グループアイドルソング ランキング 2023

特集

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グループアイドルソングランキング 50位~41位

50位 無念 / 櫻坂46
順位闘争に敗れ屈託したアイドルの背中を押すという行為が、上手に「活力」を拾い上げている。

49位 君は逆立ちできるか? / 日向坂46
安定したアイドルの実力を下敷きにして、無軌道な悪ふざけを歌っている。

48位 バケツを被れ! / HKT48
新旧交替期の作品だけあって、若手の瑞々しさのなかに名残惜しさを入れ混ぜる。映像作品だけでなくステージの上でもバケツを片手に抱え、果ては頭に被って踊る少女たちを前に、唖然とさせられるが、世界観はしっかりと引き絞れている。とくに竹本くるみのコケットな仕草が素晴らしい。

47位 君がサヨナラ言えたって・・・ / 櫻坂46
小林由依という人のイメージを意識した詩的言語を連ねている。楽曲は、卒業作品の基本を押さえている。けれど詩に表現された思い込みの強さがアイドルとミスマッチしているようにも感じる。

46位 Am I ready? / 日向坂46
これまでの表題作から作風を大きく変えた。しかしその「変化」が他ジャンルへの模倣でしかなかったことでファンを落胆させた。けれどそうした大衆のため息に誤魔化されずに作品をじかに眺め味解すれば、他の表題作と比べアイドルが生き生きと美しく撮されていることに気づく。

45位 好きになりなさい / 僕が見たかった青空
アニメーション映画のワンシーンのような光景に立って、勇気をふり絞り、ファンに直截に愛を求めている。

44位 魂のLiar / 櫻坂46
路上でギターを片手に歌をうたうシンガーの魂をアイドルに弾かせる。路上とアイドルの対比がおもしろい。「魂」という大筋から逸れる反動も欲しかった。

43位 隙間風よ / 櫻坂46
小林由依の語りの魅力を引き出した音楽には、ほかのアイドルには真似できないリズムがある。映像作品は、後ずさりしたくなるほどに独りよがりな世界を広げている。ファンのそれぞれが、個々に解釈していくことを極度に恐れているような、思わせぶりな仕掛けに音楽がくびられる。そうした、ほとんど意味をもたない仕掛けの数々をユーモアとして捉えることができれば、存外、楽しめるかもしれない。

42位 Cool / 櫻坂46
蛹(さなぎ)あるいは繭(まゆ)とアイドルを結びつけて「成長」を促す映像が編まれた。アイデアそのものはありきたりで新鮮味の欠片もないが、構成力には優れている。けれど仮想と現実のバランスが取れておらず、現実味に薄く、アイドルたちがコスプレを楽しんでいるようにしか見えない。

41位 渚サイコー! / NMB48
渋谷凪咲の卒業センター作品。西の雄の有終の美ということで、NMB48にしかできないこと、をしっかりとやっている。けれど、卒業作品においてもグループのイロを少しも抜け切らない、という点には、やや不満が残る。センターで踊るアイドルがほかの誰よりも美しく華やかに映されている点は、貫禄十分で、さすがとしか言いようがない。


グループアイドルソングランキング 40位~31位

40位 サヨナラじゃない / AKB48
チーム8の失敗・解散にたいして、サヨナラじゃない、と誓った。タイトルにならい、教科書どおりのアイドルポップスに仕上げている。渡辺麻友の卒業ソングをこうした局面で再利用してしまって、大丈夫なのだろうか。

39位 人生は長いんだ / NMB48
売れっ子になったアイドルと、そのアイドルと成長を共にしつつ自らも成功をつかんだお笑い芸人との、共演作。表題曲同様に、こちらも、渋谷凪咲にしかできないこと、をやっている。『てんとうむChu!』結成時、各グループのホープが勢揃いした中で、バイプレーヤーにしか見えなかったひとりの少女が、結果的に、ほかの誰よりも大成したそのサクセスストーリーの豊穣さを前に感傷に浸ることができるかどうかが、今作に破格の値打ちを見出だせるかどうかの岐路になるのだろう。

