グループアイドルソング ランキング 2023

特集

(C)息をする心 ミュージックビデオ

「2023年アイドル楽曲ランキング」

真夜中は僕だけの時間だ
もう誰も眠ってしまうがいい

秋元康/息をする心

2023年のアイドルシーンを一言で表せば、長かった夢の終わり、となるだろうか。
AKBグループにあっては、実に80名以上のアイドルがその物語に幕を閉じた。西の雄に馳せた渋谷凪咲をはじめ、田中美久、中井りか、瀧野由美子など、それぞれのグループで一時代を築いたトップアイドルたちがその役目を終え現実に還っている。もちろん、シーンから去ったのはトップアイドルだけではない。卒業・辞退を発表したメンバーのほとんどが、志半ばでの挫折であったことは想像に難くなく、とくにAKB48にあっては若手、ベテランを問わず41名ものアイドルが夢の世界から矢継ぎ早に姿を消すという、泡沫を描いている。かつてはアイドルシーンの主流とされたグループが、今、大きな岐路に立たされている。
一方、坂道シリーズに目をやると、卒業者は3グループ合計で9名。10にも満たない。同じアイドルシーンにあって、明暗を分ける結果になった、と断言して良いだろう。
けれど、その明暗が、各グループから生み出される作品つまり音楽の質をも分けてしまったのか、と問い嘆くのならば、けしてそんなことはない。人気があるから質の高い音楽が編まれる。質の高い音楽を作れるから人気を博す、といった循環が現実問題としてあることは否定できないけれど、2023年に限って云えば、乃木坂を相対にしたワンオブゼムが完成したシーンにあっても、音楽だけは大衆人気に左右されない場所に置かれている、ような気がする。皮肉的な物の見方をすれば、乃木坂という圧倒的な存在を前にして、各グループが、意識的にしろ、無意識にしろ、音楽の純粋さに立ち返ろうとした、ということなのかもしれない。
終わりがあれば、始まりもある。アイドルシーンに新しく誕生した、僕が見たかった青空、は、乃木坂とその他大勢という構図に生じたそのひずみに勝機を見出したかのように、レトロパッケージにアイドルを観照する、非常な期待を抱けるグループだ。アイドルの魅力に浸りたければ、アイドルから差し出された音楽に、アイドルによって表現された世界に、ただ身を任せればいいのだという憧憬に、立ち返っている。


グループアイドルソングランキング 118位~101位

118位 お別れタコス / 乃木坂46
作品と呼べる水準に達していない。

117位 全力反抗期 / AKB48
映画『ガールズドライブ』の主題歌。大人に反抗すること、自己の殻を破ることに「成長」を見出し遠吠えする。しかしアイデア自体は過去の作品、言うまでもなくマジすか学園シリーズの使いまわしであり、その意味ではまったく殻を破れていない。アイドルの表情・表現も似たりよったりで、正直、見分けがつかない。

116位 愛をもらったこともあげたこともない / STU48
池田裕楽のソロ楽曲。古臭い演歌にしか聴こえない。

115位 Da Re Da / AKB48
耳障りでしかない音楽・言葉が延々と流される。

114位 羊飼いよ / 乃木坂46
夜更けの確信をそのまま音楽にかえてしまったような作品。

113位 ジンクスとゲンカツギ / NMB48
言葉の用い方が、だらしない。

112位 僕たちは裏切った / HKT48
青春の駘蕩(たいとう)をアイドルに投げることが、むしろ病的に健全に見えてしまうのはなぜだろう。

111位 待ちやがれ! / HKT48
イントロには、引かれるところがあるのだけれど……。

110位 手ごねハンバーグ / 乃木坂46
愛をハンバーグに喩えて歌ってみた、ただそれだけの歌。

109位 コンビナート / 櫻坂46
かなり痛々しい時代錯誤の言葉を書き連ねている。「愛のコンビナート」と叫ばれて、失笑しない人間が果たしているのだろうか。

108位 愛はこっちのものだ / 日向坂46
ベテラン・アイドルの手による楽曲にしては、ほとんど見どころがない。高本彩花、東村芽依のふたりが並んだ、という構成にたいしてかろうじて面白味を感じる程度。

107位 踏んでしまった / 乃木坂46
音も、映像も、どうしようもなく安っぽい。乃木坂であればどれだけ質の悪い音楽であっても一応の作品にはなるだろうという作り手の驕りが透けて見える。

