グループアイドルソング ランキング 2022
「2022年アイドル楽曲ランキング」
最近の僕は空回りしながら壊れて行く
秋元康 / 絶望の一秒前
2022年のアイドルシーンを一言で統括すれば、希望との遭遇、となるだろうか。
アイドル=乃木坂46、つまり完成された美しさのなかに、久方ぶりに、あたらしく、「人間」が放り込まれた。数えると、11人。生身の人間がどのような美をまとっていくのか、という、あたり前の関心、あたり前の興味をふたたびシーンに呼び覚ましたこの少女たちの横顔こそ「希望」にほかならない。
もちろん、希望の捉え方あり方は、一つではない。シーンの衰弱に抗う手段・存在、危機意識として姿かたちを現したのが中西アルノならば、その劇薬の悲痛さに耐えうるだけの活力を付与するものとして準備されたのが賀喜遥香であり、どちらも「希望」であることに相違ない。
とくに中西アルノの存在感、剥き出しにされた人間性に見出す異質さを神秘性へと塗り替えてしまうその存在感にはたじろぐものがある。この少女が乃木坂のなかでどのように過ごすのか、どのように生き抜くのか、どのようなアイドルになるのか、という興味、尽きない関心をもし貴方も抱いたのならば、それはまさしく「成長」の魅力に触れた瞬間と言えようか。アイドルと聞けば判で押したように、成長物語が云々かんぬんと唱えるけれど、その「成長」の魅力に貴方は今、直に囚われている。
最近、私がアイドルソングを聴くのは、こうした、個人的感情・思惑を通しアイドルを語らう時間のなかでのみ、であり、趣味つまり息抜きとしてアイドルに触れるという純粋さを失ってしまったことに気づき、途方に暮れている。とはいえ、そうした気分にあっても再生ボタンを押したくなる楽曲とはどれか、つい考えてしまったり。さらに云えば、秋元康の編み上げる幼稚な歌謡曲を前にして、不意に、我に返る。言い逃れできない幼稚さに溺れ自己と自己が興じていることの虚しさ。そんな瞬間をファンのだれもが経験するはずだが、そうした後ろめたさのなかで拾い上げた楽曲に価値を見出すことは、空回りに映り滑稽だろうか。
以前、私の知己が「批評家は自分のことを棚に上げる生き物だ」というようなことを言っていたけれど、おそらくこれは文壇に生きる作家の言葉を引用したものであり、それがだれだったか、気になり、自室の本棚と、書庫を往復すること3時間、ようやく発見した。柄谷行人の言葉だった。
音楽は、触れるたびに表情を変える。日々、自分の表情が変わっているのだから、あたり前だ。はじめて作品に触れた際の感慨が翌日にはもう変わってしまっている、なんてことは、ザラだ。だからといって、そのたびに批評を書き直す、なんて愚かな行為は取らない。批評がフィクションつまり作品である所以がここにもあるのだが、アイドルの値打ち、で例えれば、低い点数を付した楽曲であっても、気づけば毎日のようにその楽曲を繰り返し聴いている、という経験は、これまでにも数多くある。
こうした経験、「私」が「無私」に負けていく事実を私に突きつけるのが、私の愛用する音楽プレーヤーに記録された再生回数であり、今回もまた、このきわめて個人的な記録を頼りにして、グループアイドルソング ランキングを作ってみる、ことにした。対象は、AKB48、SKE48、NMB48、HKT48、NGT48、STU48、乃木坂46、櫻坂46、日向坂46、吉本坂46の計10グループから2022年に発売された楽曲、計103タイトルとする(櫻坂46のアルバム『As you know?』に収録されている『Overture』は除外)。
また、音楽プレーヤーの再生回数を頼りにする、と宣言したものの、実際には、シングル、アルバムの発売日の都合上、再生回数だけではどうやってもフェアにはかれない事情がある。よって再生回数=順位とするような、安直な行い、は退けている。この「アイドルソングランキング」は2019年から継続してきた遊びだが、これまで同様、この楽曲は季節の記憶になり得るのか、という視点をもっとも重視する。
季節の記憶、これは要するに、日常の様々な場面で不意に音楽や匂いが鼻をかすめた際に、過去が呼び覚まされノスタルジーに浸る、あの瞬間のことを指す。音楽制作に携わる者をして、自身の作品が鑑賞者の内で「季節の記憶」として抱きしめられること以上の喜びはない、はずだ。
順位付けするにあたり、対象の楽曲をあらためて、もう一度、すべて聴き返した。ミュージックビデオが制作されているならば、当然、それにも目を通し、場合によっては批評の根幹にした。
グループアイドルソングランキング 103位~91位
103位 ホンマにサンキュー / NMB48
言葉の越えてはならない一線を越えてしまっている。
102位 パッションフルーツの食べ方 / 乃木坂46
冗談にしてはセンスがない。
101位 孤独な瞬間 / 日向坂46
齊藤京子のソロ。詩的世界、アイドルの歌声、音楽のすべてが時代錯誤にしか見えない。
100位 壊さなきゃいけないもの / AKB48