38位 どうしても君が好きだ / AKB48
楽曲は、黄金期の作品と比べても遜色ない。青春が後悔に染まっていくその瞬間を、幼稚さを埋めずに印す。AKBらしさにあふれている。けれど楽曲を歌い演じる肝心のアイドルに引かれるものがない。とくにセンターに何一つ魅力を感じない点は致命的だろう。ビジュアル、歌、ダンス、演技、すべてが水準に達しない。

37位 夏の近道 / 櫻坂46
3期生楽曲。デビューしたばかりのアイドルの鮮度を描こうとする気勢が強すぎるのか、「桜」のイメージから壊走しているように見える。安易に「桜」を用いるところが発意に乏しい。

36位 生きがい / HKT48
「夢」のために日常の幸福に別れを告げて彷徨するという前時代的なロマンを「生きがい」と表現し、アイドルの扉をひらいたばかりの6期生に歌わせた。モチーフそのものは、乃木坂46の『ありがちな恋愛』と変わらない。けれど『ありがちな恋愛』を新人アイドルに重ね合わせ音楽を作った点においては、同作品よりも儚さに上回り、かなり感傷的で、希求される点が多い。

35位 最初の白夜 / 日向坂46
「アイドル」にしがみつく人間の意地を、雪が融けるのを待つように、辛抱強く諭そうとする、優しい歌。

34位 骨組みだらけの夏休み / 日向坂46
高瀬愛奈がセンターに立つ。1期の面々が見るも無残な不調にあるなかで、かろうじて面目躍如している。

33位 ロッククライミング / 日向坂46
ロッククライマーの孤独に成長へのヒントがあるのだと、アイドルに向け啓蒙している。他の多くの応援ソングと外面は変わらないが、小道具にロッククライミングを用いたことで、同じ応援ソングであっても、そこにある種の才能の淘汰といった厳しさがあることを示せている。

32位 青春ポップコーン / 日向坂46
『パクチー ピーマン グリーンピース』『Am I ready?』など、モチーフに一貫してきたことが実を結んでいる。負担をかけない、ポップの軽さが楽しい。

31位 君は何を後悔するのか? / STU48
瀧野由美子の卒業センター作品。音楽に目新しいところは一切ないけれど、同グループのこれまでの作品と比べれば、アイドルの演技が格段に良くなっている。良くなっているけれど、センターを演じる瀧野由美子に限って云えば、コンディションがかなり悪く、また、今作品が彼女の最後の作品だという点に鑑みれば、そのセンターの横顔がタイトルをある程度回収していると云えるかもしれない。


グループアイドルソングランキング 30位~21位

30位 あの夏の防波堤 / AKB48
現研究生による楽曲。アイドルという職業が青春のエキスパートであることを裏付けるような音楽、タームに満ち満ちている。

29位 自然淘汰主義 / STU48
表現はかなり幼稚だが、メッセージはそれなりに核心を回り撃っている。

28位 もしかしたら真実 / 櫻坂46
季節がもたらす予感を、小気味良いリズムに合わせ真摯に確信へと変えていく。その真摯さが、聞き手に負担をかけないから不思議だ。予感として現れるものが「恋」でしかない点に、やや不満が残る。

27位 One choice / 日向坂46
丹生明里と夢をかけ合わせるアイデアはおもしろいと思った。と同時に、グループの過去の作品のイメージに引きずられているようにも感じた。

26位 見たことない魔物 / 日向坂46
溌剌した少女の群像を堪能することができる。藤嶌果歩をセンターに選んだことの効力が発揮されている。

25位 君は0から1になれ / 日向坂46
アルバム『脈打つ感情』のリード曲。音も映像もアントロギアな意匠に闊歩する。佐々木久美をセンターに起用したことで良くも悪くも話題になった。

24位 花は誰のもの? – From THE FIRST TAKE / STU48
過去の名曲を、そのセンターのソロで聴けるだけでも、ファンにとっては嬉しい試み。

