乃木坂46 川﨑桜 評判記
「尊大さをこめた、秋波を送る」
エレナは自分はこれまでに人に媚びらしい媚びを示したことはなかったように思う。が、アディーナを励ますつもりの言葉が、彼女への負い目のせいか媚びの調子を帯びているのに気がついた。
河野多惠子/後日の話
川﨑桜、平成15年生、乃木坂46の第五期生。
しかし、あらためて眺めてみても、初めて目にしたときと変わらず、つまりいつ見ても、息を呑むほどに美しいアイドルである。気位が高く、本人の意思にかかわらず、大衆に誤解され、憎悪を買ってしまう点も、相変わらずのようである。素性が、こころの深い場所に落ち、消滅しないまま、玉石を混淆させているところが、並外れている。
その意味では、「アイドル」に周波数を合わせ生まれながらの個性を均すことが自己の発見につながると固く信じる中西アルノの失敗、混迷したアイドルシーンの瑕疵を際立たせる存在と呼べるかもしれない。川﨑は、生まれ持った美点をなにひとつ損なうことなくファンに秋波を送る。時代が違えば、その美貌、その尊大さをして、多くの騎士を跪かせていたであろう宮廷的アイドルが、この現代でアイドルになったことで、自己の生活とは無縁であったはずの群衆に向け秋波を送ることになった、という感慨は、現実からきわどく離れた幸福感を覚える。
『新参者』を経て、コケットな踊りを完成させたことが、まずひとつ、大きな成長、大きな到達点だろうか。生来の、澄みきった空気感の内にコケティッシュをみなぎらせたその踊りは、元来、踊り子が音楽を通し観客にあたえるべきもの、動かすべき感情の在処を、教えてくれる。アイドルはやはり、ステージ上で、あでやかに美しく、可憐で、儚く、魅惑的に振る舞うべきなのだ。川﨑桜には、そのすべてが揃っている。踊りのどの場面を切り取っても文句なしに美しいし、また場面ごとに相貌の異なった美を描き出す。媚びることで「アイドル」の一面を理解するだけでなく、それを隠された自分の魅力として発散してしまえる点に、この人の才能の片鱗を見る。
果たしてこの逸材を今後どうするつもりなのだろうか。と云うか、この逸材を料理してみせる手腕、才覚、大衆に逆らうことのタフさ、モチベーションをもった作り手が、はたして現在のシーンに存在するのだろうか。
総合評価 74点
アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物
（評価内訳）
ビジュアル 18点 ライブ表現 16点
演劇表現 13点 バラエティ 12点
情動感染 15点
乃木坂46 活動期間 2022年～
