僕が見たかった青空 塩釜菜那 評判記
「グループの行く末をうらなう笑顔」
「わめいたってはじまらないわ」と彼女はいった。「それよりいろいろ考えなきゃ」
アラン・シリトー/土曜の夜と日曜の朝(永川玲二 訳)
塩釜菜那、平成14年生、僕が見たかった青空の第一期生であり、初代リーダー。
小畑優奈を連想させる、笑顔の魅力の濃く出たアイドルだが、「リーダー」という立場と、「考える」というグループの成り立ちのテーマがもたらしたのか、高橋みなみ、桜井玲香の衣鉢を継ぐ存在へと成長を遂げつつある。とりわけ、与えられた境遇に比して、大衆からの歓呼、という目に見える成果をなかなか得られないグループの現状から目を逸らすことなく正面から向かい合うその前傾姿勢、メンバー個々の魅力がグループの苦境を晴らすのだと考え、仲間の才能をだれよりも早く見いだし信じ抜こうとするその理想の編み方は優れて頼もしいものである。
その意味では、踊り子としての名声をほしいままにする八木仁愛とはまた別の地点からグループの扉口を開け放つ存在だと云えるだろう。しかし、なによりも目ざましいのは、そうした立場・役割を担ってもなお、グループアイドルとして、主人公感を枯らさずに、センターポジションへの当為をたかめている点である。
多くの場面で笑顔を忘れない、ともすれば笑顔に鎖された人物だが、それだけに、怒りを鎮めることのない笑顔を描くときもあれば、涙に変わりかねない笑みも見せる。心の曲がったところ、曲がっていないところ、どちらも見える。これをやって一体どうなるのか、将来への具体的な意味を見出すことのできないものを積み重ねていく時間のなかで、しかしその不毛さが夢を近づけるのだと理解に達した際に描かれる義務的な笑顔の内に、人となりをかいま見る。その笑顔の抑揚は、転じて、日常生活者がアイドルという非日常的な存在へと変身していく瞬間を、言い換えれば、グループの黎明期と成長期を克明に活写しているかに見える。
たとえば、彼女のダンスは全体的には粗がなく、まとまっているが、瞬間瞬間を切り取れば、笑顔に強張っていて、音楽の興を削ぐ。けれど、焦燥感や弱さの一切合財を排撃しようとするその笑顔が、夢見る少女たちが青春の炎をみたび灯すことで、アイドルへと、現実の表裏を焦がし幻想をつくる過程に現れるものの一部であることに気付ければ、「塩釜菜那」はグループの行く末をうらなったメンバーだと、固く確信することになる。
総合評価 71点
アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物
(評価内訳)
ビジュアル 16点 ライブ表現 13点
演劇表現 13点 バラエティ 15点
情動感染 14点
僕が見たかった青空 活動期間 2023年~