AKB48 大和田南那 評判記

AKB48

大和田南那(C)音楽ナタリー

「小さな軍靴」

大和田南那、平成11年生、AKB48の第十五期生。
逸材感、という話題性、つまりはアイドルの内に秘められた可能性の一点においては、AKB48の大きく長い物語に登場したアイドルのなかでトップ3に入るのではないか。その容易には計ることができない、強い憧憬の原動力となるもの、それはやはり彼女が生まれもつビジュアル、その輝きだろう。
このひとは、魅惑されざるをえないビジュアルの持ち主である。キュートだが、反動的に見えるし儚さもある。強さと弱さを混交している。笑顔にも、遠くを見つめる横顔にも、どこか翳りがあって、高貴な者、に見える。グループアイドルとは、往々にして、そのビジュアルの内にどこか凡庸なしるし、要するに弱点を持つものだが、大和田にはそれが一切ない。まさしく寵児と呼ぶのに文句なしの登場人物である。
大和田は、まさしく、AKBグループの最盛期に収穫された果実にほかならず、アイドル・大和田南那の誕生、その鮮烈さは、同時代・同世代に出現したもうひとりの逸材、小嶋真子というアイドル史に転換点を刻み込む才能すらも、脅かし、喰らってしまう勢いであった。小嶋真子が歩む深い森、その隘路への扉をひらく衝動をあたえたのは間違いなく大和田南那だろう。グループの趨勢そのものを一新するであろう存在感を放つ大和田南那の前を走ることになったアイドルの苦悩の色は、底が見えないくらいに、濃い。
とはいえ、大和田南那のグループアイドルとしてのストーリーはけして豊穣とは呼べない。
13歳でAKB48の門をくぐり、17歳でその物語に幕を閉じる。表題曲の歌唱メンバーに選抜された回数はたったの3回。当然、センターには一度も立っていない。きわめて早熟タイプの逸材に思うが、グループの作り手にとっては、将来のセンターを約束した、大器晩成の人、だったのか、その悠長な構えに耐えきれず反発するように、大和田自身の行動によって、アイドルの可能性のすべてを破断してしまった。万能感を携えた少女特有の粗暴さ、暴君然とした立ち居振る舞い、たとえば大島涼花との稚気など、ファンのまえで惜しげなく自身の情動を披露する、衝動的なアイドルだったが、村山彩希や小嶋真子など、自身がその才能を認める存在に対しては、従順な尊敬、尊重を示すなど、健気な一面をもっていた。
大和田南那のような逸材が「グループアイドル」に憧れる、それはつまりAKB48の黄金期を意味し、その大和田南那がアイドルとして大成せずに失敗に終わってしまったことはAKB48の衰退と索漠、その兆しを象徴する出来事だ、と遠大に表現することが可能かもしれない。
グループの新生と人心を一新させる、未来と希望を背負い込んだこの”若き新皇帝”に訪れた悲喜劇に満ちた顛末は、AKB48の物語の大きな端境期と扱い、読むべきかもしれない。

ティベリウスの死去とカリグラの登場を、ローマ帝国の中でもとくに本国イタリアと首都ローマの住民たちは、長く沈鬱な冬の後の春の訪れのような喜びで迎えたのである。七十七歳の老皇帝の後を継いだのは、二十四歳と七ヶ月の美しい若者。…人心の一新にも、二種類がある。危機状態からの脱出を願って求める人心の一新と、さし迫った必要はないにかかわらず、単に変化を求めるがゆえの人心の一新である。前者の場合、求める人々の気分は幸せでなく余裕もない。反対に後者の場合は、幸せだし余裕もある。カリグラの登場を迎えた人々の気分は、後者であった。

塩野七生「ローマ人の物語・悪名高き皇帝たち」

坂道シリーズのブレイクによって”落ち目”になってしまった今日のAKB48ひいてはAKBグループの惨状からは、とても信じがたいが、当時、大和田南那という”若き新皇帝”の誕生はまさしく「さし迫った必要はないにかかわらず、単に変化を求めるがゆえの人心の一新」の効果を持ち、ファンはまだまだ「幸せだし余裕もあ」った。たとえば、HKT48の宮脇咲良の出現、他のグループの若手にAKB48のエースを名乗られる、これはたしかに屈辱だったかもしれない。しかしグループの衰退、崩落を持ち堪えようとする支柱の損壊=脅威には映らなかった。なぜなら、小嶋真子、岡田奈々、西野未姫の3名が”三銃士”として、AKB48の正統性をそなえた希望の子供としてすでに屹立し、未来のエースとして強く胎動しており、さらにはその上に大和田南那という寵児が出現し、かさなったのだから、向かうところ敵なし、である。
”小さな軍靴”と呼ばれ、住民に愛された皇帝カリグラの無邪気な行動は内側でも、外側からさえも、笑って許された。「一般市民たちは、文句なく大歓迎だった。彼らの間ではいまだに根強い『ゲルマニクス神話』」=黎明期のAKB48で物語られた群像劇の再来に期待をしたのだ。他のグループから”出張”をしてきたアイドルにグループのエースの座を奪われた屈辱感を晴らす、芝居じみたエンターテイメント的な救世主の登場。AKB48の血を引くアイドルによって、大政奉還が成される光景をファンは恋い焦がれたのである。それほど大和田南那という存在に対する期待感は大きく、斜陽を予感させるグループの光であり未来であった。*1

しかし、外敵の恐怖もなく、内側に脅威を感じることもなく、贅の限りを尽くし、愚政と裏切りを繰り返した皇帝カリグラは、ある祝祭の最中、昼食のために席をたち、皇宮に向かう途中、自分の身を護ってくれるはずである近衛軍団の大隊長(カリグラの父親に忠誠を誓いローマの為に戦った老兵である)に斬り殺されてしまう。国家を護るための所業であった。「カリグラと通称されたガイウス・ユリウス・カエサル・ゲルマニクスの統治は、三年と十ヶ月と六日で終わった。」大和田南那がAKB48のオーディションに合格し、卒業発表をするまでの期間は、三年と十ヶ月と十日であった。*2
大衆にとって、カリグラの死は一刻も早く忘れたい出来事であった。期待や喜びを裏切られたときの、大衆の反動は凄まじい。彼らはカリグラの石像を破壊してまわり、その全てを河へ投げ捨てた。大和田南那の卒業=アイドルとしての失敗も、多くのファンにとって、意識の外側に放り投げ忘れてしまいたい物語となった。
この、膨大な可能性を秘めながらも境遇に甘え、負け、忘れ去られたアイドルとよく似た、他人のそら似を想わせる少女が、後日、AKB48のライバルである乃木坂46の物語の上に誕生したことは、皮肉と云えば皮肉か。

 

総合評価 58点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 15点 ライブ表現 9点

演劇表現 9点 バラエティ 12点

情動感染 13点

AKB48 活動期間 2013年~2017年

引用:*1*2塩野七生「ローマ人の物語・悪名高き皇帝たち」

2022/04/20  大幅に加筆・修正しました

 

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