グループアイドルソング ランキング 2024

特集

(C)君はハニーデュー ジャケット写真

グループアイドルソングランキング 50位~41位

50位 季節外れのアイスレモネード / NGT48
細部にこだわった設定が愛の不変さを約束する。その不変さが「アイドル」への扉を開放してもいる。若手にあたえられた楽曲だけあって明瞭なテーマを用意している。が、やや一本調子にも感じる。

49位 何歳の頃に戻りたいのか? / 櫻坂46
人生の往還を青春を起点にして歌う。昨日の自分、とりわけ秋元康にとっては詩作にあたる自分ということになるはずだが、その自己との対峙がそのまま櫻坂46のテーマに用いられるという意味で、多少なりともあたらしい切り口をつくっている。この切り口が今後どのように実を結ぶのか、注目に値するが、今作品に限って云えば、歌詞も、楽曲も、またアイドルの表現も、総じてボリューム不足という印象をまぬがれない。

48位 縁起担ぎ / 櫻坂46
「縁起」に関連した場面を思い浮かべた順に並べる。疲れ知らずの根気がある。

47位 僕にとっては / 僕が見たかった青空
恋人が働くカフェに客として訪れた「僕」の恋愛譚。絶対に自分からは行動を起こさない「僕」が、今作では一歩踏み出している。定立を破っているが、思いのほか、充実の度合いは低い。

46位 花は誰のもの? 合唱Ver.
島谷ひとみを客演に迎え、再収録された。

45位 初めて好きになった人 / 僕が見たかった青空
雲組楽曲。アイドルと初恋という馴染み深い構造のなかで、杉浦英恋の次世代エースとしての片鱗を示す。

44位 小豆島へ行こう / STU48
作詞家、アイドル、共にしっかりと仕事をしている。

43位 ピンと来た / AKB48
TVドラマ『星屑テレパス』の主題歌。先行のフィクション作品に対しそれっぽく連想しただけの詩情だが、不思議と聴き減りしない言葉・音楽を仕組めている。アイドルのパフォーマンスを眺めるに、伊藤百花に目が釘付けになるファンが多いのも頷ける。この、誰の目にも明らかな美少女が加入したことで、グループの水準が一気に押し上げられたように思う。グループの岐路を見事に吹き払っている。

42位 TOKYO SNOW / 櫻坂46
「東京」と「雪」という、今日ではもはやミスマッチになってしまった光景に情感を見いだすところなどは詩人としての力量を示すが、そうした情感が結局は「君」へと、つまり恋愛へと陳腐につなげられてしまう点は、やはり物足りなさが残る。

41位 ぶんぶくちゃがま / 乃木坂46
たぬきが茶釜に変身する童話を、少女がアイドルに変身する過程に引く。「アイドル」を現代風の童話=教養的な言葉の伝達手段として期待する作り手の野放図な意識の露呈が面白い。


グループアイドルソングランキング 40位~31位

40位 Keep in touch / 乃木坂46
時代錯誤の音楽と詩情のなかにアイドルがデオドラントに佇むという変わり種。独りよがったアイドルの個性としての歌声に歩調を合わせたのだとしたら、周到きわまりない。

39位 昇降口で会えたら / 僕が見たかった青空
表題作『スペアのない恋』の意図に沿って、恋の芽生えを歌う。ミュージックビデオもまた、少女の恋の内密な局部を鮮やかな緑園の下に落としている。

38位 愛のホログラム / SKE48
SKEという立場にもたらされるアイドルの資質、たとえば踊りにおける脚力の強さ、平凡なアイドルでは参入しえない整合性への希求など、懸隔の個性をわかりやすく盛り込んでいる。「アイドル」を日常に求めることの語り口を構えた歌詞、詩作においてSKE48を人生にかかわるなんらかの萌芽にしてその輪郭をなぞり広げていくことが、秋元康の大まかなスタイルへと昇華されたかに見える点もまた、作品を鑑賞に耐えるものにしている。

37位 カラコンウインク / AKB48
柏木由紀の卒業センター作品。アイドルの意味を「少女の生身を覆うヴェール」に定めつつ、本当の私を知って、と歌う。ベテラン・アイドルの卒業ソングにしては不釣り合いに瑞々しい映像と音楽だが、むしろそのギャップが功を奏しているように思う。アイドルとは、少女が夢や恋に変身したものであるということをポップに描きながら、「柏木由紀」という人物の”人となり”をとおして「アイドル」の本音を音楽の上に放り出せている。

