乃木坂46 松尾美佑 評判記
「生まれ持った笑顔の名手」
松尾美佑、平成16年生、乃木坂46の第四期生。
ビジュアルは、これぞ乃木坂と呼ぶに相応しい水準にある。4期では、賀喜遥香に次いで、生まれ持った笑顔の名手。カメラの前でも、ステージの上でも、どのような場面においても飾り気のない、雪の透明感にあふれた、甘く割れた笑顔を鳴り渡す。ダンスもできる。生来の笑顔とは裏腹の、日常と地続きにされたヒューモアに見る明るさに暗がりがあることを、言葉・文章によって感情表現できるアイドルで、その行動力がダンスに活かされ、独特な雰囲気を作っている。自身、初のセンターを務めた『踏んでしまった』では、そうした特徴が作品を支えることに成功した。ビジュアル、多様性、ダンスと三拍子揃ったメンバーへと成長した。
けれどアイドルとしての成果は今ひとつで、メディアにおける情報量も乃木坂の一員にしては、かなり乏しい。実際に、ライブステージ上で彼女が飛翔した場面を思い起こし、指を折ってもすぐに詰まってしまう。
笑顔は、文句なしに魅力がある、と断言できる。それだけに、折を見てはファンに向け語ってきた心の赤裸々な部分、いわば人としての本性、松尾美佑自身が自覚するある種の弱さ=月並みであることの可能性を、「笑顔」が打ち消してしまう場面が多い。この人は、笑顔であるときと、そうではないときとで、印象が様変わりする。笑顔になると、すこぶる華やかだが、そうではないときは、ほとんど、窃視すべきものがない。それはやはり、笑顔を捨てた際の顔貌が、ひどく平坦で、なにも表現されていないように感じるからだろう。
日常の立ち居振る舞い、仕草、言動を眺めるに、松尾美佑は人間味の裏返しとしてのインモラルに個性を占められるアイドルだと感じるが、笑顔になることで生来の暗さ、惨めさ、卑しさなどの本音の数々が、意図してか、あるいは、まったくの不可抗力か、上手に隠れてしまう。その意味では、おなじ笑顔の名手でも、笑顔を作ることが素顔の提示につながる賀喜遥香とは似て非なる存在と云える。この点が、トップアイドルとの差になる。
遠藤さくら、賀喜遥香、森田ひかる、藤吉夏鈴、山﨑天を輩出した難関のオーディションに合格するも、辞退。その後、研修生として再び姿を現したそのストーリー展開からもわかるとおり、恋い焦がれたものがいざ眼の前に置かれるとサッと手を引き込めてしまうような、現実にたいして臆病な人、なのかもしれない。
転じて、その臆病さは、乃木坂46というグループの強大さ、壁の高さを、相対として、想わせなくもない。進学校のなかでも特に優れていた人物が、超名門校に入学した結果、自分が凡人であったことを悟る、ような。
これだけ高い水準にあるアイドルであっても、そのキャリアのほとんどがアンダーで占められている現実は、同業の多くのアイドルに乃木坂の層の厚さを知らしめ、絶望させることだろう。
総合評価 63点
アイドルとして活力を与える人物
(評価内訳)
ビジュアル 13点 ライブ表現 13点
演劇表現 12点 バラエティ 13点
情動感染 12点
坂道研修生 活動期間 2018年~2020年
乃木坂46 活動期間 2020年~