グループアイドルソング ランキング 2024
「2024年アイドル楽曲ランキング」
なぜだか他人に思えないのさ
秋元康 / 君はハニーデュー
あるアイドルを前にして、そのアイドルを推すと表現するとき、その「推す」とはどのような意味を持つのか。すくなくとも私にとって、アイドルを推すという言葉の意味は、そのアイドルの才能を信じる、その夢に乗るという姿勢の表示、ということになる。では、その「才能を信じる」という部分はどこから得るのか。
アイドルの才能を見出そうと企むのならば、ステージを眺めればいい。アイドルの才能がもっとも試される場所、アイドルが最も華やかに美しくその姿をあらわす場面が、歌や踊り、つまりライブステージの上であることは、疑う余地がない。カメラの前や、舞台・演劇のなかでならば、天才を仮装することは、あるいは可能かもしれない。しかし音楽においては、その才能を誤魔化すことなど、誰にもできないからだ。
ではアイドルの歌うどのような音楽に、どのような瞬間に自分は引かれているのだろうか。アイドルが青春のエキスパートである以上、当然、アイドルソングの魅力もまた「青春」ということになるだろう。青春の真っ只中に立ち、青春と引き換えにアイドルを演じる、あるいはアイドルを青春そのものにする少女たちの歌や踊りが自己と有機的な結びつきを得るのだとすれば、やはりそれはノスタルジーということになるのだろうし、ノスタルジーの出現がそのままそれを演奏するアイドルへの評価になり、不純にも、音楽への評価になる。
ノスタルジーと言っても、もちろん、それは大人になってしまった人間だけが味わう特権ではない。とりわけ秋元康の詩の特徴は、自己の青春を何度もなぞることで、若者の身にこれからさき起こるであろうことを、ノートに詠み上げ抱擁する点にある。若い時には、それを観て聴いて、意味なんてわかった気にもなれず、振り返りもせず、ただ通り過ぎていくだけのものだったけれど、大人になって、不意に、それが自分を支えている、自分をつくるものの中で重要な位置を占めていることに気づくような、不思議な力が音楽にはあるのだということを、秋元康は詩作をとおして、次に「アイドル」をとおして、体現し、作品化している。
秋元康が並ではないのは、自己の青春を回想し、ノスタルジーの魅力を打ち出しながらも、しかし音楽の魅力、またアイドルの魅力が、ノスタルジーつまり過去に囚われてしまうことに警鐘を鳴らす点にある。たとえば乃木坂46の『他人のそら似』が象徴的だが、郷愁に浸るのは心地の良いことだけれど、それだけでは人は成長しないのだということを、「他人のそら似」という過去との偶会において、その過去を未来に踏み出すための一歩、あらたな奇蹟の出会いとして描き出し、強く希望を印している。その「希望」が具体的にどのようなかたちをもって次なる楽曲にあらわされているのか、今回もまた、長い道のりになるはずだが、探すことにする。
グループアイドルソングランキング 119位~101位
119位 恋の哲学者 / SKE48
歌詞にしてもアイドルのパフォーマンスにしても、音楽にくびられたところがなく、作品の体をなしていない。
118位 ライオンを狙え! / AKB48
思考の水準を極限まで引き下げることで、アイドルの誠実な部分に身を潜めようとしている。
117位 言えなくてタコス / SKE48
楽曲を演じるアイドルのコンディションに、かなりバラツキがある。制作に臨むにあたっての意志に欠ける。作品云々以前の問題である。
116位 今さらSuddenly / 櫻坂46
韻への軽視が目立つ。
115位 これが愛なのか? / NMB48
「愛」の陰影を剥ぐその度胸には、おもわず絶句する。
114位 世界一のダイヤモンド / 乃木坂46
アイドルを演じる少女をダイヤモンドの原石に喩え奮起させようとする試みが、むしろアイドルの稚拙である一面だけを記しづける結果に終わっている。歌を唄うという水準に到底達していない。
113位 嵐の前、世界の終わり / 櫻坂46
ファンタジーをテーマに扱った類書からのアイデアの吸収に止まっている。
112位 Cherry17 / SKE48
どこかで聴いたような音楽、どこかで観たような映像が延々と垂れ流される。チェリーやドーナツといった小道具もなんら効果をあげていない。