36位 最強アイドルよろしく! / HKT48
歪みのない言葉を滑らし、逆境の希望を歌う。AKB48を立ち上げた当時の詩作スタイルに立ち返っている。

35位 何度 LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう / 櫻坂46
文章論ならぬ歌詞論を繰り広げる。作詞家の省察にアイドルがダンスという彩りを添える。村山美羽の踊りは、次の世代を担い、さらなる若手に試練を課すものだ。

34位 Sweaty Smell / STU48
映画『カーリングの神様』の主題歌。 題材どおり、スポーツに夢見る若者の背中を押す、応援歌。若者の先の見えない不安をアイドルと揮然一体となって打ち払おうとしている。楽曲の完成度と、センターに立つ少女の魅力が、表裏一体となっている。言葉の用い方に意固地になってしまった歌詞が惜しい。

33位 夜明けのスピード / 日向坂46
時間を持て余した、と言うか、やりたいことは確かにある、欲しいものはたしかにあるけれど、それに手が届かない、屈託した若者が、時間を持て余すように夜明けに向け車を走らせる。その楽曲のイメージに反し、アイドルの歌声は、たとえば小坂菜緒の声は、しめやかで、かつ、優しく頭を撫で、心を騒がせるものである。当たり前ではあるのだが、アイドルの歌声次第で楽曲の印象は良くも悪くも様変わりするということを教えている。

32位 友よ ここでサヨナラだ / 僕が見たかった青空
TVアニメ『FAIRY TAIL 100年クエスト』のエンディングテーマ曲。恋愛からテーマを離し、赤い糸ならぬ青い糸を巡らせた、青春の歌。その「青春」があくまでも、過去を振り返り映されたものであるという点は、これまでのグループのモチーフに一貫している。

31位 雨が降ったって / 日向坂46
楽曲、歌詞、ミュージックビデオ、振り付けから衣装の細部に至るまで、ひとつらなりされた構成・企画を実現している。アイドルに演技を求める際に、アイドル自身の日常を反故にしてはいけないと約束することで、日常演劇を成立させる。日向坂46・4期生のスタイルが完成した瞬間だと考えれば、再聴に値する作品と云えるだろう。


グループアイドルソングランキング 30位~21位

30位 妄想コスモス / 日向坂46
幼稚であり、また純粋であることの価値を残したまま別れを歌うアイドル、という光景を、東村芽依、丹生明里両名のイノセンスによって実現している。演技の事由をこえることで音楽の脈拍を抑えている。

29位 パパに言えない夜 / AKB48
17期生楽曲。若者の幼稚さに便乗した想像上の言葉が歌詞カードにズラッと並ぶ。アイドルのパフォーマンスもこれでもかと言うほどに幼稚である。グループの原点をぶれることなく守っている。

28位 月と僕と新しい自分 / STU48
アニメ『神統記(テオゴニア)』のエンディングテーマ。ファンタジー作品の世界観を壊さぬように細心の注意を払い、またそれに即したワードを随所にちりばめている。もちろん秋元康っぽさも見失っていない。こうした職業意識が、他の作品にも及べばと思わなくもない。

27位 あと7曲 / 乃木坂46
若者のつれない態度に仄見る素顔を、作詞家は野蛮に、アイドルはニル・アドミラリに、まだるっこしく、独白して歌う。『アトノマツリ』と比べると、アイドルの私情に弱く、その点で物足りない。

26位 真っ白に塗り直せ! / 僕が見たかった青空
白くあれ、ではなく、真っ白に塗り直せ、と云う。過去を乗り越えるという意味での、アイドルを演じることの条件を明示した詩情の上で、少女のそれぞれが髪を振り乱し、ステージに舞う。アイドルの魅力――特にセンターに立った少女の未知の個性――を探っている点はスリリングだが、音楽のタガがやや外れている。

