「アイドルの値打ち」を書き始めて7年経ちました

「乃木坂46 5期生 総評」
僕が「アイドル」に向け文章のようなものを書き始めたのは、約7年前、2018年の2月頃だったと記憶している。これは以前にもなにかの記事で語ったが、「アイドルの値打ち」を立ち上げる前に僕は、「はてなブログ」というサービスを利用して、アイドルに向けて文章のようなものを、書いていた。いくつかの記事が、ニュースサイトに取り上げられるようになったのを見て、手応えを感じ、サイトを立ち上げるに至ったのだが、実際には、「アイドル」を書くことのスタイルが、ある程度、自分のなかで確立できたのは、2022年の終わり頃だと思う。評判記というスタイルをとった文章を書き続けるためのフォーム、要するに文章力にかかわる問題と、それとはまた別に、アイドルを語る、アイドルを考えるうえで養われるアイドル観、その両点において、毎回とはいかないけれど、調子が良ければ、一筆書きで文章を作れるくらいのリズムを得たのはサイトを立ち上げてから約5年、2022年だったと記憶している。こうした個人的な事情も相まって、2022年にデビューを飾った乃木坂の5期生には、ほかのアイドルにはない思い入れが、確かにある。自分の思うままにアイドルを語れるという情況のなかで、アイドルシーンにおいて最高峰のシュトゥルムとも言うべき少女たちがデビューしたことは、一種のカタルシスを僕にもたらしている。とりわけ中西アルノの登場は、僕のなかで信じるアイドルの魅力というものを決定づけたかにおもう。
月日が経つのは早いもので、5期生のデビューからもう3年。今、アイドルシーンは、6期生のデビューで話題が持ちきりのようだ。それは、とても健全な光景であるように思う。6期生の登場に、ファンのそれぞれが、それぞれに複雑な感情を抱き、興味を宿せばやどすほど、それはそのまま5期生たちが次代を担う少女たちにバトンをうまく渡せたということを意味するからだ。5期生が期待どおりの、あるいは期待以上の活躍をしたからこそ、6期の登場が話題になるのだ。「アイドルの値打ち」もまた、つまり僕の関心もまた6期生に向かいつつある。
おそらくは、もし今後、5期生の面々をデビュー当時の熱量で語る機会があるとすれば、それは彼女たちの卒業の報に触れた、その日になるはずだ。もちろん、あたらしい楽曲をとおして彼女たちを語ることはあるはずだけれど。というわけで、一旦ここで、6期生加入という区切りをまえに、5期の面々を短く、総評しておこうとおもう。3年間で、彼女たちをどう結論づけたのかを、簡潔に、たとえば、今、彼女たちの最新の評判記を書くならどのようなタイトルをつけるのか、という視点で。最近は、いかに文章を短くするか、注意を打ち込んでいる。江藤淳が、歳を重ねると文章が長くなると嘆いていたが、これは普遍的な問題であったのだと深く感心している。若者のあいだでTikTokなるものが流行るのも当然というわけだ。
五百城茉央
素朴なのに 、エロティック。
池田瑛紗
アイドル界の、 栗本薫。
一ノ瀬美空
笑顔は、一級品。
井上和
名実ともに、乃木坂のセンター。
岡本姫奈
バレエに、すがりすぎ。
小川彩
君がほんとうの、アンファン・テリブル。
奥田いろは
かぼちゃプリンを、忘れるな。
川﨑桜
アイドル界の、マリー・アントワネット。
菅原咲月
実直さが、美貌を蝕む。
中西アルノ
のぎざかに、ほだされる。
冨里奈央
野心に、自惚れる。
と、さすがにこれだけでは物足りないと感じたので、これまでに発表された5期生楽曲の中から、僕のお気に入りの作品を3つ、挙げてみようと思う。いずれも、長い時間にたえ得るアイドルソングと言えるだろう。
絶望の一秒前 ☆☆☆
アイドルを人生の夜明けとして詠いあげる、4期生以降の乃木坂のテーマを踏襲した作品。デビュー直後、自身の過去に足をつかまれるメンバーが続出した点に鑑みて、やや出来すぎではあるが、現実をフィクションが先取りした作品だと、評価できる。今、見返すと、映像にしてもパフォーマンスにしてもかなりキズがあるように感じるが、それは彼女たちがこの作品後に大きく成長したという意味でもある。
考えないようにする ☆☆☆☆
音楽的な魅力と、アイドル個々の魅力が上手に合致した幸福な作品と言えるだろうか。青春の答えを探ろうとする少女の内向の目線を、生き生きと描き出している。後日、乃木坂の5期を振り返った際には、おそらく多くのアイドルファンが、この楽曲をピークと捉えるのではないだろうか。
心にもないこと ☆☆☆☆☆
日常の些細な場面、だれの身にも起こるちいさな、しかし取り返しのつかない後悔のなかに青春があるのだということを歌った、秋元康らしい一品。そうした後悔=青春を探り当てる原動力としてアイドルが活用されている点、つまりアイドルが音楽に生きている点が、なによりも特別な興味をいだかせる。
2025/02/09 楠木かなえ