乃木坂46 平行線 評判記

「引き離されてく」
ミュージックビデオについて、
アイドルとしてのアイデンティティの成立過程をコミカルに描く。戸惑いや闘争の内包、ファンクションの倒錯、自分自身に追いかけられ、自分自身を追いかける。月並みな設定を置いても、そこにアイドルという「演技」がかさなると物語が生まれるのだから興味は尽きない。しかし目まぐるしく変わる場面展開の割に「絵」の代わり映えが乏しく、アイドル個々への演劇要求はたしかに見受けられるが、うまく応答していない。楽曲を演じる第三期生のある種の軽妙さと暗さが新鮮に映るのは、いや、映ってしまうのは、そこにアイドルとしての憧憬を見出すのと同時に、一抹の不安を抱かせる。彼女たちはアイドルとして架空の世界に足を踏み入れてから、一貫して同じ場所で踊り続けているように感じる。
歌詞について、
移動をしない「僕」の片想いではなく、移動をする「僕」の片想いを描くが、平行線というタイトルからもわかるとおり、何時まで経っても、どのように走っても、「君」との距離が縮まらないのだから、やはり、移動をしない恋=片想いという図式、憧憬が作詞家の根底にあるのだろう。一方で、引き離され、「君」が居ない駅という過去に毎日たどり着く能動的な日常や、独白のなかで神様と賭けをするような、傘をささずに雨空を見上げるような若者の妄執を描けているのは、乃木坂46の第三期生への写実意識のようなものがようやくあらわれた、その兆しと云えるだろうか。「平行線」が今後不吉な予言として、楽曲を演じた第三期生に重くのしかかるのではないか、と想像させる点は虚実と実情のバランスがとれている、と評価できる。
総合評価 56点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 10点 歌詞 13点
ボーカル 10点 ライブ・映像 12点
情動感染 11点
歌唱メンバー:岩本蓮加、大園桃子、久保史緒里、阪口珠美、与田祐希
作詞: 秋元康 作曲:近藤圭一 編曲:近藤圭一