ダンスが上手い現役アイドル ランキング 2025年版

「ダンスが上手いアイドル10選」
アイドルの魅力を一口に言うことはむずかしい。多様性の時代だと謳われるだけあって、時代を映す鏡となるべきアイドルの魅力もまた多岐にわたっている。ライブ、映画、舞台・ランウェイはもちろん、テレビのお笑い番組を中心に活躍するアイドルもいれば、絵画など、芸術の分野で花を咲かせるアイドルも増えてきた。経済書や小説を出版するアイドルだっている。――私などは、アイドルが日常的に用いる言葉・文章を読むことでその「アイドル」の魅力を捕らえようとするが、いずれにしても、ファンのそれぞれが感じ、想う、アイドルの魅力が凝集される場面があるとすれば、それはやはり、アイドルが音楽に佇む、その瞬間になるのではないだろうか。
日本のアイドルは歌やダンスを蔑ろにしている、と嘆き呆れ返る物書きがたくさんいるが、とんでもない勘違いであろう。音楽に舞うアイドルの横顔を眺め、虜になる、その才能を信じ夢に乗ると誓いを立てるからこそ「推す」という言葉が成り立つのだ。アイドルの日常の場面に引かれるものがあればあるほど、ステージにアイドルが降り立った際には、そこに神秘を認め、アイドルと共に、現実を、我を忘れていくのだ。
「評価基準について」
音楽に踊るということは、音楽を演じるということだから、当然、楽曲に印された歌詞、秋元康の詩情への反応が、ひとつ、大きな課題になるはずだ。歌詞の一部分に自己を投影したり、音楽の世界を自分に引きつけることで、音楽を語ることがそれを演じるアイドルを語ることに繋げられるような、光景を叶えているアイドルを、なによりも高く評価する。もちろん「踊り」を、それが無ければアイドルの夜も日も明けないものだと固く信じている少女のことも見逃さない。一方で、少女の熱誠、踊りの才能が、しかし作品として姿を現していないのであれば、一顧だにせず、アイドルの多くの同業者、多くのファンの評判に逆らうことにする。
ダンスが上手い現役アイドル 10位
杉浦英恋

杉浦英恋、僕が見たかった青空の第1期生。
ステージの上で音楽に佇むことの心地よさ、ある種のカタルシスが、そのまま踊りに現れている。その点で、かなりクセの強いダンスを作るアイドルである。音楽に酔うと云うよりも、音楽に酔う自分に酔っている、頓狂な姿を描き出す場面が多い。とりわけ『涙を流そう』が顕著だろう。けれどそのクセの強い独特な動作が楽曲の世界観をグンと広げる瞬間もある。音楽に向ける発想に月並みではないものがある、ということだ。音楽の既存の歩調に彼女の感性・個性があわさると、楽曲にあらたな一面が現れる。
ダンスが上手い現役アイドル 9位
渡辺莉奈

渡辺莉奈、日向坂46の第4期生。
踊りのどの部分を切り取っても一幅の絵になる。霞のような美しさをもったアイドルだが、その霞の向こうにあるプライドの高さ、欲の深さを音楽に隠さない点がなによりも特筆的である。序列闘争への強い意識が美貌に寄与しているのはもちろん、欲は、音楽を言語的に解釈する姿勢を彼女にもたらしてもいる。作品の魅力を伝えることが自己の魅力をファンに教える結果につながるのだという強い自覚があるからこそ、言葉に先立って作品を解釈するのである。その姿勢は、直感的な動きを抑制し、音楽にいたずらに先行することのない動作を編み出している。『Love yourself!』『夕陽Dance』では、予備動作に違和感をつくらないダンスを完成している。成長するにつれて言語的に生きるようになる、思春期に立つ若者の特徴が踊りに引き出されている。
ダンスが上手い現役アイドル 8位
村山美羽

村山美羽、櫻坂46の第3期生。
ファン以上に同業者、特に作り手からの評価、信頼に厚い。運に任せない、音楽的センスのずば抜けた踊り子である。踊りに前途を託して、音楽に熱を掻きたてるその姿は本格派と呼ぶべきものだろう。新世代・次世代を想わせるような、新しいフォームを志向しているわけではないが、それだけに標準的なアイドルたちの直線上の遥か先に立っているかのごとき、風格を示している。踊ることがアイドルを演じることに緊密に結ばれている点、またそうした鋭意のあてどもなさを自覚することでダメになってしまう多くの少女と異なり、その屈託を踊ることのバネにしているかに見える点が、村山が同業者から高く信頼を寄せられる核心であるかもしれない。
ダンスが上手い現役アイドル 7位
伊藤百花

伊藤百花、AKB48の第19期生。
『ピンと来た』におけるパフォーマンスひとつ取っても、思わず後ずさりしてしまう都会の恥部とも言うべき劇場空間への印象を、現実から乖離した幻想の空間へと挿げ替える情操と欲動の横断したそのダンスは、ファンの感情を激しく昂ぶらせるものである。幼稚さと、エロチシズムの両立を叶えている。一度でも伊藤百花の美貌を眼前に眺めてしまえば、アイドルファンのだれでも劇場に足繁く通う羽目になるだろう。
ダンスが上手い現役アイドル 6位
川﨑桜

