すことができないという地点をあばき出し、成長つまり希望への糧にしてしまう手腕にある。もう「僕」はこれまでのように、過去に愛した彼女のことを想い、静かに佇むことはできない。次の場所に移動するしかないわけである。
当然、こうした詩情の原動力となっているものはアイドルへの関心の強さ、つまりアイドルに対する自己投射と写実にあり、アイドルの現在をノートに写そうと試みるからこそ、ひとつの物語、自身の青の時代を通して「アイドル」を物語ろうとする意欲が湧くのだ。あるひとりの人間の個人的体験をとおして少女たちの夢の物語を見る、というところに作詞家・秋元康の、そのアイドルとの関わり方、物語の作り方の魅力がある、と云え、今作はその魅力を存分に味わうことができる。
ミュージックビデオについて、
”サヨナラのあと”の物語を記した詩的世界の輪郭を上手になぞるように、映像を眺めるアイドルファンにグループの過去の物語を想起させつつ、眼前で妖精のように舞い踊る少女たちの魅力をしっかりと打ち出している。生田絵梨花の笑顔、齋藤飛鳥の踊りはもちろん、久保史緒里の所作には「アイドル」の洗練があり、それは簡明に”乃木坂らしさ”を表現し画面に映している。
しかし、乃木坂らしさがある、乃木坂らしさに溢れる、と唱えるのは簡単だけれど、それはつまりどのような魅力のことを云うのだろうか。たとえば、それは、もしこの映像の内に白石麻衣が、西野七瀬が、大園桃子がいたら……、というレトロスペクティブな感興を引き出すのではないか。乃木坂らしさ、これはつまり通り過ぎてしまった過去をめぐる希求であり、今映像作品には、そうした希求に応えきるだけの魅力・価値がそなわっていると感じる。アイドルの卒業=未来への希望を表現することが、過去を想わせることになる、という意味において作詞家・秋元康の詩情と強く通いあうことに成功している。アイドルの卒業を、つまりアイドルの物語を、アイドルのダンスによって表現しようとするこだわりにも、映像作家の頼もしさをみる。古典的憧憬を叶える傑作。
総合評価 81点
現代のアイドルシーンを象徴する作品
(評価内訳)
楽曲 17点 歌詞 17点
ボーカル 15点 ライブ・映像 17点
情動感染 15点
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、岩本蓮加、梅澤美波、遠藤さくら、賀喜遥香、掛橋沙耶香、北野日奈子、久保史緒里、齋藤飛鳥、新内眞衣、鈴木絢音、清宮レイ、田村真佑、筒井あやめ、早川聖来、樋口日奈、星野みなみ、山下美月、与田祐希
作詞:秋元康 作曲:杉山勝彦 編曲:杉山勝彦、谷地学
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