111位 恋は向いてない / 櫻坂46
歌詞、楽曲、アイドルのパフォーマンス、いずれも作為的でもなければ、不作為に驚かされもしない。取り立てて語るところがない。
110位 僕は僕を好きになれない / 櫻坂46
櫻坂46における詩作の構えを明示している。しかしこのタイトルは……。止める人間はいなかったのだろうか。
109位 愛が終わってもSelfish / NMB48
「真っ赤なドレス」や「心の果てしない大地」といった仰々しい薄味の言葉が羅列されている。いずれも詩に望まれる基本的な体裁を守れていない。
108位 君にDitto / 乃木坂46
タイトルどおり。それ以下でもそれ以上でもない。
107位 懐かない仔猫 / 乃木坂46
これもタイトルどおり。
106位 僕に続け / 日向坂46
グループのメモリーを、齊藤京子を起点にして追いかける。自分の歌声を個性だと信じきった、モノマネ歌手のような押し付けがましい、節度を欠いた表現が全編にわたって提示される。
105位 がんばらぬわい / NMB48
工夫が足りない。「大阪」のイメージを執拗に打ち出す姿勢に明らかなように、作品を構想する努力が放棄されている。「大阪」を表現したいのならば、NMBの現在を揺すり続けるべきではないか。
104位 岸辺の誰か / SKE48
今作にかかわる一連のタイトルを並べ眺めてみても、反映に乏しく、散文に空回りしているようにしか見えない。
103位 青春テトラポット / NMB48
『アイドル失格』の主題歌。メンバーである安部若菜が作詞を担当した。しかし販促の域を出ない。
102位 めっちゃラブユー / NMB48
関西人の情感を歌うが、恥じらい、紅潮を隠せていない。
101位 乃木坂饅頭 / 乃木坂46
アイドルに接するうえで生じる幼児退行を食い止めることができていない。
グループアイドルソングランキング 100位~91位
100位 相対性理論に異議を唱える / 乃木坂46
批評家気取りのアイドルヲタクが絶賛しそうな作品。
99位 泣かせて Hold me tight! / 櫻坂46
アイドルの踊りを筆記にして平板な音楽に落差をつけようと奔走しているが、失敗している。
98位 恋とあんバター / 日向坂46
「あんバター」で一曲書き切ったと、肩の荷を下ろす作詞家の横顔が目に浮かぶ。
97位 もう一曲 欲しいのかい? / 櫻坂46
ファンのこころの火を灯しつづけるために、アイドルの標準的な美しさを捨てるという代償を払った割には、その場しのぎの感興しか引き起こせていない。タイトルの局面に掘り出されるものがない。
96位 Beautiful / SKE48
研究生楽曲だけあって、未熟な箇所を多く示している。このさき、この無軌道な少女たちが正規メンバーと同等の水準へと鍛えられ、成長することができるのだろうか、期待と不安の両点を掲げているが、不安の方がやや大きい。
95位 熱狂の捌け口 / 乃木坂46
全体的に、アイドルの表情が硬直していて、つまらない。
94位 それまでの猶予 / 乃木坂46
アンダー楽曲。分相応の作品の表示におわっている。
93位 雪は降る 心の世界に / 日向坂46
雪のもろさを、恋愛の心象風景へと成算する。音楽を継ぎ接ぎすることで感情を透かしている。
92位 イザベルについて / 櫻坂46
散文への憧憬が先走っている。
91位 19歳のガレット / 櫻坂46
これも散文に焦がれている。ガレットへの偏執は不気味であるが、詩の消化には届かない。
グループアイドルソングランキング 90位~81位
90位 永遠のソフィア / 日向坂46
タイトルからして頓挫しているが、辛うじて、小坂菜緒の衝迫に助けられている。
89位 油を注せ! / 櫻坂46
自転車の錆を恋愛に結びつけた、ただそれだけの歌。最低限、発想を二転三転させるくらいの努力が欲しい。
88位 錆つかない剣を持て! / 日向坂46
アイドルがアクションを楽しんでいるだけ。
87位 僕はやっと君を心配できる / HKT48
詩情をかなぐり捨てて、共に苦難に立ち向かおうと、心強いエールを送るが、アイドルとの結託には程遠く、タイトルも取ってつけた感を否めない。音楽の構成に冗長なセクションが多く、アイドルのパフォーマンスの低さがそれに拍車をかけている。
