けやき坂46 東村芽依 評価

けやき坂46

 

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「夜のくもざる」

 

けやき坂46の、欅坂46からのカテゴリー分けを成功に導いた要因の一つに東村芽依の存在が挙げられる。
アイドル(文芸)という虚構(もうひとつの世界)の確立という観点で、東村芽依のそれは、同世代のアイドルのなかでは、きわめて成熟度が高いように感じる。

東村芽依が作り出した虚構は渡辺梨加や長沢菜々香が作り出す偏執狂的な世界観と似ている。独特なリアリティを含んだ虚構という点が似ている。しかし、両者には決定的な相違点がある。渡辺梨加や長沢菜々香の世界に触れる際に、避けては通れない感触として、不快感や異物感があるが、彼女たちと同じ属性を持つ東村芽依からは、なぜか、この不快感を受け取ることはない。むしろ、東村芽依の場合は好感すら抱いてしまう。この現象は偏在的傾向の普遍化という言葉にあて嵌めることができる。これは丹生明里齊藤京子と同様に、時代の要請に応える資質とも表現できる。この資質の表出が、けやき坂46が既存のアイドルグループには無い新しい色をパレットに生み、キャンバスに投げ落とすことができた理由だろう。

現代アイドルの第一印象が「声」になることは、多い。
「声」は個性として(才能として)発揮され、評価点につながる。その代表格に、現代アイドルならば齊藤京子の名が挙げられる。

匂いや音楽は、我々の季節の記憶を呼び戻す。音楽のなかには「声」も、もちろん含まれる。共時性やノスタルジック、デジャヴュなど、表現方法は複数あるが、”以前に何処かで聴いたことがある声”というのは、やはり、我々の意識を特別な感情のなかに落とし込み、そこで漂わせてくれるのだ。
東村芽依の声をはじめて聴いた時、島崎遥香の姿が頭に浮かんだのは筆者だけではないだろう。私は、そこから島崎遥香と東村芽依を繋げていくという作業をとらなければならなかった。似たような例として、前田敦子と岡部麟のシンクロニシティがあるが、岡部麟の場合は、アイドルとしての評価に影響することはなかった。ただ、似ているだけであった。東村芽依の場合はどうであろうか。それは、声質だけでなく、東村芽依の”アイドルとしての”立ち居振る舞いや仕草にも島崎遥香との共時性を感じた。共時性については河田陽菜の項ですこし触れた。

東村芽依のファンにとっては心外で、興味の範疇外にある話題かもしれないが、これは、アイドル史というものを長編小説として捉え、アイドルというコンテンツ全体の流れを愉しむファンにとっては、感興を呼び起こす視点になるだろう。また、アイドルをガイドするという筆者の立場からも、この視点で東村芽依を批評することは、避けられない所業である。

もし渡辺昇という人間がいなかったら、僕はおそらくいまだにあの薄汚い鉛筆削りを使いつづけていたに違いない。渡辺昇のおかげで僕はぴかぴかの新品の鉛筆削りを手に入れることができたのだ。こんな幸運はそうざらにあることではない。(略)
渡辺昇は流し台の排水パイプを修理しながら(彼は水道関係の修理屋なのだ)ときどきテーブルの上をちらちらと横目で見ていた。「ねえ、ご主人、その鉛筆削りいいですよねえ」とパイプの修理が終わった後で、渡辺昇は言った。「これ?」と僕はびっくりして、テーブルの上の鉛筆削りを手にとった。(略)
「それねえ、1963年型マックスPSDっていいましてね、けっこう珍しいものなんです」と渡辺昇は言った。(略)
「へえ」と僕は言った。そのようにして僕は新品の最新式の鉛筆削りを手に入れ、渡辺昇は1963年型マックスPSDを手に入れた。(略)
くりかえすようだけれど、こんな幸運は人生の中でそう何度もあるものではない。

(村上春樹「夜のくもざる」)

この鉛筆削り器の交換は、単なる物資交換ではなく、観念やイデオロギーというタマシイを入れておく為の筐体の交換である。タマシイが宿屋めぐりをする光景と云える。「僕」が「渡辺昇」から差し出され、手に入れた新品の鉛筆削りは東村芽依であり、「僕」が「渡辺昇」に差し出した鉛筆削りこそ島崎遥香に外ならない。このような光景は、アイドル界のみならず、文芸の世界ではありふれた光景である。しかし、これまでも、これからも、鉛筆削りで鉛筆を削るのは「僕」自身なのである。

東村芽依の仕草や立ち居振る舞い。これは、もし島崎遥香がAKB48を背負うという使命、重債を抱え込む必要がなく、自由に、生来の明るさというものが損なわれない境遇に置かれていたら、ニル・アドミラリに傾倒することなく、東村芽依のように笑い、泣いていたのではないか。それを惜しげもなくファンに届けていたのではないか。島崎遥香が自我を獲得する過程で消失した素顔を、アイドル史に書き残すことができなかった表情を、世代を経て東村芽依というアイドルが表現してくれているのではないか。そして、東村芽依がもしこの先、島崎遥香と同じような境遇(ファンの声量も含め)に置かれたら、それは島崎と同じように、日常的な笑顔を封印するアイドルに成長してしまうのではないか、という予感と胎動。このような、特殊な「if」を想わせるアイドルは稀有な存在として(文学的な資質の持ち主として)特別な視線で、注意深く観察する必要があるだろう。

 

総合評価 69点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 15点

演劇表現 12点 バラエティ 15点

情動感染 14点

けやき坂46 活動期間 2016年~

評価点数の見方