欅坂46 サイレントマジョリティー 評判記
「誰もいない道を進むんだ」
ミュージックビデオ、楽曲について、
欅坂46のメジャーデビューシングル。センターは平手友梨奈。
不作為に生まれたとしか思えないその音楽が、これまでのアイドルシーンには生まれ得なかったもの、たとえば、自己劇化によった、フィクションの内に現実を理解する理想高き少女と結びついたことで、アイドルシーンにおける既存の価値観、アイドルとは幼稚なものだとするその価値観の支柱を打ち砕き、アイドルの枠組みを大きく抜け出るような鮮烈さ、ここから新しいなにかがはじまるのではないか、たしかな胎動を伝える。
横断歩道に並ばされた20人の、かなり不揃いの、その少女たちの横顔は、これまでのアイドル的群像のボーダーを越えたさきにあるものを、語るのではないか、予告している。背後に指し示された歪曲。その不吉さ、不気味さもまた、底の知れない、未知なるものの誕生を予言している。この光景をして、後日、アイドルに興味を持たない多くの少女たちに「グループアイドル」の扉をひらくきっかけをあたえた。
歌詞について、
大衆を迎え入れようとする行為が、むしろ大衆を遠ざけしてしまう。しかしまた、これを称賛するのも大衆であるという、大衆との対峙と啓蒙を成し遂げた今作品は、作詞家・秋元康にとって一つの境地に達した瞬間、と捉えるべきだろう。大衆との対峙、つまらない大人、想像力を欠き、夢をもたない大人との対峙を描くことで、その当事者である大衆から揶揄を投げつけられると同時に、その大衆にまだ加わらない大衆つまり夢見る若者に支持を得て、絶大な影響力を示した点に鑑みれば、詩作にあたり青春を回想するその行為のなかで若者の視点に立つことが、若者の側に立つ、という意識を育み、作詞家の思惟そのものを若返らせているかに見える。
しかし今作品の最も強い効力、見どころとは、自分がいつのまにか夢をもたない人間=大衆に与してしまうことに怯える作詞家の自意識の過剰さと、それにじかに触れた鑑賞者もまた、自分がつまらない大人=想像力を欠いた大衆に囚われているのではないか、想到させる動揺にある。
少女の夢に向けた啓蒙と抱擁を記した『夕陽を見ているか?』以降、つねに自己の青春を反復してきた作詞家の内に堆積されたイノセンスの結晶として『サイレントマジョリティー』がある以上、この詩が書かれなかったら今作品はこれほどまでの成功を収めることはなかった、と断言すべきだろう。
まず間違いなく後世まで語り継がれる傑作を生んだことの、その達成感が大きすぎたのか、わからないが、以後、欅坂46というアイドルグループの中でアイドルを演じる少女に向けられる詩情、作詞家・秋元康の啓蒙は、すべてこの『サイレントマジョリティー』に帰結することになる。
歌唱メンバー:平手友梨奈 渡辺梨加 渡邉理佐 今泉佑唯 織田奈那 上村莉菜 尾関梨香 小池美波 小林由依 齋藤冬優花 菅井友香 鈴本美愉 長沢菜々香 守屋茜 志田愛佳 米谷奈々未 石森虹花 佐藤詩織 土生瑞穂 原田葵
作詞:秋元康 作曲:バグベア 編曲:久下真音
引用:見出し、 秋元康 /「サイレントマジョリティー」
2023/04/01 編集しました(初出 2018/07/16)