櫻坂46 無言の宇宙 評判記

「無言の宇宙」
ミュージックビデオについて、
『流れ弾』のカップリング曲。センターは渡邉理佐。
アイドルを演じる少女が、アイドルを演じながら「大人」になってしまう、というシーンにあって、そうしたアイドルを前にして、そうした現実を前にしてどのような作品を編むべきか、問いつめたような映像にみえる。
大人になってしまったアイドル、渡邉理佐ほどこの形容にハマるアイドルはほかにいないだろう。アイドルを演じる、これは要するに、自分とは何者なのか、というアイデンティティを探す行為なのだが、アイドルの職業化が完成した今日のシーンにおいては、自我の確立を終えてもなおアイドルであり続けなければならない。つまりアイドルを演じる過程で、自分とはこういう人間なのか、と知り成長した少女が、今度は、なぜいまも自分はアイドルを演じているのか、というあたらしい疑問=アイデンティティ・クライシスに遭遇するわけである。
アイデンティティ・クライシスを抱えるアイドルに向け、これまで通りの、無垢に夢や活力をうたった楽曲を渡しても、アイドルと楽曲が乖離してしまうし、成熟しつつあるアイドルを活写したような楽曲を投げるならば、アイドルが本来もつ魅力が損なわれてしまう。つまりアンビバレントに作り手は迎撃されるわけである。
今映像作品においては、そのアンビバレント=少女としてのアイドルと大人になってしまったアイドルという両極の中心に引かれた線の上を、アイドルが上手に歩けているように感じる。そう想わせるのは、やはりセンターで踊る渡邉理佐の演技が良いからだろう。表情や立ち居振る舞いに風雅がある。きっと、大人になってしまったアイドル、しかしどのような楽曲でも演じきってみせようと心構えるアイドルだけがこうした演技を作れるのだろう。
総合評価 53点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 13点 歌詞 5点
ボーカル 10点 ライブ・映像 13点
情動感染 12点
歌唱メンバー:上村莉菜、尾関梨香、小林由依、菅井友香、土生瑞穂、守屋茜、渡辺梨加、渡邉理佐、幸阪茉里乃、関有美子、田村保乃、森田ひかる、山﨑天
作詞:秋元康 作曲:barbora、TomoLow 編曲:TomoLow