AKB48 田野優花 評価

AKB48

田野優花 (C)tanoyuka_official/instagram

「遠い異国の硬貨のようだ」 

田野優花の生まれ持ったキュートなルックスと、躍動感のある立ち居振る舞いは、アイドルの枠組みを壊すというよりも、その外側で縦横無尽に跳ね回る、あたらしい時代の、あたらしい物語のために用意された”主役”として、将来を嘱望された。文芸の世界に足を踏み入れたばかりの、その覇気に満ちた14歳の少女をはじめて観た時の印象は今でも覚えている。すべてがあたらしい世界のなかで、遭遇する事象すべてに一喜一憂し、次の瞬間にはそれを飲み込んでいる、その姿を観て「これで、AKBもしばらくは安泰だな」と、私は確信したのだ。しかし、直後に、反抗期による自暴自棄ともとれるような醜態を、ファンの前で惜しげもなく晒す田野優花を眺めることになる。彼女は、自我を確立する過程の反抗期の訪問によって、アイドルとしての”可能性”=”輝き”のすべてを失うことになる。

アイドルが反抗期をみせることはめずらしい光景ではない。十代の前半でデビューをする少女がほとんどであるのだから、当然、アイドルとして過ごす生活、時間のなかに「反抗期」が放り込まれることになる。乃木坂46の星野みなみのように「反抗期」をアイデンティティにすらしてしまうアイドルも存在する。モラトリアムにある少女が、アイドル像にキズを付けずに反抗期を乗りきるためには、なによりも「境遇」に依るのだろうが、田野優花の場合は、境遇(良い影響をあたえる大人たち)に恵まれていなかったように想う。彼女に備わった資質を、反時代的な性向を、抑え込むことは誰にもできなかった。物語の主役として、その宿命への自覚が、その内奥から滲み出ることによって、彼女の表情は怒気と沈鬱を含んだものとなり、観るものをひどく不安にさせた。活力をあたえるという命題を背負うアイドルとして矛盾した存在へと追い込まれていった。隘路に陥った人間がみせる表情として、これほど標本的な人物はほかにいないのではないか、と思えるほどに。”つがい”であった武藤十夢の飛躍、小嶋真子の出現など、まさに”ことばで表現できない感情”に支配されたのではないか。あたまが、かき乱されただろう。宴の最中に、飾ってある花瓶を手にとって床に叩きつけるような行為なくしては、正常を保っていられなかったのではないか。

「この花瓶はもうこわれてしまって、元どおりにはなりません。かつてわたしの心を支配していた感情も、これと同じことです。そのために、いろいろ血迷ったまねをしましたが、どうかお許しください」

スタンダール「赤と黒」

反抗期によって、主役の座を降ろされたことは、本人にも自覚があり、反抗期が過ぎ去ったあとに、激しい後悔におそわれたようである。もちろん、手遅れであった。この世界には、どうやっても取り返しが付かないこと、というものが存在する。一度壊れてしまったものは、もう二度と同じカタチには戻れない。痛手を負った田野は、たしかに、人としてならば成熟し深みが増した。アイドルとしてならば、近寄りがたい威圧感、個性を手にしたかもしれない。しかし、それらがファンの心を(デビュー時の彼女がしたように)激しく揺さぶることはなかった。隘路の壁の前で立ち尽くすことになった田野優花は、髪の先端を黄色に染め、自分がどこに向かって歩いているのかさえよくわからないヒッピーのような風貌で、劇場でもなく、コンサート会場でもなく、寂れた事務所の一室で、遠い異国の硬貨のように冷めた隔たりのある表情で、アイドルからの卒業を発表することになった。

「でも外見だけじゃなくて、中身もだいぶ変わった印象を受けました……」
「まあ痛い目に遭ってたしかに以前よりはかしこくなったんだろうな。でも人は、痛手を負ってかしこくなり簡単には笑わなくなった女の子を、テレビで見たいとは思わないものだよ」

綿矢りさ「夢を与える」

 

総合評価 77点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 16点

演劇表現 18点 バラエティ 18点

情動感染 12点

AKB48 活動期間 2011年~2018年

更新履歴
2018/12/2 大幅にリライトをしました

評価点数の見方