25位 チートデイ / 乃木坂46
作品の構成それ自体は、シーンを牽引しているのだろう。だが準備されたタイトルにたいして、歌詞の錬磨が追いついていないようにうかがえる。たとえば『おひとりさま天国』のような、アイドルを音楽に持ち込むことで言葉の意味合いを変えてしまうといった言葉の価値の押し上げ、アイドルの価値の押し上げが、同様のテーマを持ちながら、今作では起きていない。見どころがあるとすれば、やはりミュージックビデオということになるのだろうか。パスティッシュに傾いて、過去のアイドル作品のみならず映画やテレビゲームの要素をふんだんに取り入れることで一個のアイドル・ドラマを仕上げてしまう点は流石としか云いようがない。ともすれば、無意識にかかわる部分で作家がアイドルと通底しているようだ。

24位 絶対的第六感 / 日向坂46
『シーラカンス』『君はハニーデュー』を書き上げた際のインスピレーションをそのまま作品化している。ミュージックビデオもまた、アイドルの精神的な動きを巧みにとらえている。映像を構成するにあたり、引用の陥穽にはまったことで、パロディに過ぎないとする評価に落ちてしまった点は悔やまれる。

23位 落とし物 / 乃木坂46
成長と引き換えに夢を喪失していくことを、ポレミックに歌い上げる。その点では、これでもかと言うほどにアンダーの立場を強いた作品である。”アンダーだけが見るもの”が、処女性のさきにあると断言するのは、痛烈かもしれない。2024年に制作された乃木坂の楽曲の中では、この曲におけるパフォーマンスが随一に思われる。特に奥田いろは、黒見明香のパフォーマンスが素晴らしい。自己劇化に挑めている。

22位 夕陽Dance / 日向坂46
4期生楽曲。渡辺莉奈がセンターに立った。音楽の中央に立ち、あらゆる称賛、歓声に抱きしめられたいと強く欲する少女の秘めた本性が、縦横に発散されている。欲望の強さがアイドルの美貌をより際立たせている。

21位 好きすぎてUp and down / 僕が見たかった青空
八木仁愛の才能・資質を活かしたダンスナンバー。「アイドル」の本質を理解した構成を示す。作品のクオリティに不満はないが、テーマの運び方が小刻みにすぎるようにも思える。前作品から半歩も前に進んでいない。


グループアイドルソングランキング 20位~11位

20位 こんな時代に… / HKT48
表題作の『僕はやっと君を心配できる』にしてもそうだが、まわりくどい詩よりも、詩情を捨てた直截なメッセージこそ励ましになる、活力を伝えるのだという姿勢に一貫している。あるいは、それは、まわりくどい詩をもってアイドルと接することの困難、息苦しさの現れなのかもしれないが。若者を励まそうとする際に用いる視点が職業としてアイドルを演じることになった少女たちの日常の屈託であるという点もまた、一貫しているように思う。アイドルを語ることが社会ひいては若者への代弁になると考える作詞家のその姿は、アイドル=若者を信じるというフェーズにおいて高い説得力を出しているようにも思われる。その意味では今作品は、たとえば櫻坂46の主要楽曲を包括するようなスタイルをとった作品と云えるかもしれない。偶然か、必然か、わからないが、センターを担う少女から、それに見合う可能性、器の大きさを感じ取った、ということなのだろうか。

19位 夢見てごめん / AKB48
劇場におけるパフォーマンスは、これぞAKBといった雰囲気を濃く出している。踏み込んではいけない場所に踏み込んでしまったと、思わず後ずさりするような、都会の恥部とも言うべき光景を広げている。多くの欠点を抱えた少女たちが、使い尽くされた音楽と振り付けのなかで、夢の生彩さ一点を滲ませる。太田有紀、小濱心音、伊藤百花、花田藍衣などが特に明るい兆しを見せている。

18位 一瞬の花火 / NGT48
「花火」の残影に見いだされた音楽は、陳腐であるがゆえに、瑞々しく、また成熟した、痛切なものである。これぞNGT48とも言うべき貫禄十分の作風を構えている。主力メンバーが抜けた直後だが、作品のクオリティを落とすことなく、音楽を一定の水準に保っている点はさすがとしか言い様がない。

17位 「じゃあね」が切ない / 乃木坂46
『絶望の一秒前』や『心にもないこと』の衣鉢を継いでいる。アイドルとノスタルジーを併置することで生じる”ひずみ”からアイドルのまだ見ぬ一面・魅力を目撃することを可能としている。それだけに、ミュージックビデオは、蛇足でしかない。言葉と音楽だけを頼りにして作られた個々のイメージをくつがえすことは、なまなかなことではないということがよくわかる。