岡田奈々のソロ。歌唱力コンテストの優勝者として、制作にあたった。類型的アイドルイメージのなかで、やはり類型的な歌唱をもって、アイドルが歌を唄っている。アイドルの表現力、とくに演技力の拙さ古臭さが目につく。グループの今後の課題に、演技、があるのではないか。しかしソロ楽曲になると、途端に、アイドルたちがその魅力を消却してしまうのはなぜだろう。才能が明かされてしまう、ということなのだろうか。
99位 誰を殴ればいい? / 吉本坂46
吉本坂ならばこれを書いてもいいだろう、といった気分の弛緩が、作品を退屈なものに仕上げてしまっている。政治家、というワードを目にしただけで、興がそがれる。
98位 HEY!OHISAMA! / 日向坂46
あられもない詩情の垂れ流し。
97位 アンジー / AKB48
歌詞の一つの解釈として、バブル時代の世相を映したビデオが編まれた。アイドルに向ける作り手の眼差しが空転している。楽曲の価値を自らの手で損なっている。
96位 10秒天使 / 日向坂46
どこにでもある、ありふれたアイドルソング。
95位 ジャンジャン / NMB48
アンダー楽曲。アイドルらしい幼稚さに護られ、「夢」を歌っている。
94位 ポニーテールをほどいた君を見た / STU48
タイトルどおり、ポニーテールをほどいた君を見た際の「僕」の驚きを歌っている。
93位 真夜中の懺悔大会 / 日向坂46
フォークロアのようなもの、を打ち出すも、これといって印象に残る場面なし。
92位 挑発の青空 / NMB48
ダンステクニックを琢くことが、イコール、楽曲を演じ表現することになるわけではない、という当たり前の事実を簡明に証す。ただダンスが上手いだけでは、鑑賞者のこころを揺さぶることはやはりできないだろう。
91位 断絶 / 櫻坂46
シチュエーションは目に浮かぶが、言葉の審美に欠け、聴くに堪えない。
グループアイドルソングランキング 90位~81位
90位 その他大勢タイプ / 日向坂46
タイトルを裏切らない作品、としか言いようがない。
89位 スワンボート / NMB48
よくあるシチュエーション、を用意したにしては、共感できるところが一つもない。
88位 One-way stairs / 櫻坂46
音楽として、まったく楽しくない。
87位 I’m in / 櫻坂46
楽曲に触れることでアイドルの横顔を喚起させる、という”狙い”があるのだろうか。だとすれば、安易。
86位 Loss of time / AKB48
夜明け、希望など、シーンにおける流行りの言葉をちりばめるが、詩情の内に主体的イメージをひとつも見ない。なによりもアイドルのボーカル表現の息苦しさに辟易する。
85位 制服の人魚 / 櫻坂46
こうした、少女の屈託の歌、を聴き共感した「少女たち」はもうすでに大人になってしまったのではないか。常に少女の共感を誘いたいのであれば、やはり常に瑞々しい感情を印さねばならないはずだし、その歌をうたうアイドルもまた選別しなければならないはずだ。少女の屈託を歌った楽曲を、大人になってしまったアイドルが、やはり大人になってしまったファンに向け演じ歌うというその状況は、どうしようもなく幼稚で、前を向けていない。
84位 車間距離 / 櫻坂46
表現、にチャレンジするとき、ダンボールや袋を頭に被せる人間があとを絶たないのはなぜだろう。文学・小説の模倣と言うのならば、紋切り型の想像力、としか返しようがない。
83位 深読み / 乃木坂46
作詞家が、得意の「開き直り」をしている。比喩に疲れ呆れることさえも、書くことの材料にしてしまうのだろうか。
82位 恋した魚は空を飛ぶ / 日向坂46
遊び心はある。
81位 運命の歌 / AKB48
「歌」への情熱が遠大にすぎ、幻想的でもないし、リアリティもない。
グループアイドルソングランキング 80位~71位
80位 Sure、じゃあね / STU48
この恋愛譚がステレオタイプに映るのは、男が想像する女性の思惟、でしかないからだろう。
79位 ビーサンはなぜなくなるのか? / HKT48
詩作にあたり、小道具を用意し、そこから妄想を育むことの成り行きがそのままタイトルにあらわれている点はおもしろいが、肝心の音楽に希求されるところが一つもない。
78位 どうしようもないこと / NGT48
失った恋人を想うことではじめて愛を知る、という、とくに目新しさもない、お決まりの恋愛を記している。やはり、主人公の「僕」は同じ場所に立ち止まったままだ。
77位 もうこんなに好きになれない / 日向坂46
言葉、音楽、アイドル、いずれもクリスプさに欠ける。
76位 タイムマシーンでYeah! / 櫻坂46
ついに、タイムマシーンに乗ってしまった……。
75位 恋が絶滅する日 / 櫻坂46
言葉の間断のなさが感情の横溢を叶えている。
74位 元カレです / AKB48
