日向坂46 大野愛実 評判記

「イリス・ゲルマニカ」
……コンナ夢ナラ、モット早ク、シカモ簡単ニ見ルコトハデキナカッタノカシラ。コノツマラナイ女ニオ言葉ヲカケテ下サロウトイウゴ決心ノツクノガ、少シ遅スギタヨウネ
トーマス・マン/魔の山(高橋義孝 訳)
大野愛実、平成19年生、日向坂46の第五期生であり、9代目センター。
すでに「歴戦のアイドル」とも言うべき風格を示している。フランス的な香気ではなくドイツアヤメに端を発した『ジャーマンアイリス』『クリフハンガー』をもって、坂道グループにおける日向坂46のあり様を変え、ある種の派生でしかなかったグループが「坂道」の正統であることを決定づけたという一点において、またそれをデビュー1年にして引き受けた、担いきってみせたことで、大野は強い主人公として屹立している。
特筆すべきはやはり、感情の抑制と抑揚を裏返したその歌声はもちろん、作品単位で云えば、たとえば『ジャーマンアイリス』において「初恋」を音楽という叫び声のなかで見事に再演したその踊りを見てわかるとおり、並外れて優れた演技力にあるだろう。本能の領域で人を衝き動かすものを、自分の持っている言葉のなかで考えなければならないのが恋であり、初恋は、そうした事態への第一歩であるばかりでなく、大人になって、初恋を想うことでようやく、人はその事態の半ばに立ち、その問いの厄介さに打ちのめされるのである。『ジャーマンアイリス』や『クリフハンガー』における大野の表現は、その問いに否が応でも直面させるが、大野自身が本能と理知の中間に漂って見える点が、なによりも彼女をアイドルたらしめているのである。生まれながらの、より本能的な、しかし理知的でさえあるその幻想的な動き、つまりラテンのごときその踊りを眺め、考えてしまうなかで、アイドルのことを知ろうとしてしまう、彼女の歌った花の名を、そのラテンの名をもとにジャーマンアイリスの意味をつい突き詰めようとしてしまうのだから、この少女は鑑賞者の中で、つまり私のなかで、生まれながらにアイドルなのだ。
儚さというのは要するに、あのとき手を伸ばせば手に入っていたかもしれないという可能性に打ちひしがれることではないだろうか。だから、眼の前で崩れ去っていくものに美しさを想わずにいられないのだ。こうした思考を与えるのが大野愛実であり、それは星辰をかき消す踊り子として、真の表現者と呼ぶに値する。
総合評価 87点
現代のアイドルを象徴する人物
(評価内訳)
ビジュアル 18点 ライブ表現 19点
演劇表現 20点 バラエティ 12点
情動感染 18点
日向坂46 活動期間 2025年~