川﨑桜、乃木坂46の第5期生。
音楽のなかで観衆に媚びていくその姿は、抗いがたく心を誘うものである。たとえば「新参者 LIVE」で披露された『バンドエイド剥がすような別れ方』における川﨑桜は、音楽に心をそらすことのない、恋に甘く割れた仕草、しかしまたアイドルとしての気高さに崩れない踊りを完成しているが、そうした踊りの原動力としてアイドルの演技としての「媚び」が役立てられている点、媚びるという言葉の意味を自己の本心を捻じ曲げる行為だとする解釈へと落とし込まずに、自己の魅力を他者に伝えるための方法意識へと昇華している点が、並外れている。職業アイドル、ではなく、生まれながらの踊り子とでも言うべき輝き、意匠を放っている。
ダンスが上手い現役アイドル 5位
山下瞳月

山下瞳月、櫻坂46の第3期生。
日常的には、心を沈めた、生意気で、どこか他者に怯える、警戒心の強い少女――これはこれで興味を誘うところが多分にあるが――、音楽のなかでは、騒擾(そうじょう)に富んだ存在へと変身する。大人への反抗というモチーフを、青春に浮かび上がる混乱として踊り狂う。この人が凄いのは、平手友梨奈、森田ひかる、という確立されたアイドルの踊りのスタイル、音楽の作風を前にして、それでもなお両者とは異なる踊りのスタイルを打ち出し、新機軸の音楽を奏でる点である。音楽に囲まれた際に出現する自己を眺め、これは一体だれなのか、みずから心にささやく様子は、きわめてスリリングで、大衆の憶測の及ばない境地に達している。
ダンスが上手い現役アイドル 4位
八木仁愛

八木仁愛、僕が見たかった青空の第1期生。
ダンスナンバーにかぎらず、アイドルと踊りという関係性において、冠絶した存在感を有している。感情をラコントに仕上げることで音楽の世界観に輪郭を与える、意識の冴え渡った踊り子である。自分の個性、つまり踊りにたのんでグループを奮い立たせようとする姿、音楽にたのんで自分がアイドルを演じた痕跡を残そうとする意志は、勇敢で、無謀で、情動的である。踊りに関しては、もはや一分の隙きもないように感じるが、足りない点があるとすれば、それは目もくらむような称賛を浴びる経験に恵まれない点になるだろうか。自分の作品が大衆に強い影響を与えている、シーンを動かしているという予感だけに育まれるものを、この少女は未だ持たない。
ダンスが上手い現役アイドル 3位
正源司陽子

正源司陽子、日向坂46の第4期生。
『卒業写真だけが知ってる』を演じてからは、キュートに溢れたアイドルから、可憐な、甘美な横顔の覗くアイドルへと成長を遂げた。音楽の作風をとおして、その要素を踊りに取り込むことで自己をも成長させてしまうところに、アイドル的な才能、音楽的センスのどちらも見る。音楽に広げられた詩的世界のどこかに「自分」が潜んでいる、という自覚の強さにおいて、ほかのなによりも、ほかのだれよりも光彩を放っている。言葉を読む、また文章に今の自分の感情を込めようとする意欲が、音楽表現への力となって、たとえばアイドルが「アイドル」の奇蹟力を信じるという憧憬に結ばれているが、そうした憧憬がそのまま音楽作品の魅力へと返されている。
ダンスが上手い現役アイドル 2位
森田ひかる

森田ひかる、櫻坂46の第2期生。
軸足のしっかりとした王道のスタイルをしかし特異なものとして見せる手腕をもつ。作品を通じた評価としては、『Nobody’s fault』以来、志向しつづけてきたテーマが『UDAGAWA GENERATION』によって一気に決着した感がある。世間から指弾される若者の、思い込みの強い心が描き出す世界を音楽に、踊りに上手に閉じ込めている。大人への反抗に若者の本音、青春の居所を求める、音楽の作風の徹底が、アイドルのスタイルを決定的にする、踊ることに尽きないエネルギーを生み出すという一点においても、これからさきグループに加わる多くの少女がこの強い主人公の横顔から踊りのなんたるかを学ぶことだろう。
ダンスが上手い現役アイドル 1位
小坂菜緒

小坂菜緒、日向坂46の第2期生。
弱さをいだきつづける、弱さを克服しないことで瑞々しさを保ちつづける、けれど、幼いわけでもなく、昨日今日アイドルになったばかりの少女にはとても真似できない、アイドルの酸いも甘いも噛み分けた、生業としての未成さを、歌や踊りに最大限に表現している。『Love yourself!』を演じる小坂には『JOYFUL LOVE』当時の清風が流れている。神秘、と言うしかない。自己の肯定と否定にせめぎあいつづけているという意味でも『Love yourself!』を踊り歌えるのは小坂菜緒だけだろう。アイドルであり続ける人生に、ひとつの道を示している。
2025/05/11 楠木かなえ