86位 最後の最後まで / AKB48
柏木由紀のソロ。アイドルにやつされた人物の門出を歌う。「卒業」を嫁期として表現するのではなく、家族から離別していく姿に表している点や、アイドル本人がポエットになりきっている点などは、他の卒業ソングとは趣きの異なった、アイドルの底に流れた境地を出していると云えるかもしれない。
85位 Lonely subway / HKT48
『僕はやっと君を心配できる』とスタイルを同一にしている。表題作と比べれば、詩情をいくぶんか戻している。
84位 すれ違う瞬間 / AKB48
アイドルに課題を与えることを目的にしているためか、タイトルの機微をさらうまでには至っていない。
83位 恋 詰んじゃった / AKB48
気まぐれの引用や韻によって作品を発想していく秋元康のフットワークの軽さが、そのままタイトルに還元されている。新しくセンターに抜擢された少女の内に目を奪われる魅力を見いだせない点、つまり作り手の眼力の弱さ、将来的なビジョンの乏しさもまた、言葉の軽さという意味で、タイトルに従っている。
82位 マイフレンズ / 僕が見たかった青空
アニメ映画『がんばっていきまっしょい』の挿入歌。『友よ ここでサヨナラだ』を拡張・引用したテーマであるだけに、柔軟性がなく、先行作品とは別の刺戟をもたらすだけの幅はもっていない。
81位 おとめのアイス / NMB48
『アイドル失格』の劇中歌。作詞は安部若菜。『青春テトラポット』と比べれば、音楽に私情をあずけている。
グループアイドルソングランキング 80位~71位
80位 告白心拍数 / SKE48
ダンスに演劇的なギミックを取り入れた結果、本来の持ち味がおおきく損なわれてしまった。拙い歌唱力も目に余る。歌をうたうことの生動が前表題作からまったく変化していないため、作品がダブってすら見える。総じて、グループの欠点を浮き彫りにした作品だと看做すべきだろう。
79位 ヘドバンタイム / NMB48
このタイトルにしては、やや間延びしている。音楽に矛盾がなく、”当て”が外れている。
78位 涙が枯れるまでそばにいる / NGT48
絶対に自分から行動をしない「僕」を描き続けてきた秋元康の手による、その新編とでも云うべきか。今作では、眼の前で泣いている恋人を、ただ眺め、その涙が枯れるのをジッと待ちつづける。その長丁場の光景において、「僕」は、壁にもたれかかり、あれこれと人生の教訓――やがて後悔の実となる――を得ていく。そのシチュエーションにしては、居心地の悪さを真に感じていない点が特徴的である。
77位 歩道橋 / 乃木坂46
新メンバー加入オーディションを念頭に置いた期待感を楽曲制作における条件・テーマにすげ替えて、作り手・演者のそれぞれが、ただただ、やに下がっているだけにしか見えない。「アイドル」と「作品」という関係の網目に独り立たされ、うなだれた作曲家の姿が物悲しい。
76位 真夏に何か起きるのかしら / 櫻坂46
夏の到来を告げる気配に恋愛の始まりを予感する若者の興奮と、その期待の空振りをじかに歌う。
75位 さらば純情 / NMB48
当たり障りのないアイドルソング。
74位 引きこもる時間はない / 櫻坂46
こうやって「引きこもり」を主題に置くならば、心の壁の突破という内面に焦点を絞りぼかすのではなく、詩情のたしなみなく「ニート」の克服を語るくらいの度胸が欲しかった。
73位 愛し合いなさい / 櫻坂46
悄然とした若者の背中を押すが、言葉の糖衣が溶けていなく、臆面もなく説教臭い。
72位 どこまでが道なんだ? / 日向坂46
アイドルのパラゴンに立った楽曲。詩を書くことの意義が勝ちすぎているせいか、場景は乏しい。
71位 どっちが先に言う? / 日向坂46
加藤史帆のソロ。独唱の過程で個性を明らかにしていく。
グループアイドルソングランキング 70位~61位
70位 星が消えないうちに / AKB48
音楽の世界観に逆らった、闘争心を隠さない少女たちの笑顔が乱舞する。若手で構成された楽曲ならではの魅力を打ち出しているが、それだけにメンバーガイド的な側面を一歩も抜け出ない。
69位 君を覚えてない / 日向坂46
