乃木坂46 思い出ファースト 評判記

「思い出ファースト」
楽曲、歌詞について、
3期生楽曲。3rdアルバム『生まれてから初めて見た夢』に収録。
恋の奇跡を歌っている。思い出せる恋をしよう、という楽曲があったとおもうが、要するにそれと変わらない。思い出が一番になるのだから、一番になるような思い出を作れるように生きればいい、ということを歌っているのだろう。愛とは許すもの、であるならば、愛とは許せてしまうものだ、という思考経験を得た結果、後日談のように『全部 夢のまま』が書かれた、と読み想像を膨らませるのもおもしろい遊びになるかもしれない。
ただ楽曲、詩情、ともに特筆すべき点は見当たらない。標準的なアイドルポップス、といった印象。
ミュージックビデオについて、
大園桃子の卒業(2021年9月4日)を機にミュージックビデオが制作された。楽曲の発売日が2017年であるから、4年の時を経て作品の映像化が叶った、ということになる。驚くべきは、歌唱メンバーが一人も変わらない、欠落がない、という点だろう。シーン全体を見回しても、これほど境遇に恵まれた「期」はほかにない。
映像作品そのものについては、試みそのものは『時々 思い出してください』『じゃあね。』と変わらず、グループにおいて慣習化された、アイドルの卒業を前にしてその死を想うといったコンテンツ作りに今作品も倣っており、メメント・モリをテーマに置いている。
手書きの手紙を渡されて涙を流す、夜空を見上げれば花火が打ち上げられまた涙する、そして手をつなぎあって思い出の歌を唄うという、なんだか不治の病におかされたヒロインの最後の一日を描いた感動ポルノのような、エンターテイメントに勢いよく倒れ込んだ映像が続き、苦笑するしかないのだが、そうした滑稽さ気恥ずかしさは、演じているアイドルが一番理解しているようでもある。青春というのはそういう過剰なものであるべきだろうし、青春がどういった価値をもつのか、アイドルを演じる少女ほどそれを理解し焦がれる存在はないだろう。だから意識的に「思い出」を作ろうとふるまえるわけである。作詞家の詩情を、映像作家、アイドルのそれぞれがしっかりと読めており、なかなか感心する。こういった、アイドルの死を描ける、他者に描かせてしまう、幸福で実りある時間を過ごせてしまう、というのはやはりそのひとに特別な魅力がそなわっているのだろう。
総合評価 55点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 10点 歌詞 12点
ボーカル 6点 ライブ・映像 13点
情動感染 14点
歌唱メンバー:伊藤理々杏、岩本蓮加、梅澤美波、大園桃子、久保史緒里、阪口珠美、佐藤楓、中村麗乃、向井葉月、山下美月、吉田綾乃クリスティー、与田祐希
作詞:秋元康 作曲:ミサマサカリヲ 編曲:遠藤ナオキ