106位 さざ波は戻らない / 乃木坂46
すべてが物足りない。幸か不幸か、アンダーの実力と楽曲の質が一致したことで今後の課題を提示している。

105位 自販機と主体性 / 日向坂46
哲学者ぶってみたくなった作詞家の、衝動の痕跡。

104位 スタイリッシュ / 乃木坂46
言葉のセンスを欠いている。スタイリッシュというタイトルが割りに合わない。

103位 マンホールの蓋の上 / 櫻坂46
力みすぎ。

102位 アイドルなんかじゃなかったら / AKB48
アイドルを演じることの屈託を、当事者であるアイドルに歌わせた。とはいえ歌詞そのものはひどく陳腐で、ありきたりなシチュエーションしか準備できていない。これでもかというほどに陳腐な恋愛譚に終始する。テーマを穿つに、アイドルの秘めた素顔を描き出す必要があったはずだが。音楽の希求にも乏しい。踊りにおけるアイドルの表情、ミュージックビデオにおけるアイドルの演技、いずれも拙く、露ほども神秘を含まない。「アイドルなんかじゃなかったら」と歌うからには、楽曲を歌い演じる人間がアイドルとして文句なしに成立していることが大前提となるはずだが……。

101位 クラクションで I love you ! / HKT48
クラクションにまつわる日常の記憶を、あれこれ恋愛に結びつけ歌っている。


グループアイドルソングランキング 100位~91位

100位 Done / NMB48
アルバム『NMB13』のリード曲。キービジュアルとしての山本望叶の個性を活かそうとする意気込みは伝わるが、如何せん土台となる音楽に個性がないため、失敗している。

99位 命を懸けろ / NGT48
表題作『あのさ、いや別に…』の創作過程における作り手の熱量をひとしきりノートに移したかのような楽曲。表現の誇張があまり上手くいっていない。

98位 Never say never / 乃木坂46
典型的な応援ソング。切り口があまりにも古く、アイドルのパフォーマンスも粗が目立つ。

97位 命の冒涜 / 乃木坂46
出身地で歌唱メンバーを縛るという変わり種。テーマが壮大に過ぎるのか、あまり壺にハマっていない。

96位 マグカップとシンク / 乃木坂46
音楽、アイドルのパフォーマンス、いずれも散漫な印象。映像作品は、都会に暮らす若者の泡沫を丁寧に描き出せているが、ラストシーンですべてぶち壊しになる。

95位 愛してるって言われたことがない / SKE48
タイトルに書かれたセリフをそのままに、思春期の若者の型どおりの苦悩をポップに歌う。何の変哲もないアイドルソング。

94位 友よ 一番星だ / 日向坂46
影山優佳が得意とするサッカーの語り口を用いて応援ソングを作った、というだけの代物。音楽も、映像も、すべて既存のサッカー観に学んだものとなっている。

93位 パクチー ピーマン グリーンピース / 日向坂46
料理からだって人生の教訓を学べることを、アイドルに表現させてみた。

92位 接触と感情 / 日向坂46
アイドルコンテンツに恋愛をあてこすっているだけ。

91位 助手席をずっと空けていた / 乃木坂46
「車」にまつわるシチュエーションを羅列しただけ。


グループアイドルソングランキング 90位~81位

90位 In any way / AKB48
いわゆる、AKB48のアンダー楽曲にあたる。”アンダー”に寄り添った、発揚を詩情にあわせる。

89位 青春フルスロットル / HKT48
『クラクションで I love you ! 』とほとんど同じアイデアを使いまわしている。同作と比べれば、こちらのほうがまだ音楽として結構しているように感じる。

88位 Wonderland / AKB48
SURREALの第二弾。前作に比べ失敗しているのは、目新しさを狙っているのにどこにも目新しさがない、という点になるだろうか。

87位 パレオはエメラルド(2023) / SKE48
同グループの過去作品『パレオはエメラルド』をリメイクした。順位闘争の場を用意する、というアイデアが先行しすぎていて、作品の完成度へはほとんど意識が向けられていないように見える。

86位 君の瞳に感電中 / SKE48
研究生楽曲。『New Ager』に続き原優寧がセンターに選ばれた。作り手の期待感の高さが窺える。

85位 神様も呆れるくらいに / STU48
絶対に自分からは行動を起こさない「僕」という主人公を描き続けてきた秋元康の、その個性、悪癖を思う存分楽しめる作品。タイトルの語感はかなり良い。

