AKB48 柏木由紀 評判記

AKB48

柏木由紀(C)Billboard JAPAN

「30歳アイドル」

生きのびているというだけでも、不名誉なことのようだ。

大統領閣下、よいお旅を / ガルシア・マルケス

柏木由紀、平成3年生、AKB48の第三期生であり、11代目センター。NMB48、次にNGT48を兼任する。
「30歳アイドル」なる金字塔を立て、メジャーシーンに未知の領域を拓いた。評判どおり、かなりタフな人物である。キャリアハイを迎えた矢先、恋愛スキャンダルによって多くのファンを失い、アイドルとしての威勢を取り戻すことは二度となかったが、そうした「挫折」に圧し負けることなくアイドルを謳歌している。厚顔無恥に徹することが、情報化された社会のなかでアイドルを演じ続けることの”かなめ”だと、教えている。
アイドル自体に尽きない魅力があり、それがそのまま物語のボリュームに反映される。銭金を稼ぐための手段にアイドルがあり、都会の華やかな生活を維持するためにアイドルであり続けなければならない、よって物語が冗長を極める。柏木はつねに、前者であると同時に後者でもあった。いずれにせよ、あたらしいものを受け入れることができない一部の、しかしけして少なくはない数のファンにとって、彼女の存在は心を落ち着かせたようである。
厚顔無恥であることの弊害だろうか、紆余曲折に富むが、ドラマ性に欠け、当作を一つも持たない。前田敦子、大島優子、渡辺麻友に次ぎ、グループの一時代を築いたトップメンバーだが、代表作と真に呼べるものが一つもない。用いる言葉に社会性がなく、とりわけアイドルの当事者として「アイドル」を語るその思料は10代の少女のように夢見がちに無垢で、未成熟で、幼稚である。アイドルのまま大人になってしまった人間の不気味さ、ある種ヌエ的イメージを、タブロイド思考に体現するという意味では、なるべくしてトップアイドルになったのだろうし、「アイドル」の魅力を作品をとおして伝えきれなかったこともまた、当然の結実に思う。
柏木由紀がトップアイドルであることの証はもう一つある。それは「ダンス」である。15歳でデビューしてから卒業するまでの17年間、つねにアイドルシーンの最前線に立ち続けることができたのは、踊りにおいて飛び抜けた才能を有していたからに相違ない。アイドルをロードムービーにして描き出す彼女のダンスは、たとえばニュージャックスイングのように身軽で、身体を揺らすことで自らを慰めている。この熟練された表現力を超えることが果たして若手に可能なのか、という意味では、次世代を生きる多くのアイドルに試練を課している。

 

総合評価 71点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 17点

演劇表現 13点 バラエティ 15点

情動感染 14点

AKB48(NMB48、NGT48) 活動期間 2006年~2024年