自分の青春を止めた、想いを告げることができなかった恋こそ、本物の愛なのだということを、かつて恋をした女性との再会=青春の再開というロマンチックなシチュエーションのなかで歌う。誰の身にも迫るであろう要素を多分に持つが、楽曲の与えるイメージと、アイドルのコケットがあまり噛み合っておらず、詩の上演を適えない。
68位 どうでもよくない / SKE48
闘争の一面を捨てて、アイドルのそれぞれがメルシーへと姿を変えている。
67位 純情川 / SKE48
ファン投票によって歌唱メンバーを決めた。ファンの眼力を問うという意味でも面白い楽曲ではあるが、肝心の楽曲は不出来で、ファンの視線を再燃させるような事態、展開には直面しない。
66位 Now / NMB48
広言を歌うも、肝心のアイドルが音楽と有機的な関係を築けていない。
65位 あの光 / 乃木坂46
アニメ「ATRI -My Dear Moments-」のオープニングテーマ。光の漂流に夜明けや希望の妥協点を探している。
64位 夕陽はどこへ行く? / NMB48
上西怜のソロ。肩の力は抜けているが、それだけに表現がワンパターンである。
63位 夕陽は何色か? / 乃木坂46
いくつかの過去作品を反復した楽曲だけに随所に工夫を凝らしているが、いかんせんアイドルの表現がそれに追いついていない。個々に音楽を組み立てようとする意識に欠如している。
62位 心の影絵 / 櫻坂46
心の白状を、行動の前にあるものだと開き直ることで、言文を一致させている。その意味では、たとえばトマス・グレイのような昂進を握っている。
61位 標識 / 櫻坂46
楽曲そのものは酷く淡泊で、退屈だが、アイドルの表現はすこぶる健気。
グループアイドルソングランキング 60位~51位
60位 空色の水しぶき / 僕が見たかった青空
アニメ映画『がんばっていきまっしょい』の主題歌。ディティールの意識された力作であるのは間違いないが、――ミュージックビデオもしっかり撮っている――それだけに解放感に誘導的で、抜けきらない。
59位 炭酸のせいじゃない / 僕が見たかった青空
日常の瞬間を捕らえたタイトルには引かれるものがあるが、安易な語り出しに落胆させられる。
58位 夏桜 / 乃木坂46
山下美月のソロ。ファンに向け、笑顔一式のメモリーを投げる。
57位 雪が降る日にまた会おう / 乃木坂46
「歌」は自己の思い込みを正すための道具なのだと、啓発的に唄うアイドルたちのその抑揚は、乃木坂らしい出で立ちではある。
56位 マチビト / AKB48
18期生楽曲。見通しの良い少女たちが、アナクロの小洒落た歌に踊る。スタイリッシュで、統一感がある。個性も感じる。けれど、玉石の混淆した17期と比べると、希求に乏しい。シーンのトレンドに屈している。
55位 本質的なこと / 櫻坂46
かつて恋をした女性から夜更けに突然連絡が来たことで、淡い期待を抱き、あれこれと想像をふくらませ、過去の出来事を鮮明にしていく。現実的には起こりそうにもない、しかし誰でも一度は経験したことがあるのではないか、夢と現のさかいに立った情況をもって若者の恋愛における機微を音楽に詰め込む。とくに、一度恋をしたという理由だけで相手のことをすべて理解した気になっている様子などが瑞々しい。
54位 もう一度 手を繋ぎたい / NGT48
ポエットに徹底している点は好印象。反面、独創性に乏しい。詩の現実化から距離を置きすぎたせいか。
53位 愛の重さ / STU48
アルバム『懐かしい明日』のリード曲。イントロダクションへの評価に気を取られることで中身が薄っぺらくなるという意味では、乃木坂46と並走していると云えるかもしれない。
52位 岸辺の少女よ / SKE48
穢れのない存在=アイドルとの対峙を経て、言い訳のできない、自己の本音を発見していく。抒情的になることで、単に言葉を濁しているだけにも見えるが。ミュージックビデオは、設定に溺れてしまっている。
51位 思いやり / AKB48
比較的ベテランのアイドルで構成された楽曲だけあって、こころを乱されることなく、高い安心感のもと音楽に触れられる。歌詞もまた、アイドルに身をやつした、かつての少女たちに向けた抱擁を託している。