84位 ドローン旋回中 / 櫻坂46
「ドローン」に着想を得たことで、作詞家の思惟が迷走している。

83位 誰かの肩 / 乃木坂46
乃木坂らしい自己啓発感を、乃木坂らしく遠回りにして歌っている。

82位 100年経ったら Kiss me! / SKE48
パロディとも呼べない、ただの思いつき=悪ふざけ。ミュージックビデオは、雰囲気を濃く出している。

81位 Enjoy無礼講! / NMB48
細かなトレンドをちりばめ、今どき感の中にNMBっぽさを見つけようと作り手のそれぞれが奮闘している。たしかに映像に象られたその世界はポップだが、いずれも音楽の魅力には貢献できていない。


グループアイドルソングランキング 80位~71位

80位 黄昏はいつも / 乃木坂46
遠藤さくら、井上和のユニット楽曲。楽曲を演じる両名のアイドルにあるはずの個性がどこにも出ていない。心の琴線に触れるものが一つもない。

79位 その日まで / 櫻坂46
菅井友香の卒業センター作品。アイドル・メモリーの詰め合わせ。

78位 職員室に行くべきか? / NMB48
お決まりの「大人への反抗」がテーマ。思春期特有のシチュエーションを探るなかで、職員室のドアを開ける瞬間の緊張感を成長の襞(ひだ)として描き出す点は感服する。同様のテーマを扱った作品と比べても、今作品は飛び切りに情緒的に見える。けれどそうした着眼点が作品の完成度に貢献しているかと言えば、そんなことはなく、作品は、タイトルに示されたもの以上でも以下でもない。そもそも、現在のNMB48を通して「大人への反抗」を表現する意味が窺えない。

77位 寝たふり / AKB48
テレビ企画から派生したユニット楽曲。「デザート」を題材にするが、やや味気ない。

76位 君はもっとできる / HKT48
矢吹奈子の卒業に照らし合わせ「夢」への活力を歌った、応援ソング。音楽、映像作品のいずれも、これといって工夫がなく、類書を抜け出ない。

75位 Anthem time / 櫻坂46
毒にも薬にもならない、安心して聴ける一曲。

74位 確信的クロワッサン / 櫻坂46
クロワッサンにかぶりつく君、という、細部への異常なこだわりを、愛することの「確信」にかえる。要するに、BACKSメンバーなるアイドルたちのことを励ましているのだろう。その点ではきわめて陳腐な音楽に感じる。アイドルへの励ましが一般生活者への励ましへとすり替わるような試みがあれば、ファンの声価もまた違ったものになったかもしれない。

73位 今さら道頓堀 / NMB48
楽曲そのものは、身も蓋もなく、語るに足りぬ、と云うしかないが、ステージの上で昭和に返り咲いたアイドルたちは他の作品では表現し得ない妖美さをまとっている。

72位 僕たちの La vie en rose / 櫻坂46
想像力を働かせた歌詞・音楽に見える。けれどその想像力の幅はきわめて狭いものであったようだ。アイドルの歌唱もまた、想像力を試さない、きわめて軽いものだ。

71位 恋は逃げ足が早い / 日向坂46
ミュージックビデオは、とても作品とは呼べない、かなりいびつな映像となっている。思いつきとその興奮を作品と呼べる水準に押し上げるのがプロだと思うが。ただ仲間内で盛り上がって終わるだけのものでは作品とは呼べないだろう。音楽は、映像作品とは背馳して一定の水準に結構している。


グループアイドルソングランキング 70位~61位

70位 僕はもう少年ではなくなった / NGT48
昔好きだった「彼女」の成長した姿を前に自分が大人になってしまったことを知る、というストーリー仕立てのなかで、綿飴やヨーヨー、花火といった「夏祭り」の小道具をふんだんに用いてNGT48のもつ土着のイメージへと結びつけている。タイトルへの回帰が、こじつけた感を否めない。

69位 そういうことFebruary / HKT48
書き出しにおける季節の情景化など、音楽には多少見どころがあるけれど、アイドルのパフォーマンスには楽しめるところが一つもない。ただただ幼稚にしか見えないし、幼稚であることの魅力も感じない。

68位 恋のヘタレ / NMB48
詩作を通して「大阪の女」を勉強しているのだろうか。歌詞は目も当てられないが、それを口ずさむアイドルの表現には多少なりとも味がある。

67位 語り合うことから始めよう / SKE48
映像作品における演技、ダンス、また映像そのものの質は、同シングルに収められた作品のなかではこれが一番良いと感じた。踊りのなかでドラマを作っていく、という姿勢がグループの特質に呼応している。