秋元康の内で「AKB48」が自分の知らないなにかに変わることの、過去に愛したものが否応なく他人化していくその様子を「恋愛」の枠を立て歌っている。センターの本田仁美にまったく魅力を感じない点、才能のないアイドルたちが、才能をもたないことを表現しているだけにしか見えない点に鑑みれば、秋元康の「加担」から逃れ出たアイドルの行末として、興味深いものがあるにはある。
73位 自然渋滞 / NGT48
アイドルの歌声に看過できないキズがあるように思う。音楽の上で閉脚している。
72位 好きだ虫 / NMB48
グループ内選挙、のような企画を経て「選抜」が組まれた。タイトルは、矜持を振り捨て迷走するグループに向けた皮肉なのだろうか。
71位 臆病なナマケモノ / AKB48
手に入れたいと渇望していたものが、いざ手に入ると、途端に億劫になる、という抑えがたい幼児性を描いた書き出し部分には目をみはるものがある。アイドルのライブ表現も幼稚さに溢れている。その魅力の是非はともかく、AKBらしさ、に触れることは可能。
グループアイドルソングランキング 70位~61位
70位 充分、しあわせ / HKT48
絶対に移動をしない「僕」の一つの境地にすら見える、私情によった詩情。
69位 仲間よ / SKE48
アンダー楽曲。アンダーメンバーに、仲間よ、と歌わせる求道の倒錯よりも、北野瑠華がアンダーに甘んじていることに驚かされる。
68位 その日まで / 櫻坂46
菅井友香の卒業ソング。典型的な、アイドルの卒業作品。
67位 甘いエビデンス / 乃木坂46
マイナーポエットへの無関心に徹している。こういった詩が時代を迎え撃つと考えているならば、大きな勘違いだろう。
66位 ずっと 春だったらなあ / 櫻坂46
可もなく不可もなし。春、桜、に向ける期待感には応えていない。
65位 チョコレートで眠れない / NGT48
中井りかプロデュース「CloudyCloudy」の最新作。前2作品と比べると「アイドル」があまり充実していない。
64位 悪い成分 / 乃木坂46
タイトルがすべてで、それ以外に語り口にすべき内容を持たない。
63位 じゃないロマンティック / SKE48
若手アンダーメンバーによる楽曲。演技はともかく、やはり踊りにはしっかりとした下地があり、他のグループと比較すれば卓抜している。とくに杉山歩南の表情・笑顔が素晴らしい。
62位 一生一度の夏 / 日向坂46
海にまつわる小道具を寄せ集め、なんとか夏の恋を描いてみた、ようだ。
61位 電線は消えても / SKE48
プリマステラの新曲。今回は「電線」を頼りにして青春の回想を試みている。
グループアイドルソングランキング 60位~51位
60位 秘密日記 / NMB48
梅山恋和の卒業ソング。卒業ソングとして見れば平凡で、類書を抜かない。
59位 わがままメタバース / AKB48
リアルとバーチャルの混合ユニット、という時勢に対する過敏さが生み出した、非現実的な作品。想像の可能性、と歌うが、肝心の作り手が想像力を働かせていない。音楽そのものはテーマに即した雰囲気をそれなりに出している。
58位 Under’s Love / 乃木坂46
イントロを前に期待・予感するカタルシスに一度も遭遇することなく、音楽が鳴り止み、肩透かしを食う。
57位 片想いフォーエバー / SKE48
アンダー楽曲。ここにも北野瑠華を見つける。
56位 悲しみの浄化装置 / HKT48
最上奈那華のソロ。粗雑、未熟だけれど、音楽の上でアイドルが奔放に生きているように見える。
55位 久しぶりのリップグロス / AKB48
前作『元カレです』から詩情を地続きにしている。「過去」になってしまったものへの愛着という意味で多くのファンが『ポニーテールとシュシュ』への自己模倣を見出したが、詩情そのものは『最後のTight Hug』における詩作、そのアイデアの踏襲・流用であり、『最後のTight Hug』と比べれば、こちらはただの独り言にしか見えず、それはやはり、ある壁を前にして、そこを貫通するのではなく、ただ立ち止まり、青春を回想しているだけに過ぎないからか。
54位 New Ager / SKE48
原優寧・センター作品。タイトルどおり、次世代の胎動を描く。
53位 僕のジレンマ / 櫻坂46
なんでもないもの、たとえば、平板で無害な詩であってもそれをアイドルが口ずさんでしまえば、そこに情動が宿る、という意味でなら、たしかに「僕のジレンマ」がそこにあるのかもしれない。
52位 しそうでしないキス / NGT48
アルバム『未完成の未来』のリード曲。坂道、という図式に囚われ過ぎているのか、なにを伝えたいのか、表現に触れても、いまいち、いや、まったく、見えてこない。坂道、を反復することの意義が活かされていない。ダブルセンターという構図になにがしかの意味を付けようとする、ドラマチックなものに仕上げようとする姿勢には意欲を感じる。
51位 夏の“好き”はご用心 / STU48
音楽、アイドルのライブ表現、ともに最後まで鑑賞させる力を一応は把持している。
→ 次項に続く