乃木坂46 のような存在 評判記

「残ったのが」
歌詞、楽曲、ミュージックビデオについて、
仮構のなかに虚構を置いているのではなく、虚構にみえる真っ白な部屋も、真っ白な海辺も、すべて現実の出来事なのだろう。アイドルを無意識に現実と捉えることができるのは、作家自身、彼女たちと同じ目線に降り立ち、同じ架空の世界で日常を生きるからである。
「愛」のメタファーに氷を作るのならば、時間は一方向にしか流れない。一度壊れた花瓶が二度と元のかたちに戻れないのと同じように、溶けて水になった氷=愛もまた不可逆と呼べるのだろう。アイドルを演じる少女がこの詩に触れるとき、そこにはもちろんアイドルの寿命、つまり儚さが立ち現れる。齋藤飛鳥が指でなぞる氷はアイドルという偶像そのものであり、溶けてなくなった氷(地図を描く温い水たまり)とは”彼女たち”の残した物語そのものである。黒い扉を開き、内側と外側を行き交う「白石麻衣」と、真っ白な空間に匿われている「齋藤飛鳥」の対峙を想像するのも面白いだろう。架空の世界で暮す齋藤飛鳥にとって、明日は今日でしかない、という無感動の再現。読書によって得た知識で世界を体験して行くブッキッシュな生き方の再現など、「発見」の余地がきちんと作られている。構成自体はありきたりだが、歌詞と楽曲、ミュージックビデオがしっかりと向き合っているため、写実的なフィクションが成立している。ただし、ジェンダーの描き方に、グループアイドルに対する思い違いがあるようで、すこし痛々しい。
ボーカルについて、
2名のアイドルが備えた、豊穣な物語性のほとんどが毀されている。「個」の圧殺は成長共有の観点で致命的なあやまちに映る。円盤に保存される歌声からだってファンはアイドルの物語を読めるし読もうとしている、という点を作り手はもっと真剣に考えるべき。減点。
総合評価 56点
聴く価値がある作品
(評価内訳)
楽曲 11点 歌詞 13点
ボーカル 8点 ライブ・映像 14点
情動感染 10点
歌唱メンバー:白石麻衣、齋藤飛鳥
作詞: 秋元康 作曲:Akira Sunset、APAZZI 編曲:Akira Sunset、APAZZI