23位 雨とか涙とか / STU48
鋭く前向きに進行して行く言葉とメロディは魅力的。「空」に引き出される事由にこだわりすぎて情緒に欠けてしまったところが惜しい。

22位 人は夢を二度見る / 乃木坂46
「夢」を輻湊する作詞家の言葉には類書を抜くだけの迫力がある。楽曲全体の構成に向ける美意識、作り手の、音楽を作ることの姿勢にも意識の高さが窺える。その意識が、一定の質を保証している。けれどそうした意識が楽曲を平坦なものにしているようにも感じる。歌をうたい、音楽に踊るアイドルたちがまったく高揚していない点が、それらを裏付けている。

21位 幽体離脱と金縛り / STU48
3期生楽曲。アイドルの扉をひらいたばかりの少女たちに「幽体離脱と金縛り」について語り歌わせる。アイドルになるということは、自分ではないもうひとりの自分を作り上げることだと、音楽をとおして教えている。幽体離脱をして自分のことを眺める瞬間に「三人目の私」が生まれるという点にアイデアがある。


グループアイドルソングランキング 20位~11位

20位 好きになっちゃった / SKE48
SKEのレジティマシーである末永桜花がようやくセンターに迎え入れられ、その期待に見合うだけの音楽が編まれている。秋元康らしいワード・シチュエーションをちりばめた歌詞は、詩的世界と呼べるだけのものを眼前に広げる。歌詞の書き出し部分、音楽の冒頭部分は、たしかに胸が躍る。けれど書き出しに集中力を込めすぎて中盤から言葉がだらしなくなる。こうした点も、秋元康らしさにあふれている。気がかりなのは、前年度の作品と比べると、アイドルのパフォーマンスが全体的に落ちている点か。

19位 制服のパラシュート / 僕が見たかった青空
アイドルとの出会いを「奇跡」だと歌う。その出会いが初恋として描かれているところなどは、楽曲を演じるアイドルの現在と上手に合致している。

18位 おひとりさま天国 / 乃木坂46
一般的にネガティブとされるものであってもそこに「アイドル」が関われば天国になりえるのだという活力を歌う。歌詞、楽曲、ミュージックビデオなど、いずれも高い水準でまとめられている。乃木坂にしかできないことをやっている。ただ、日常生活のなかで、と言うよりも、アイドルを知ろうとする時間以外のなかで、この楽曲に触れようとする時間があるのかと云えば、ほとんどないように思う。

17位 Monopoly / 乃木坂46
片想いが育む妄想の爆発を記す。無償の笑顔をふりまくアイドル、たとえば賀喜遥香を前にしたファンの妄想の恋愛譚として見れば、興趣を誘う点が多々ある。『君の名は希望』の登場人物にこうした後日談を用意してしまうところに作詞家の俗悪さと無頓着さがある。

16位 青空について考える / 僕が見たかった青空
乃木坂46のライバルとして登場したグループのメジャーデビュー作品。ノスタルジーのなかにアイデンティティを探し求めなければならないという現代人の性(さが)を物語ることが新しく誕生したアイドルグループの成功条件になると確信する作り手の憧憬には、引き返すことのできない期待を抱く。センターの八木仁愛に限って云えば、もうすでにシーンにおいてトップクラスの表現力を備えているかに見える。

15位 いつの日にか、あの歌を… / 乃木坂46
歌詞に目を瞑れば(歌詞は歌詞で作詞家のナルシストな一面が現れていておもしろいとは思うが)、耽美的にクリスプを効かせる音楽は、なにがしかの季節の一篇になるだろうという予感をくれる。注目すべきは、やはり、センターで踊る小川彩になるだろうか。あたえられたモチーフのなかで自己の魅力を最大限に発揮し、音楽の価値を押し上げている。その輝き=才能が、すでに乃木坂の多くのメンバーを軽く凌いでいるという点は、楽曲のテーマから大きく外れてしまうかもしれないが。

