AKB48 田野優花 評価

AKB48

田野優花 (C)tanoyuka_official/instagram

「遠い異国の硬貨のようだ」 

田野優花、1997年生、AKB48の第十二期生。
深みから押し上げられたように鮮明でキュートなビジュアルと才気に満ちた躍動感ある立ち居振る舞いが作る情動は、アイドルの枠組みをつらぬくというよりも、外郭の向こう側で縦横無尽に跳ね回る。あたらしい時代の到来を告げる、あたらしい物語の主人公。文芸の世界に足を踏み入れたばかりの、覇気に満ちた14歳の少女にはじめて遭遇した日の衝撃は今でも覚えている。すべてがあたらしい世界のなかで、遭遇する事象すべてに一喜一憂し、次の瞬間にはそれを飲み込んでいる…、その計ることの出来ない姿形(才能)は、ファンをグループの未来を約束させる希望として甘美な夢想で優しく包み込んだ。しかし、直後に、強さと美しさを共存させた少女は自暴自棄ともとれる醜態を観衆の目前で惜しげもなく晒すことになる。気持ちがくじけるほどありふれた光景をファンは呆然と眺めることになる。自我を確立する過程で少女が遭遇する”お決まりの”反抗期によって、田野優花はアイドルとしての可能性=輝きのすべてを失うことになる。

アイドルが反抗期を披露することはめずらしい物語ではない。青春の犠牲を受け入れ、あるいはアイドルを青春そのものとする少女たち。当然、アイドルとして暮す日常、生活、時間のなかに「反抗期」が放り込まれることになる。乃木坂46の星野みなみのように「反抗期」をアイデンティティにすらしてしまうアイドルも存在する。モラトリアムにある少女が自身のアイドル像にキズを付けないまま反抗期を乗りきるには、なによりも「境遇」に左右されるのだろう。星野みなみが幸運な境遇に置かれていたのとは対象的に、田野優花は境遇(良い影響をあたえる大人たち)に恵まれていなかったように想う。彼女に備わった資質を、反動的な性向を抑え込むことは誰にもできなかった。物語の主役としての役割、その業への自覚とそれが満たされない焦燥が自己の内奥から滲み出る感触は、彼女の表情を怒気と沈鬱を孕む、他者を撥ねつけ不安にさせる凶々しさに塗り替えて行った。隘路に陥り、その狭い通路の壁に身体を擦り付けながら自身の可能性を摩耗する人間が見せる表情として、これほど標本的な人物はほかにいないのではないか、と思えるほどに。田野は活力をあたえるという命題を背負う現代アイドルとして矛盾した登場人物と扱われていく。”つがい”であった武藤十夢の飛躍、小嶋真子の出現によって主役の座を降ろされ末端的登場人物へと押しやられる屈辱は、まさに”言葉では表現できない感情”と呼べたのではないか。あたまが、かき乱される…。宴の最中に、飾ってある花瓶を手にとって床に叩きつけるような行為なくしては、正常を保っていられなかったのではないか。

「この花瓶はもうこわれてしまって、元どおりにはなりません。かつてわたしの心を支配していた感情も、これと同じことです。そのために、いろいろ血迷ったまねをしましたが、どうかお許しください」

スタンダール「赤と黒」

反抗期が過ぎ去ったあとに、その厄介な砂嵐のなかで晒した醜態をふり返り、田野は激しい後悔におそわれたが、もちろん、手遅れであった。この世界には、どうやっても取り返しが付かないこと、というものが存在する。一度壊れてしまったものは、もう二度と同じカタチには戻れない。落ち込み、痛手を負った田野は、たしかに、人としてならば成熟し深みが増した。アイドルとしてならば、近寄りがたい威圧感、個性、切実なリアリティーを手にしたかもしれない。しかし、それらがファンの心をもう一度、デビュー時の彼女がしたように激しく揺さぶることはなかった。与えるのは居心地の悪さだけであった。隘路の壁の前で立ち尽くすことになった田野優花は、髪の先端を黄色に染め、自分がどこに向かって歩いているのかさえよくわからないヒッピーのような風貌で、劇場でもなく、コンサート会場でもなく、寂れた事務所の一室で、遠い異国の硬貨のように冷めた隔たりのある表情で、アイドルからの卒業を発表することになった。

「でも外見だけじゃなくて、中身もだいぶ変わった印象を受けました……」
「まあ痛い目に遭ってたしかに以前よりはかしこくなったんだろうな。でも人は、痛手を負ってかしこくなり簡単には笑わなくなった女の子を、テレビで見たいとは思わないものだよ」

綿矢りさ「夢を与える」

 

総合評価 78点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 16点

演劇表現 18点 バラエティ 18点

情動感染 13点

AKB48 活動期間 2011年~2018年

更新履歴
2019/10/16 再評価 リライトしました

評価点数の見方