乃木坂46 佐々木琴子 評判記
「アルカイック・スマイル」
そういうときの彼女は、冴えた鋭い頭の働きによっていっさいの形式的なものを超え、物事の本質を見抜くことができるのだと思われた。少なくともアウレリャノ・ブエンディア大佐の意見はそうだった。彼に言わせると、小町娘のレメディオスはみんなの考えているような鈍い人間ではなくて、まったく逆の存在だった。「二十年も戦場で戦ってきた人間のようだ、この子は」と、大佐はよく言った。
ガルシア・マルケス/百年の孤独(鼓直 訳)
佐々木琴子、平成10年生、乃木坂46の第二期生。
平成年間を通し、純潔をそなえた唯一のアイドルであり、清楚、古拙、逸材といった、アイドルを賛美する際に用いられる形容辞のあらゆる観点において最高到達点と云える。と同時に、アクチュアルさにおいても並みなみならぬ傾倒に至った少女で、常に「理」の側に立ち、アイドルを前にしたファンの幻想、理想を打ち砕いてきた。自身のファンのみならず乃木坂46の歴史に立ち会うアイドルファンのすべてに落胆をあたえてきた。
このひとは、とにかく現実的・常識的である。常識の通用しない夢の世界において、しかし常に常識を求め、自身もまたそう振る舞おうとする……、これはやはり「アイドル」に夢見た少女が、その夢の破断を目の当たりにした際の、反動の物語と読むべきなのだろう。だが佐々木琴子には、そうした類型に収めることができない転向があるようにおもう。幻想に対し現実を持ってその当否を問うという彼女の一貫した姿勢の内には、むしろ現実への強い名残を見るからだ。アイドルを演じる日々のなかで、すでに、アイドルにならなかった自分の人生を想い、「アイドル」への反動を抑えきれず抱いてしまうというそのストーリー展開は、乃木坂46の物語の、一つの主流を決めているし、ともすれば、それは今日のアイドルシーンを生きる少女たちのイコンですらある。
とはいえ、他人に対しても、自分自身に対しても、まったく嘘をつくことができない、クルミのような硬さとは、ほんとうの夢を誤魔化さない、本音を果敢に守ろうとする少女の素顔と云えるかもしれない。趣味が高じて「声優」を志す。この行動力からは、やはり、芸能の世界を生き抜くであろう資質を感受してしまう。
いずれにせよ、前田敦子、西野七瀬を凌ぐ資質の持ち主がセンターポジションはおろか、表題曲の歌唱メンバーにすら一度も選抜されないまま十代の物語を書き終えてしまった。アイドルファンはこの事態をどう捉えるべきか。「覚醒」への期待感そのものがアイドルのアイデンティティになりつつある。この佐々木のストーリー展開をまえにして、一体なにをおもうべきか。アニメ以外にこの逸材をつき動かすものはないのだろうか。
平成が終わり、令和が始まった現在も、そのたぐい稀な美貌が吸い寄せるアナザーストーリーは桁違いの厚みを作っており、その堆く積み上がった、どうやってもふりはらうことのできない偶像を前に、口もとに微かな笑みを浮かべ沈黙する少女を前に、ファンはもだえ苦しむしかない。
総合評価 -点
測定不能
(評価内訳)
ビジュアル 20点 ライブ表現 -点
演劇表現 -点 バラエティ -点
情動感染 -点
乃木坂46 活動期間 2013年~