14位 思い出尻切れとんぼ / 僕が見たかった青空
人ごみのなかで過去の恋人と偶然再会し、彼女にハグされる。そして、そこでようやく、本当に彼女を失ってしまったことに気づく、失ったことではじめて本当の愛を知る、という、現実ではなかなか起こり得ないロマンチックなシチュエーションのなかで、避けることのできない現実を投げつける。表題作において提示したテーマにも上手に応答している。

13位 心にもないこと / 乃木坂46  
過去の日常の些細な後悔の内に「青春」があったことを大人になってから思い知ったその感傷を、そのまま詩に起こし物語を作っていく……、秋元康らしさ全開の詩的世界を楽しめると同時に、鑑賞者もまた個々の「青春」に立ち還らざるを得ないような、幼稚さの魅力をそなえる作品。そうした詩を書くに至った原動力にアイドルの存在があったのだろうと妄想させるところも後味が良い。

12位 考えないようにする / 乃木坂46
アイドルシーンの最前線を走る若手アイドルの才能を十分に活かした、幸福な作品。考えないようにする、という、言語の成長を歌う。ビジュアル、歌唱力、演技力、ダンスのすべてに、伸ばされた個性がある。5期生楽曲の中では、いまのところこの作品が最も完成度の高い音楽を実現しているかに見える。

11位 僕たちのサヨナラ / 乃木坂46
秋元真夏の卒業センター作品。卒業ソング=アイドルのメモワール、という条件の中で、やりたいことをやりたいようにやっている。映像という乃木坂のアイデンティティを駆使し、乃木坂の回廊を描き出す。ある一人の少女が、一つのアイドルグループを通して、様々な人間の、雑多な夢と日々交わり自己を育んできたそのストーリーを音楽に高い純度で印す。つまずき、転びそうになる秋元真夏を支えるようにして他のアイドルが駆け寄り集結する歌い出し部分は、乃木坂の記憶と魅力を鮮明に映し出すと同時に、音楽的カタルシスを叶えている。この一曲をもって、乃木坂46の歴史のタペストリーをたどることが可能。


グループアイドルソングランキング 10位~1位

10位 静寂の暴力 / 櫻坂46
3期生楽曲。前作『夏の近道』に比べ、格段に良くなっている。グループの特質に合致したエクリチュールを若手アイドルが作り上げることで強く希望を印している。演劇とダンスの輻湊というアドヴァンテージを、若者の等身大の屈託を通して獲得している。この熱誠を前にして、同業の多くの若手アイドルが戦々恐々としたことだろうし、そうでなければアイドルには向いていないと思った方がいい。

9位 承認欲求 / 櫻坂46
若者の内面を代弁するという役割をアイドルに担わせることを、そのまま作品化している。けれど「承認欲求」という時代のタームに囚われすぎていて、若者の等身大をノートに写すことが時代を語ることになるという憧憬にねじれが生じてしまっているように感じる。本来は、若者を、つまりアイドルを演じる少女を語ることが、時代を語ることになる、つまり「承認欲求」をあらわすことになる、はずだ。おもしろいのは、時代を語ろうとする営為に衝き動かされて『承認欲求』を作り上げたことが作詞家もまた承認欲求の塊であることを裏付け、ほかの何にも増して「承認欲求」の逃れがたさを説明しているという点だろうか。

8位 飛ばなかった紙飛行機 / 僕が見たかった青空
タイトルに騙されてはいけない。パロディーの枠を抜け出て独自の音楽を奏でている。オールド・リライアブルに頼るという意味では、この楽曲もまた表題作のテーマにならっており、欲得をふり払って、「過去」の内に成長への推進力を求めている。ここでも八木仁愛の表現がずば抜けている。

7位 シーラカンス / 日向坂46
傘を持っている女性と雨宿りするという運命の不思議なシチュエーションを活用し恋愛の機微を歌うことが、アイドルという非現実的存在の出現を表現することにつながるという、離れ業を見せている。シーラカンスという過去でもあり現在でもある存在を、愛に、そしてアイドルにたとえながら真っ白のヴェールを身にまとった少女たちに青のイメージをつけていくことで、生身の人間がアイドルに変身する瞬間を描き出す。