16位 スペアのない恋 / 僕が見たかった青空
オーソドックスな恋愛ソング。変わりの見つからない人との邂逅を、デビューしたばかりのアイドルとの出会いに引用する。設定に目新しさはないが、「スペアのない恋」への確信を深めるものが、自分の過去を振り返る行為であるという点は、まさしく秋元康といった風格を見せている。

15位 サルビアの花を覚えているかい? / 乃木坂46
結婚という、かつての恋との決定的な別れを告げるシチュエーションを駆使して、後悔、葛藤、つよがり、無力感を、前に向き直るための、清々しい勇気へとかえていく。「サルビアの花」を心の通い路にして青春を書き伸ばしていくその筆致は、軽妙で、濃やか。詩が自己を飛翔させることの、会心の手応えを伝えている。

14位 涙を流そう / 僕が見たかった青空
作り手のそれぞれが、優しく、また強く、アイドルの頬を打ち、覚醒を促している。自分の歌や踊り、つまり自分の感情が作品になっていくことの感動が、じかに音楽に閉じ込められている。

13位 自業自得 / 櫻坂46
過去を断ち切ろうとする悶え、のたうちを記した歌詞はもとより、楽曲、振り付け、衣装、ミュージックビデオなど、作品を構成するもののすべてが、新しい血筋に立った主人公を祝福している。その蛮勇をふるったダンスは、少女自身の日常から遠く離れた、自分ではないもうひとりの自分をたしかにつくり上げている。音楽の広大な世界観に埋もれることなく、強い瞳をこちらに向けている。

12位 チャンスは平等 / 乃木坂46
ひとりのアイドルの集大成のなかで音楽的なチャレンジをすることが「アイドル」への表現につなげられたという意味では、たとえば『最後のTight Hug』に比肩する意志をもった楽曲だと云えるだろう。こうしたチャレンジ精神は、シーンの主流であるという自覚によってのみ育まれるのだろうし、その「精神」そのものが乃木坂らしさを象っていることは、あらためて説明するまでもない。とりわけ、出会いや別れを詠み上げた歌だけを卒業ソングとみなす紋切り型の大衆趣向をむこうにまわして、将来的な評価、アイドル観の回帰という希望においてアイドルが音楽の化身となって遠い未来における再会を約束している点は、成熟した評価に一致すべきである。

11位 君のための歌 / 僕が見たかった青空
俗に言うアンダー楽曲。ノスタルジーを音楽の芯にした、昭和歌謡に佇んだ『卒業まで』をアイドルが歌うことの価値を、たとえばガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』のような遠い距離感、時代を越えた手紙というシチュエーションの強さで証明している。『卒業まで』の世界観を、やがて来るべきものとして捉え、それを歓迎するように、歌い、少女たちのそれぞれが楽しげに踊っている。自分の不確かな未来に向ける不安を「アイドル」を支えにして希望へとかえる秋田莉杏の笑顔が特筆的である。


グループアイドルソングランキング 10位~1位

10位 車道側 / 乃木坂46
「青春」を想うことで自分の成長を支えていた瞬間がどこにあったのかを知るという、ノスタルジーの価値を出しきったその作詞家の詩情、言わば青春という、若者にとってのピークに、それを演じる少女たちのアイドルとしてのピークが水増しされることなく上手に重ねられている。アイドル=若者の精神的な孤独感をかけがえのない個性に仕上げた映像作家の手腕もまた、右に出る者がない。アイドルへの深い理解、ファン感情への並ならぬ追求が実を結んでいる。林瑠奈と中西アルノを並べて映すのはズルイ。

9位 君はハニーデュー / 日向坂46
日常のとなりに潜む神秘の出来事、とりわけ人との出会いそれ自体に神秘を見いだす書き出しは、正源司陽子の出世作である『シーラカンス』を下敷きにしている。若くてブリリアントなアイドルをつい目で追ってしまうファンの心の琴線を、強く弾いている。その音楽に一度打たれてしまえば、肩を揺らし息切れしながら踊る姿すらも、もはや愛おしいものになる。そうした意味では、音楽的なラコントの誕生を叶えた幸福な作品だと言えるだろう。

