STU48 青春各駅停車 評判記

「旅に出よう」
楽曲について、
5枚目シングル『思い出せる恋をしよう』のカップリング曲。
「青い向日葵」という、今村美月、榊美優、瀧野由美子、兵頭葵、福田朱里の5名で構成されたガールズバンドによって演奏される、ユニット楽曲。詩情、楽曲、ボーカル表現、その見事な構成力に対し正当な評価をうけていない。というよりも、多くのアイドルファンから批評の矢を浴びるためのステージに立たされていない。楽曲のクオリティに対する知名度の低さ、あるいは不遇っぷりから『青春各駅停車』は隠れた良作と形容すべきか。
歌詞について、
旅に出よう、という書き出しによって、未来に突き進む若者に向けた「夢」への活力を込めている。この歌詞に希求されるのは、その未来への活力を、「列車」に揺られる、過去に戻る旅へと出発した主人公=作詞家の回想による悔悟・療養にたよって描き出しているからだろう。列車というのは乗客の意思にかかわらず常に一方的に、一方向に走っていくものだが、この詩情ではそういった一方的な揺れを無視し、思惟の逆走を書いている。窓に映る景色が、進行方向に向かって現在とそのすぐ先に控えている未来を映すのではなく、過去の青春を映し出している。目的地への感慨を「未来」ではなく「過去」に置いている。陳腐さにおいて、啓蒙の魅力を抜群にそなえている。
ただこれも結局、すでに作詞家が持っている「活力」や「夢」への解釈に「列車」という工具を引用しただけの、いつもと変わらないカップリング曲であり、落胆させられる。
詩作にあたり、青春の反復を行う際、書くことによる思考経験によって「列車」がイメージされたのではなく、予め「列車」が準備されていた、という点を隠しきれていない。とにかく「列車」という工具とそれに付随するイメージのみに終始しており(たとえば、青春の回想でありながら「列車」から見えるはずのない風景は絶対に描かれない)、むしろこれは語彙の制限や繰り返し、またはクリシェというよりも、詩作をルーチン化した、いや、職業化してしまった人間の悲喜劇に映る。
とにかく一つの工具を用いて一曲書き上げなければならない、といったオブセッションに作詞家は駆られているわけだ。一つの工具をもって一曲仕上げてしまえる=多作を可能とすることが秋元康を作詞家たらしめているのであり、それができなければ作詞家としてのアイデンティティを喪失してしまうと確信しているかのように。
あるいは、『青春各駅停車』はカップリング曲/ユニット曲と考えれば文句なしのクオリティと云えるかもしれない。だが作品の質の高さをして、むしろ「カップリング曲だから」といったこれまでに無意識に許容されてきた妥協に一石を投じてしまったようにもみえる。カップリング曲であり文句なしの傑作であるならばこうした疑問は生まれないし、カップリング曲らしくそれなりの価値しかそなえていない楽曲もまた、こうした疑問を投げつけない。カップリング曲でありかつ「傑作」まであと一歩の距離にある、という愛惜の念を抱かせる作品を前にしてようやくこの疑問にタッチするのだ。
こうした感慨は、多くのファンに浸透すべきものであり、多くのファンが声をあげるべきである。それは、カップリング曲だからといって手を抜かせるわけにはいかない、というよりも、多作の達成という作詞家のきわめて個人的な事情によって、楽曲のクオリティが著しく引き下げられているかもしれない、という可能性を突きつけることで多作を困難なものに陥れ、詩作のルーチン化を邪魔し緊張感を与えるためである。
総合評価 68点
再聴に値する作品
(評価内訳)
楽曲 15点 歌詞 13点
ボーカル 16点 ライブ・映像 10点
情動感染 14点
歌唱メンバー:今村美月、榊美優、瀧野由美子、兵頭葵、福田朱里
作詞:秋元康 作曲:大河原昇 編曲:若田部誠