66位 知ったかぶりのその下に / AKB48
18期の旗手である新井彩永がセンターに立った。若手のアイドルに無限大の可能性を投影し、希望を歌う、無垢さにあふれた一曲。

65位 Do the dance! / AKB48
17期、18期生で構成された、研究生楽曲。日常を一変させる出来事への予感を、ダンスに求め踊り始める。表題作『アイドルなんかじゃなかったら』と比べれば、こちらのほうが構成に瑕疵がない。アイドルの表情も良い。とくに太田有紀の可能性を披見する。

64位 角田浜にて / NGT48
同シングルに収められた『僕はもう少年ではなくなった』の前日譚のような趣をもった作品。3期生が歌い演じることの意味合いが生じている。間奏が心地いい。

63位 一瞬の馬 / 櫻坂46
テーマ・設定はひどく紋切り型ではあるけれど、アイドルの表現の強靭さがその退屈さを打倒している。

62位 You’re in my way / 日向坂46
窒息しそうなアイドルの表現を、やはり窒息しそうな音楽がカバーしている。

61位 あのさ、いや別に… / NGT48
中井りかの卒業センター作品。徹底して、既存のアイドル観に収まること、たとえばキューティな世界にアイドルの王道さがあるのだという確信に一貫している。その王道さが、楽曲を演じるアイドル、とくに中井りかのサーガのことごとくを看過してアイドルらしいポップスを作ることが「中井りか」の窃視につながるという屈折の末に完成されたものである点に、今作品の特筆がある、と極褒めすべきだろうか。けれどそうやって現実を忘れることに拘り、理想を叶えた王道さが、たとえば前作『渡り鳥たちに空は見えない』のような活力を発揮しているかと問えば、そこまでの効力はないように思われる。


グループアイドルソングランキング 60位~51位

60位 思い出が止まらなくなる / 乃木坂46
標準的であろうとすることがそのまま楽曲のクオリティとして表されている。

59位 最高に下品なアタシ / NMB48
小嶋花梨のソロ。アイドルのメインストリートから外れ、踏み込んではならない禁域にぐんぐんと侵攻して行くことの滑稽さを、滑稽なものに落とさず、ダイナミックでスリリングな作品へと仕上げている。

58位 君は僕を覚えてるかな? / AKB48
ノスタルジーのなかで、かつて片想いをした少女のことを思い浮かべ感傷に浸る主人公。構図はこれまでと変わらないが、今作に特徴があるとすれば、片想いにひしがれた「僕」の記憶がそのまま「君」の魅力の記録になるのだという妄想の飛躍にあるだろうか。アイドルとファンの構図を上手に活用している。

57位 青春のラップタイム(2023) / NMB48
グループの過去作品を現行メンバーの手によって一新した。作品の特性を損ねることなく現行メンバーの個性を打ち出している。「過去」を現在に表すという試みに成功している。

56位 楡の木陰の下で / STU48
別れを無垢で美しいものとして過剰に描く。その反動もあって、楽曲が懐に忍び込まない。

55位 涙の滑り台 / 乃木坂46
公園の滑り台をソワレにして佇む思春期の若者の横顔を、各期の最年少メンバーが並び、歌い踊り演じる。演劇の意識に立った小川彩の表情、歌声が特に素晴らしい。

54位 風の音 / 櫻坂46
『10月のプールに飛び込んだ』においてプールに飛び込んだ主人公を教室の窓から眺めていたクラスメイト=末端的登場人物を主眼に置いた、ある種小説における人物の再登場の技法を想わせる群像劇を音楽のなかで実現している点は、秋元康ならではと言ったところか。歌唱メンバーもその世界観に即したアイドルが選ばれている。脇役だった少女たちの逆境に焦点を当て物語を起こすことが、かつての主人公の存在感をより強める結果にしかつながらない点は、皮肉的な結末と云える。

53位 Don’t cut in line! / 櫻坂46
順位闘争に臆病になった若者を奮起させるような音楽を書いている。『確信的クロワッサン』と同様に、これもアイドルへの啓蒙の域を抜け出ないが、アイドルに向けて示された活力に便乗できる箇所もあるにはある。

52位 愛のひきこもり / 日向坂46
風に吹かれ肩の力が抜けたのか、恋愛にたいする作詞家の皮相が見て取れる。

51位 ガラス窓が汚れてる / 日向坂46
欅坂46という、もはや借り物でしかない世界観のなかで大人への反抗を踊る。河田陽菜、この人はこんな終わり方をして良いアイドルなのだろうか。