8位 I want tomorrow to come / 櫻坂46
刻々と迫る「死」を考えることで、そこにアイドルが立ち現れる、やがてアイドルがふところに手繰り寄せられるという意味で、作詞家・秋元康とアイドルの距離感をもっとも克明に印した楽曲である。アイドルを青春のゆりかごにして人生に測鉛をおろす、アイドルの可能性を考えるという一点においても、破格の価値を誇る。

7位 卒業まで / 僕が見たかった青空
昭和的レトロの引用を駆使することで、初恋というノスタルジーの内にアイドルの居所を求めた。作詞家とアイドルが仮想的な関係を結んだ佳品と呼ぶべきだろう。デビュー2作品目にあたる表題作だが、テーマにしても、またそれを演じるアイドルのパフォーマンスにしても、その練度は近年のアイドル作品のなかで一頭を抜くものである。歌謡曲を、カラオケなどではなく、本職のアイドルが本業として歌い踊り、その芯を音楽に沈めることでアイドルの可能性を広げている点がなによりも斬新的である。終盤に準備されたカタルシスは、音楽を消耗品として捉えることを余儀なくされたアイドルファンたちの、音楽を鑑賞することのスタミナを鍛えるはずだ。

6位 君と僕のポールスター / AKB48
青春の回想としての散文の強い調子を、音楽の中でリリシズムへと移り変えてしまう秋元康の個性を存分に味わえる楽曲となっている。秋元康の個性をそこに認めるということは、アイドルが音楽に活き活きとしているという意味でもある。虚空を掴むように、夜空に遠望し目を細める少女たちの鼓動は、転じて希望の力強さを裏付ける。センターの八木愛月の高揚感はもとより、花田藍衣のチャーミングな笑顔、可憐なダンスもまたファンのこころを激しく揺さぶるものだ。この少女たちは、いずれは世代を一方から牽引するメンバーへと成長するのではないか。AKB単体でみれば、ひさしぶりの当作ということになるだろうか。

5位 微かな希望 / 僕が見たかった青空
「アイドル」に拉がれる少女たちの思料を、音楽の内に、希望という言葉の意味に鮮やかに加えている。終盤に描き出される早﨑すずきの微笑は、「アイドルと笑顔」という尽きない話題に決着をつけている。音楽を演じる時間のなかで笑顔の意味をいちからつくり出し、その魅力の在り処を教える、奇蹟的な瞬間である。

4位 暗闇の哲学者 / 僕が見たかった青空
詩を考える際に得た発想がじかにアイドルを語ることにつなげられるという、音楽的エピファニーの濃く現れた作品である。その作詞家としてのスタイル、立場がもたらすのは、若者に向けた、何ものをも保証しない期待感に裏返された純粋さであり、その期待感が夢見る少女たちの秘めた勇気へと姿を変え、音楽に表されている。秋元康の言葉の上で、スポットライトの下で、右に左に動き廻る少女たちの踊りは、たしかな活劇を生んでいる。

3位 青春ジャンプ / NMB48
アイドルと共に闘おうとするファンの気持をソリッドに引き立てる、正統的なアイドルソング。青春を踏み切り板にして、静かな怒り、欲動の強さに乗り上げ真っ直ぐに飛翔して行くアイドルの姿がファンの士気を高める。

2位 夏のDestination / NMB48
青春の日常を写実した、現実のかなたに向かった随想をアイドルの甘美な歌声に奏でる。音楽に身を任せた、自在に発展していく叙述が心地よい言葉のリズムを編んでいる。『想像のピストル』『青春ジャンプ』とあわせ、かくも明確なスタイルと高い水準を兼ね備えた作品が打ち出されたことで、ファンはそのアイドルの生きた抑揚をとおしてグループの凝集されたモチーフに立ち会うことだろう。

1位 あの日 僕たちは泣いていた / 僕が見たかった青空
涙が思い出になる、成長の瞬間になるということを、アイドルを青春にかえて物語る少女たちの詩的な横顔をとおして語った、飛びきりのビルドゥングスロマン。やがて思い出すことさえも難しくなるであろう青春時代の心の傷みを、詩情に教わり、喚起され、映像に記憶することで、音楽の隅々まで情動をにじませている。



2024/12/20 楠木かなえ