6位 マモリビト / 櫻坂46
3期生楽曲。『静寂の暴力』からさらにスケールアップしている。アイドルの演技は、かなり芝居じみている。板の上に立つことの、デモーニッシュの風に吹かれてしまっている。その風貌は、マモリビト、という、神秘のイメージとはかけ離れたものだ。けれど一方で、そうした、演技へのチャレンジのなかで、つまり日常では絶対に作らないであろう表情を作り上げることで、アイドルが意図せず自分の本性を知ってしまったんじゃないか、というスリルもある。そのスリルは、感情に流されずに生きようとする大人には表現できないものだ。”新参者”のなかでは、この櫻坂の3期のパフォーマンスが随一で、『静寂の暴力』に次いで矢継ぎ早に握力の強い表現が示されたことは他のグループの若手に追い打ちをかけている。音楽のなかでしか生きた表現の魅力を出せないという、欅坂から櫻坂に収斂したグループの有り様を、この少女たちは然諾しつつある。

5位 桜月 / 櫻坂46
「桜」の集大成。桜とアイドルの美しさを、これ以上は望めないという情感の細やかさをもって描き出す。「あんなに美しい散り方ができたらな」、この羨望の一言に作詞家・秋元康と、その言葉の上で踊るアイドルの魅力のすべてが集約される。桜に佇む守屋麗奈の微笑は、これまでのグループにないものだった。

4位 Start over! / 櫻坂46
これを知ってしまったらもう他のアイドル作品では満足できなくなる、ような、異質な世界観に鎖されている。ただ笑えばいいと思っている凡百のアイドルを遠く置き去りにする神秘の笑顔を編む藤吉夏鈴のその演技力は、現在のシーンにあって白眉と云えるだろう。現実から離れた虚構にほんとうの現実があるとするその救いの表現が、私たちが実際に立つこちら側の世界の現実にたいしてほとんど影響力を把持しないという倒錯のアイロニーに、最も深い神秘性があるかに思われる。

3位 息をする心 / STU48
デビューシングル『暗闇』の世界観に還っている。詩人としての姿勢を構えた秋元康が「夢」を架け橋にしてアイドルの日常へと想到していくことで、絶対に不変であるべきはずの「夢」が暗闇に覆われたものに変わる。暗闇、と言うよりも、残酷さ、と言うべきかもしれないが。乃木坂46の『ここにはないもの』と同様のシチュエーションを用意したミュージックビデオに象徴されるように、同じ夢を見るにしても、それが乃木坂のアイドルであるのか、STUであるのかで、「アイドル」の先に見える夢の光量がまったく異なるという点に、今作品の見どころがある。ほとんど成功を約束されたアイドルの旅立ちよりも、高層ビルの隙間風にさらされ叶わぬ夢にもだえる少女の横顔のほうが、今日の、いや、これからのアイドルをリアルに映していると云えるかもしれない。アイドルを映す、ということは、その時代の多くの若者を映す、ということでもある。そしてこうした現実感覚に縛られた人間像をほぐし勇気をくれるものもまた「アイドル」なのだと教える今作品には、再聴への希求がたしかにある。アイドルの涙、笑顔、すべてが輝いて見える。

2位 想像のピストル / NMB48
恋愛、とりわけ片想いにおける若者のドラマチックな自暴自棄の感傷とその危うさを、詩的表現に満ちあふれた散文をもって透明な感性のまま印している。無力さの自白の裏に見え隠れする淡い希望が瑞々しい。音楽の純粋さにほだされていくアイドルたちの表情は、ほかに比べるものがない。

1位 笑顔のチャンス / STU48
青空にサーガを見出してきた秋元康の、最高傑作と言うべきだろうか。「空」や「笑顔」といった生きる上での寄す処をアイドルの魅力と響き合わせつつ、ノスタルジーという憧憬を、前に進むための希望にかえていく。書き出しの一行は、長編小説のような密度をもっている。その密度は、音楽と私たちの人生の時々とをかさね合わせてくれる。新しくシーンに出現した作曲家のその才能も、祝福したい。


 

2024/01/18  楠木かなえ